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【夕焼けは】落ち着かない【ブロマンスファンタジー】

夕焼けは落ち着かない。

「村が焼かれた日を思い出す」
「いや理由おっも!」

暮れなずむ王都のはずれ、冒険者用第八訓練場。ーー要約すれば“だだっ広い空き地”。
つい先程まで木刀を手に打ち合っていた二人の男、名前をジェイドとアレクという。
先代勇者の息子の後見人と兄貴分である。

「と言っても俺は母方の叔父だから先代とは赤の他人だが」
「ノアのかーちゃん、家族とはちっちゃい頃に生き別れたって言ってたもんなぁ」

ほとんど家には帰ってこれない父親の分も一人で息子を育て上げた母親の死後、突然現れた叔父。実の兄弟のように育った幼馴染としては、怪しい事この上ない存在だった。

「最初は詐欺師じゃねぇかなって疑ってたな。髪とか目とか同じ色だったから一応信用したけど、王様お墨付きの剣士とか言われても田舎もんにはよく分かんねぇし」
「警戒心の強い野良猫みたいだったぞ、お前」

緑眼の魔女と呼ばれた故人を思い出す。
艷やかな黒髪も透けるように白い肌も、幼心にとても美しく見えたものだ。
ーー彼女によく似たその顔で、世界のすべてを憎んで妬むと言わんばかりの目をした彼が嫌いだった。

「変わるもんだよなぁ」

例えば野良猫のようだった青年が、嬉々として自ら剣の稽古を乞うようになるだとか。復讐に生きる孤独な男が、過去について気兼ねなく口にするようになるだとか。

「……変わるものもあるが、変われないものもある」
「?」

沈む太陽に陰る双眸。猫の眼を持たぬアレクには、ジェイドの表情は伺えない。
それで良い、とジェイドは思う。
アレクの赤い瞳に映るジェイドは、いつだってあの日の少年のままなのだ。



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