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うさぎに導かれた月⑩

「そういえば、かっちゃんの誕生日って8月だっけ?8日?」

僕はドキッとした。

「あれ?僕言いましたっけ?」

なんで知ってるんだろうと頭が“あれ?”で埋め尽くされた。

「へへへっ。履歴書に書いたの見たから」

イタズラ心丸出しな顔をして笑っていた。
メグの「へへへっ」はいつも何か企んでいる時に発せられるものだった。

「何か嫌な予感しかしないんですけどwww」

僕が言うと

「え〜?そんな事ないよ〜。へへへっ♪」

間違いない……
何か企んでる……

「なんすか急に……あぁ、僕の誕生日会しようとか?」

もぅニヤけが止まらない僕の頬

「ねぇっ、自分から言う?それwww」

と僕の肩を
“べシッ”
と叩きながら笑っていた。

「誕生日って聞かれたらそれしかないでしょ!www」

もぅ僕の頭の中は嬉しさしかなかった。

「そう!みんなで一緒にバースデーパーティーしようと思って!」

メグは自分がお誕生日かのように嬉しさを爆発させ目をパチパチとさせていた。

「照れくさいんでやめてくださいよ〜!っていうかメグのその顔が怖い……www」

そう言うと
メグは僕の背中に軽くパンチを連打してきた。

「もうやると決めたから!ねっ?予定入れないでねん」

と顔の前で手を組んで目をパチパチさせ懇願の表情を見せた。

メグは僕より6歳年上の24歳だ。なのに僕より年下なんじゃないか?と思えるくらいやんちゃでかわいい……

「マスター〜!かっちゃんの誕生日の日、早めに閉めてお誕生日会しよ!」

メグは少し高めのテンションでマスターに話しかけると

「お、珍しい!いいねぇ。分かった分かった。じゃあ恩、お知らせで営業時間変更のやつ作っといてくれな」

とマスターも嬉しそうに快諾してくれた。

「了解!あ、斌(あきら)にも聞いてみるね!それと、かっちゃんのお父さん、お母さんにも声かけて聞いてみてよ。」

「いやん!楽しみなんだけどぉ」
なんて言いながらアイスコーヒーのグラスを棚に片付けていた。

僕はその場に居づらくてカウンターの外に出てペーパー補充をしに行った。
僕はいつの間にかメグに好意を持つようになっていた。
いつからなのか分からないけど、毎日お店に行きたいと思う理由には
“メグに会いたい”と思う気持ちがあったからだった。

僕の鼓動が早くなっているのが分かる。
(心の準備が……)
しかも照れくささと恥ずかしさでペーパー補充がうまくいかない……!
動揺を隠すように

「父さん達にも聞いておきます」

そう答えて他のテーブルへ移った。
(斌って確かメグの3つ下の弟って言ってたな……)

そんな事を思いながらメグに聞いた

「斌さんって今こちらに居ないんですよね?」

斌は農業に興味があるとかで山形にある大学に通っていると聞いていた。

「そうそう、でも斌も夏休みだから帰って来るよ。今年もお母さんのお墓参りで7月20日に帰って来るから今度紹介するね!」 

と言って、後ろで1本に束ねた髪を揺らし鼻歌を歌いながら奥のキッチンに入っていった。

(お墓参り……)
メグのお母さんはメグが中学生の時に病気で亡くなったと聞いている。
あまりに料理の手さばきがいいもんだから褒めた時にそういう経緯があった事を教えてくれた。

夏休みまであと3日だった。

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