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うさぎに導かれた月⑥

ゴールデンウィークに入ったのをきっかけに僕はバイトをしようと決めていた。
受験合格した時に僕は父さんに
“アルバイトをしたい”
と相談していたのだ。
その時は入学してすぐは大変だろうから、ゴールデンウィークぐらいからやったらいい、とアドバイスをくれた。

それから色々バイト募集の雑誌をみたり、スマホで色々見ていたけど、
すぐには決められないでいた。
正直、何がしたいか分からなかった。
コンビニもマックもスーパーも、何となくピンと来なかった。
実はというと、僕は人混みが嫌いなのだ。
夏休みとかでごった返す店内を想像するだけで疲弊してしまう。
土木作業員や交通整備も募集されてたけど、夏の暑い最中バイトをするのは嫌だし、、、。
いざバイト情報を見るとネガティブな部分が先に浮かぶことに僕自身驚いていたし、
臆病な性格に嫌気がさした。

そういやぁ、大学を選ぶ時もそうだった。
家から遠いのは嫌だし、電車通学も嫌だった。だからチャリで通える範囲内で大学を選んだくらいだった。

そうこうするうち、目前に入学式を控えてたが、まだバイト先を決められないでいた。
父さんにアルバイトは決まったか?と聞かれたけど、黙ったままスマホを見ていた。

「大学から歩いて5分くらいの裏路地に喫茶店があったぞ?バイト募集のチラシがあったからやってみないか?」
そう言うとチラシを渡してくれた。

喫茶『雑草』
アルバイト募集
時給800円〜
時間:応相談
週2日〜OK
連絡先 ○○ー○○○○ー○○○○

字の横にはレンガ調の古びた外観の写真が印刷されていた。

あれ…?
なんだろ……。
ん……?

思い出せないけど、知っているような知らないような。
僕は気になり、今度行ってみようと思ってそのチラシをスマホで撮影して保存した。

数日後、大学の入学式を終えると毎日が新しいことだらけで、バイトを探すこともすっかり忘れていた。

大学の時間割を考えたり、新しく出来た友達と一緒に遅くまで遊んだりして思っていた以上に大学生活を満喫していた。
友達と話をしている時にバイトの話になった。
、、、あ、バイト、、、。
バイト探ししていた事をすっかり忘れていた僕は、友達に前に撮った画像を見せて聞いてみた。

「あん?お前ここでバイトすんの?
じゃあ時々コーヒーおごって!」

そんな感じでふざけながら話していた。
(あぁ、なんかいいかも。)
友達にご馳走してる喫茶店の店員やってる自分を想像したら、無性にやりたくなってきたのだ。

そんな些細な事をキッカケに僕のバイト先をここにしちゃえ、と思って早速電話をかけた。

「はい、喫茶“雑草”です」

ちょっと低めの声でゆっくりと話す声が聞こえて

「あ、、、ば、、、バイト募集の紙を見て電話したんですが、、、」

僕は慌てて早口で話した。

「あぁ、、、はいはい。どーもね。……〜」

僕は名前を伝え、バイト面接の日程を決めてもらい、電話を切った。

「ギャハハハッ!」

黙って聞いていた友達が電話を切ったと同時に笑い転げていた。
どうも僕は何回も道路に向かってペコペコしながら電話をしていたらしく、
友達が真似をしながら大笑いしていた。
僕も急に恥ずかしくなって友達の肩を掴んで笑いながら揺さぶった。

僕は面接に行くのが楽しみだった。
(この時にはすでにマスターは僕の情報を知っていて、連絡が入るのを待っていたらしい……)

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