九相図

小町九相図がわたし的には一番有名なのだけれど。

今年の夏も暑かった。そして弟が突然いなくなった夏も。もう一つ伯父が亡くなった夏も残暑が厳しかったと記憶している。

弟は「生きる」ことに執着が薄かったと思う。
若い頃から「四十には死ぬ」、等と嘯いていた。

妻子もないし、気楽な次男坊…というのもあったのかなとも。ともあれ彼の気質なんだろうと思う。己から終わらせようという積極的なことでもなく、いつ死んでも良いと。
既往症もなく、周りで一緒に働いていた彼より歳上の人達はなんともなくて彼だけが熱中症… そして救急搬送されてものの三時間程で亡くなった。

あぁこの人は本当に「生きる」に執着がなかったんだな…と当時から考えていた。

長期療養していた訳でも、外傷がある訳でもないから本当にただ寝ているだけのようだった。

ただ…ここから火葬するまでが穏やかではなかった。

亡くなったのが夕刻で、翌一日家にいてから葬儀場に移動。
その家にいた時が多分いけなかったんだろう。
朝にドライアイス交換に来たきりだった。
電話をかけて「ドライアイス入れてください」と告げたが、返事は女性事務員の「朝替えましたから」という素っ気ないもの。
「こんなに暑いのに?」の問には「もうドライアイス屋さん終わってるので」
今にして思えば、葬儀社の人がそう言うならと引き下がらずもっと食い下がるなり、スーパーいって板氷でも買い占めてくれば良かったのに。これが一番の後悔。

葬儀場に移動させる前に着替えさせた時には顔の周りにコバエが飛んでた。

鼻血も出た。

通夜が終わり告別式の朝には、目からも耳からも血が垂れているし、人相が変わるほど膨満していた。

野に晒された九相図でもあるまいに…と

早く、早く火葬しなけりゃ弟が爆発してしまう…そんな馬鹿げたことまで思ってしまった。

暑くて死んだのに、死んだ後まで冷やしてやれなかった…
悔いても悔いてももう遅いのだけど。

九相図でいえば弟は二相位か。伯父は関東で独居していて、八相位で発見されたようだ。
この人は父の姉の配偶者だったのだが、従兄弟(姉弟)が成人後に離婚していて私とはすっかり疎遠になっていた。
発見時に従兄弟の連絡先のメモがあり、それで警察から連絡が来たようだ。
アパートの2階の端っこで、風向きのせいか周囲に異臭…なんてこともなく発見が遅くなったようだ。
なんともお気の毒なのは、発見の元となった階下の住人の方(それと大家さんか)
ゾッとする…天井からポタポタと垂れ落ちてくるモノ

離婚後疎遠(というより父親を嫌っていたようだった)従兄弟もその後始末で大変だったようだ。精神的にも金銭的にも。
お香典を送ったら従兄弟の弟のほうが数年ぶりに訪ねてくれて、男泣きしながら「イイ歳してあんな所で暮らして…人様に迷惑かけて…」と怒っていたが、いくら嫌っていたとしても実の父親が一人で亡くなったことの自分の後悔もあるのかなぁ…と当時まだ三十代だった私は考えた。
実際に姿も見ていないし、葬儀にも参列していない(したんだろうか?)ので、まるで物語りのようなんたが。

ようやく酷暑に喘いだ北の国も朝晩が涼しくなって過ごしやすい。

多分、これから先も夏になると拭えない後悔と共に九相図を思い出すんだろうな…と思う。

母は夏になると仏壇のお水を大きなコップにしている。


2023.09.11

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?