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論文紹介〜心房細動のある超高齢者に対しての抗凝固療法について~

心房細動を有する超高齢患者さんに対しての脳卒中予防の抗凝固療法は出血リスクも高く、日常診療で導入や継続に悩むことが多いです。今回は心房細動を有する超高齢者の抗凝固療法にまつわる論文をご紹介します。

K. Okumura, M. Akao, T. Yoshida, et al.
Low-Dose Edoxaban in Very Elderly Patients with Atrial Fibrillation
N Engl J Med. 2020 Aug;383:1735-45. PMID:32865374

【背景】超高齢の心房細動患者において脳卒中予防のための適切な経口抗凝固薬療法を行うことは, 出血の懸念から難しい課題です。

【方法】製造企業から研究助成を受けて研究者らは、脳卒中予防として承認された用量での経口抗凝固薬療法が適切でないとされた非弁膜症性心房細動を有する日本人の超高齢者(80歳以上)を対象に、1日1回エドキサバン15mgの投与とプラセボ投与とを比較する第3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照イベント主導型試験を実施しました。有効性の主要評価項目は脳卒中または全身性塞栓症の複合とし、安全性の主要評価項目は国際血栓止血学会(ISTH)の定義に基づく大出血としました。

【結果】984例がエドキサバン15mg/day投与群(492例)とプラセボ投与群(492例)に1:1の割合で無作為に割り付けました。681例が試験を完了し、303例が試験を中止しました(158例が同意の撤回、135例が死亡、10例がその他の理由で中止)。試験を中止した患者数は両群間で同程度でした。
脳卒中または全身性塞栓症の年間発症率はエドキサバン投与群で2.3%、プラセボ投与群で6.7%でした(ハザード比0.34、95%信頼区間[CI]、0.19~0.61、P<0.001)、大出血の年間発症率はエドキサバン投与群で3.3%、プラセボ投与群で1.8%でした(ハザード比 1.87、95%CI 0.90~3.89、P=0.09)。消化管出血の発生数は,エドキサバン投与群がプラセボ投与群よりも大幅に多かったです。どのような原因による死亡でも両群間での有意差は認めませんでした。(エドキサバン投与群では9.9%、プラセボ投与群では10.2%、ハザード比 0.97、95%CI 0.69~1.36)。

【結論】
日本人の非弁膜症性心房細動患者で、標準的な経口抗凝固薬の投与が適切でないとされた超高齢者を対象に、1日1回15mgのエドキサバンを投与したところ、脳卒中や全身性塞栓症の予防効果はプラセボ投与群よりも有意に優れており、大出血の発生率はプラセボ投与群よりも有意に高いとは言えませんでした。
(第一三共が出資、ELDERCARE-AF ClinicalTrials.gov 登録番号NCT02801669)

【まとめ】
この論文は日本人で脳卒中予防のための経口抗凝固療法が不適当とされる超高齢患者さん(80歳以上)を対象に、低用量のエドキサバンを投与したという大変興味深い内容です。今後非弁膜症性心房細動を有する超高齢患者さんに対する経口抗凝固療法の適応も変化してくるかもしれませんね。
とはいっても実際の患者さんへの適応については、超高齢者は同年齢でも個々の患者さんによって併存疾患や現在の状態、周囲の環境などが大きく異なるので、それらについて十分に検討し判断することが非常に重要であると考えます。

(文責:原田愛子 飯塚病院総合診療科)

※当記事の内容は、所属する学会や組織としての意見ではなく投稿者個人の意見です。記事の内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません。
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