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うさぎに導かれた月⑦

父さんと幼馴染みというマスター。
僕が子供の頃に来た事がある。
まさかの展開だった。

「佳月君、明日何か予定ある?」

恩さんに声をかけられ僕は我に帰った。

「いえ…あ…はい……いや、ないです。」

僕は動揺が収まらず、まともな返事が出来なかった。

「ぷふっ、、、」

恩さんは小声で「可愛いっ」と言いながら口元に手を当てて笑った。そして

「じゃあ明日、朝から来れる?
9:00に来て開店準備とか色々教えるから。」

と少し左に首を傾げてニコニコとしながら僕に聞いてきた。
恩さんの白くて綺麗な歯が少し見えて、僕はますます動揺した……。
僕はあまり人の顔を見ながら話すのは得意ではないけど、この時はあまりに透き通るような微笑みに口元から目元までスローモーションのように眺めてしまった。

胸の中でコトンと音がした気がした。

多分緊張しているせいだろう、と言い聞かせながら

「分かりました。9:00で来ます。宜しくお願いします。」

と挨拶をし、いつの間にか用意されていた水に手を伸ばし一気に飲み干した。

「ご馳走様〜」

新聞を読んでサンドイッチを食べていたサラリーマンがレジまで来ていた。
僕はどうしたらいいか分からずコーヒーカップに目を落とした。

(幼稚園の僕がこれを選んだのか……中々良いセンスしてるな)

会計を済ませたサラリーマンがドアのベルを鳴らし帰っていくとカウンターに座っている3人とマスターだけになった。
恩さんが「ヨイショ」と言いながらカウンターから離れ、テーブルを片付けに行った。

「あらまぁ、ヨイショですって。」

白髪のおばあさんが笑いながら

「私は時々ここに来てマスターとお話しさせてもらってるのよ。佳月君と言ったわね。よろしくね。」

穏やかな柔らかい口調で僕に挨拶してくれた。
つられて僕も優しい気持ちになりながら

「あ……はい、よろしくお願いします。」

と一礼をした。

スマホを見るとちょうど15:30だった。

「あのぅ、少し店内を見ても良いですか?ほとんど記憶にないんですが、なんとなく懐かしくて……」

そう伝えると

「あぁ〜、どうぞ」

と優しい笑顔でマスターが手のひらを差し出し、僕はまた一礼をして椅子から降りた。

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