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三日月ファストパス

十六夜岬のクラゲの娘、三日月野原の桂男に恋をした。
「あんな色男に惚れるなんて、難儀なお嬢さんだコト」
これを不憫に思った満月町のうさぎどん、ご自慢の霊薬を分けて下さった。瑠璃の小瓶にしゃらしゃらと、さながら綺羅々光る金平糖。
「三日月が綺麗な風のない晩、波の狭間にこれを撒きなさい。そうすれば、恋しいお方に会えますよ」
「ありがとう、うさぎさん」

次の三日月までの幾日は、幾星霜と過ぎていく。なにせ相手は百戦錬磨の美丈夫で、翼ある渡り鳥ですら届かぬ光で。
それに比べてこの身はゼリー体……、いや、やめておこう。織姫にはなれなくとも、天の川の星屑くらいは望んでも罰は当たるまい。

かくして彼女は小瓶を開けた。そっと散らした霊薬は、夜の海にたゆたう星のよう。
「ああ、空には昇れぬこの身でも、只々願うことがあるのです」
水面の三日月に現れた、愛しい恋しいその人に、精一杯の笑顔で告げるのだ。
「貴男とお話しがしてみたいの」


中国では月のうさぎはお餅じゃなくて、薬を作っているそうです。

久しぶりに投稿させていただきました。今回は童話風を目指してみたのですが、難しいですね……
何より、ファストパスというより呼苻だこれ!(FGOの召喚アイテム)
毎回いかにしてテーマを少しずらせるか、を心がけているせいか、ずれ過ぎて違うテーマになってしまいがちなのが課題なコノヤマでございます。

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