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うさぎに導かれた月④

「ごめんね〜。」
と言いながら女性が近づいてきて僕の隣を指差して、座っていいかと首を斜めにしながら訊ねた。
僕はこくりと頷く。

「あなたのお父さんと私のお父さん、幼馴染なのよ。それでね、あなたがここでアルバイトしたいから働かせてもらえないか、と連絡があったわけ。」

僕は何が何だか訳が分からないまま固まっていた。

「それで、私のお父さんは喜んで引き受けたっていう話なの。ちょうど前のアルバイトの子が卒業してからずっとアルバイト募集していたけど居なかったのよねぇ。
ただ、やっぱり形上、面接だけはしておかないと?って事で今日来てもらってるの。」

そう言うとコーヒーを飲みながら僕の顔を覗き込んできた。
僕は、この女性がマスターの娘さんで、マスターは僕の父さんと友達で……と、頭の中で今起きた事の整理をしていた。
多分この時、とても困った顔をしていたんだと思う。

「まぁ、そう言う事だ。さぁ、今日はゆっくり飲んでって」

マスターから声をかけられ、やっと意識が戻って来た。

…ん、…待てよ?
そういえば、小さい頃、父さんに連れられて何度かこのお店に来た事がある気がした。
多分4歳か5歳の時だと思う。

「そうだったんですか…。
すみません…。僕何も聞いてなくて…」

そう言うと

「あなたのお父さんからここに来るまで内緒にしておいてくれって言われてたの。」

クスッと女性は僕を見て笑った。

「佳月君、驚き過ぎてて可愛い〜」

僕は一気に恥ずかしくなった。
どうしていいか分からずコーヒーを一気に飲んだ。
もう味も香りも何も感じなかった。

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