盲導犬と暮らし、盲導犬と語る(17) チェアだよ♪

現在の私の盲導犬シールは「チェア」が得意です。
チェアというのは、盲導犬に椅子の場所を教えてもらうための指示語です。

「チェア」というと、盲導犬は近くにある椅子を探して、その座面にあごをのせて「ここにあるよ」と知らせてくれます。

カフェやレストランに行った時、テーブルまで案内されても、見えない私には椅子がどこにあるのか、どちらを向いているかがわかりません。
テーブルのそばまで行ったら手探りでテーブルの位置や椅子の背もたれを触って確かめないと座ることができません。

そんな時、盲導犬と一緒なら、「チェア」と指示すると、盲導犬は椅子の座面を見つけてそこにあごをのせて「ここが座るところだよ」と知らせてくれます。

私がシールに「チェア」と指示すると、シールは椅子を見つけてその座面にあごをのせそのままじっとしています。
私はハーネスを握っていない右手でシールのあごのあたりをさぐります。
するとそこに椅子の座面があるので椅子の位置と方向がわかり、私はスムーズに座ることができます。
「シール、グッド!」
それから私は椅子のわきにシートを敷いて、そこにシールがダウン(伏せ)します。

シールが「チェア」で椅子にあごをのせる姿はなんだかけなげでかわいいです。
その様子はそれを見ている人をしばしば笑顔にします。
初めて盲導犬の「チェア」を見たひとは、
「かわいい!」「おりこうさんだねえ」などとたいてい笑顔でほめてくれるのでシールもうれしそうにしっぽをブンブン振ります(笑)。

これは盲導犬が周囲の人にもたらすポジティブな効果だと私は思います。
特に視覚障碍者である私と盲導犬のシールを初めて受け入れるようなお店などでは、お店の方も緊張されていることがあり、そんな時、シールが「チェア」をするのを見てお店の方も笑顔になってその場が一気になごむ、ということもよくあります。

こういうことは、オジサン視覚障碍者である私にはとてもできません(笑)。
人懐っこくてしっぽをうれしそうに振っている盲導犬という存在は、いつのまにか周りの人を笑顔にするポジティブな力を持っています。

盲導犬と歩くようになってから、私も街や電車の中などで見知らぬ沢山の人から声をかけられ、盲導犬についてやその人が飼っている犬などについて会話がはずむことが増えました。

盲導犬がユーザーのかたわらにいてくれることで、ユーザーのコミュニケーションの輪も自然に広がっていくのです。

シールは訓練の時から「チェア」が得意な犬でした。
まだ訓練中で私との歩行にもすごく緊張して歩いていたような時でも「チェアだけは、「これなら、ぼく得意なんだよ♪」とばかりに、ちょっと速足になってちゃんとできることを私に見せてくれました(笑)。

シールは自分の仕事ぶりを人に見てもらうのが好きみたいです。
なので毎朝の家の周辺の散歩の時より、電車に乗ってどこかへでかける時のほうがしっぽの振りが大きいです。

電車に乗って席に座る時には「チェア」で座席の場所を教えてくれます。

ある時、シールが電車の端の座席にあごをのせて「チェア」をしたら、そばに立っていた見知らぬ乗客の男性がブワッと吹き出し、「かわいいなあ♪」と笑っていました。

以前近所の公園に初めて娘たちも一緒に言った時は、歩いている遊歩道のかたわらにあった切株の形をした椅子を見つけたシールは、私が「チェア」と謂っていないのに小走りに椅子に近寄って「チェア」をしました。
初めてそれを見た娘たちは大喜び。
「シール!すごいじゃん!」とほめそやしました。
シールもドヤ顔でブンブンしっぽを振っていました(笑)。
それはまるで小さな男の子が、
「見てみて!ぼく、こんなこともできるんだよ♪」と見せびらかしているみたいでした(笑)。

先日、美術館でのワークショップに参加した時も、一緒に参加した初対面の人たちと展示室を歩いている時、シールは椅子を見つけては、、
得意そうに「チェアだよ♪」とやって見せていました(笑)。。

その日はいろんな人から
「シールちゃん、えらいね!」「おりこうさんだね♪」
とほめられていました。
私は美術館というのはシールにとってはそんなに楽しい場所ではないだろうな、と思っていましたが、その日はシールにとってはゴキゲンな一日だったようです(笑)。

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