現役大学生ラッパーが留年するまでの話・卒業3/4

 更新が滞っており申し訳ございませんでした。理由としてはこんな後ろ向きな文章を進んで面白がる自分自身といいねを押す読者が怖くなったのと、日雇いで入った居酒屋の皿洗いのバイトが今日にいたるまで終わらなかったからです。今は気持ちも安定しており、精神的未熟さを理由に他人の足を引っ張ることにちゃんと罪悪感を覚えています。それでは第3話どうぞ。

 五年目の大学生活は言うなれば「俺何やっているんだろう」という自問自答の繰り返しである。授業の合間に喫煙所に行っているのか、喫煙の合間に授業を受けているのかも分からなくなっていた。タバコを吸わない後輩を連れて、数少ないベンチをギターケースで占有する軽音サークルのウルフカットの連中の笑い声におびえる日々。

 何故留年したのかという理由を端的に言うとラップの活動にかまけて授業に出ていなかったからである。大学という破格なほどに自由な空間は、小学校時代からコツコツと積み上げた早起きの習慣をものの見事に吹き飛ばしたと言えばそれまでだが、その自由を選択したのも、その責任をしっかり取ろうと決めたのも他ならない自分自身である。しかし当時の俺は「ちゃんと授業出席しないとな」という気持ちが「もう後はない」という風に暴走しており、時計を意識するのが怖くてたまらなかった。特に再々々履修の必修の英語の授業が。

 教室に入った瞬間から動機が止まらない、自分のような再履修者を集めた授業でなに緊張してんだよと言われるかもしれないが、一度落とした三年生と、二年から五年生に至るまで三度も落とした俺が同じな訳がないだろ。一度欠席する度に5点マイナスとシラバスに書いてあった以上、一度の欠席すら致命傷となりうるこの授業は思いのほか当時の俺の精神を削ってきた。一応英検2級持っているから英語だけ免除とかになんねぇかなと何度心の中で毒づいただろう。

 GWも明けて、世間の大多数は連休への未練を引きずりながら平静を保ちつつ大学や会社に足を運ぶ一方で、SNSでは気が狂ったフリをした大学生が跳梁跋扈している。俺はというとサークルの部室で一人うなだれていた。Twitterで気が狂ったふりをして気分を紛らわせる事も出来ないほどにその時は気分が憔悴しきっていた。何故なら件の英語の授業で4回目の欠席をかましてしまったのである。欠席の内訳は4月の半ばに時間割を間違えて一度目の欠席、その次の週にシンプルに寝坊、三度目はバイクが故障、そして四度目はまたしてもシンプルに寝坊。途中入室も可能だったが、教室の前で激しい吐き気と、糸が切れたように頭の奥底から止めどなく「死にたい」という気持ちが溢れてやまず、いても立ってもいられず部室にきてうなだれていた。4回目の欠席イコール20点の減点、テストが60%のこの授業においてこれは落単を意味する。落とすということはも追加でもう半期留年ということである。

 現役大学生ラッパーが留年するまでの話・1年生編①(https://note.com/joyous_tulip900/n/n85dad0a1afd0)の時と同じような失敗を何度も繰り返す自分が憎くてたまらないし、前日に酒を自制出来なかった自分が情けなくて胸の中は筆舌に尽くし難いほどの悲しみが涙とともに溢れていた。部室の畳で横たわりながら、やはり俺は何をやってもダメなのだ、俺のようなギリ健が大学のような場所にいること自体が間違いなのだと何度も己に言い聞かせた。ことさら頭に浮かぶのは親の顔である、あんなに悲しませた矢先に再び信頼を裏切るような事をしてしまった。申し訳なさや自責の気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合い感情がよく分からなくなるにつれて、誰かにすがりたい気持ちが増してきた。誰でもいいからこの悲しみをほんの少しだけ語らせて欲しい。ちょうどそのタイミングで、部室のドアが開く音がした。

 目線の先にはサークルで一番付き合いの長い後輩が立っていた。俺はもう芥川の蜘蛛の糸もかくやと言わんばかりの心持ちで、涙をこらえながらその後輩のいる方向に手を伸ばした。なにかうわ言のようなものを発していた気もするが、その時は「頼むから少しだけ一緒にいてくれ」という気持ちでいっぱいだった。しかし俺の願いは虚しく、後輩は部室中央の机に置かれてある何かの書類を取って「お疲れ様でした」と足早にその場を後にした。扉の閉まる音を聞いた俺は「あぁぁ、、、」と小さな声でうずくまる他なかった。今にしてみたら後輩の立場からして俺の事情など知ったことでは無いし、俺も早く気持ちを切り替えて他に出来ることを頑張るべきだったが、その瞬間は悲しくて悲しくて空海の智泉への手紙のような気持ちを理解した気がした。そこから2時間くらいヒソヒソと泣きながらうずくまり、ごめんなさいと連呼していた気がする。

 一留しているとはいえどうにか卒業しようと奮起した矢先に、半期追加で留年が確定するなんて俺は一体何をしているんだ?もう頑張る意味なんてないのでは無いか?自分で掘った穴を自分で埋めるような作業とさほど変わらない時間を過ごした挙句にもう半年留年しろというのか?なんだこれは。もう事故に見せかけて自殺して降りた保険金で両親に償いをする他ないのではないかと本気で考えていた。人間なんのために頑張るべきなのかが分からなくなると、絶望を抱きしめて悲しみに沈んだ方が心地よくなるものである。

 外もすっかり暗くなったころ。俺はようやく起き上がり家路についた。とにかく今日は酒を飲んで眠ろうという一心でふらつく足に鞭打ってバイクのギアをニュートラルから二速に入れた。俺の留年生活、序盤の序盤から大コケである。

 え、あと残り1話で卒業なんておかしいだろって?うるせぇよ、仕方ねぇだろ、そういう風になったんだから。

現役大学生ラッパーが留年するまでの話・卒業3/4 完

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