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地域猫活動 その29

 冒頭より、豪雨災害で被災された地域の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。毎年梅雨末期の集中豪雨がどこかで発生するという、我が国の気象現象のメカニズムがわかっていても、今度はどの地域で災害が起こるか、まったく見当も付かない時代ですね。
 さて、地域猫活動の記事は、あまりにも多くて、私も回を重ねる毎に、疲れてまとまりのない文章になってしまっているかも知れません。悪しからず、ご了承ください。


次々とわかる新事実

 頼まれた案件で、調査を終えてTNRを進めていくわけですが、まず最優先に行ったのは、黒猫で個体特定が難しい子から作戦を開始したのです。
 理由は簡単で、性別がはっきりしないと、捕獲の優先順序が決められないからです。それと、どうぶつ基金のさくらチケットには1ヶ月の有効期限があります。おまけに、月末になると、受け入れてくれる動物病院が混み合って、予約が取りにくくなることもあります。だから、要領よく仕事を進めないと、せっかく取得したチケットが無駄になってしまいます。
 するとどうでしょう。未確認のメスがいたんです。黒猫は特に外観上性別がわかりにくいのが普通で、捕まえてみて初めてわかった個体が、やっぱり思った通りいました。

容姿では判断しにくい

 こういう様子を想像していただくと、必ずいただく質問ですが、「どうやって個体特定するの?」ということです。
 これは、どこの「猫ボランティアさん」も同じ事をやってるかどうかわかりませんが、特に黒猫については、それぞれの性格で判断してます。たとえば、食いしん坊で一番先に餌に飛びついてくるのがランちゃんとか、頭を撫でられても平気なのがゴマちゃんなどのようにです。
 ただ、本来ですと、こういう頭数が非常に多い案件では、スタッフが総出で、一回で、それこそ一網打尽にするのが最も理想的なのはわかっています。しかし、団体と違って、こちらはスタッフは基本的に私一人。さらに、例え捕獲器を多数借用するなどして集めたとしても、それをどうやって搬送するかが問題です。乗用車で運べるのは、せいぜい捕獲器2台、無理をしても3台が限度です。農家などで、トラックをお持ちの方にご協力いただけると助かるのですが、仕事用に所有している車を半日以上貸してくださいというのは、なかなか言えることではありません。かと言って、お金をかけて車をレンタルするのもコスト的に無理があります。

 さて、9月に入ってから当地も台風の洗礼を受けることとなりました。当然猫たちの動向が気になるわけですが、この案件で取組中の場所は、空き家となった民家が何軒か点在し、どうやらそれが、猫たちの避難場所になっていたようです。
 台風が通過して、TNRを再開したところ、何と子猫がまだいたんです!
しかも、すでに保護して譲渡が完了した2匹と同じぐらいの週齢の子猫だったので、さらに驚きでした。

猫風邪で、目がほとんど開いてませんでした

 どうしてその時まで見つけてあげられなかったのかと、子猫を抱いて調べてみると、この子もメスでした。猫風邪がひどく、捕まえようとしても逃げも隠れもせず、されるままになっていました。

この子を救えるのだろうか

 こんな小さい子猫がまだ残っていたことに気づけなかったのが、本当に悔やまれました。とにかく、動物病院を受診しないと、今後のことが考えられないと思い、その日の夕方に動物病院に連れて行きました。


この子を「リコ」と命名しました

 動画でご覧いただくと、すべてがわかりますが、私はこの子から非常に多くのことを学びました。

当時は生後2ヶ月ほど

 このリコちゃんは、猫じい家の「子猫館」の15匹目の卒業生となるわけですが、異例のことで、約7ヶ月半も同居することとなりました。

 とにかく、保護した時の体重は、わずか482g で、ほとんど「骨と皮」の状態でした。ガリガリに痩せ細っていたというよりも、まるで骨格標本に皮一枚が被せてあるような感じで、抱き上げてみると、手に当たる感触がどこも骨に当たる感じでした。
 私はこの当時、この子の容姿を見て、最悪の場合、その日のうちに天国に召されることがあるかも知れないと、ビクビクしていました。

猫じいが扱った中では、黒猫は初めてでした。

 黒猫と言っても、正確にはサビ柄が出ていたんですが、ほとんど黒猫のような毛並みになったので「黒猫」と呼んでおきます。
 この後、この子は、ありとあらゆる試練を受けることになります。当然保護している私も経験をしたことがない試練を一緒に受けることになりますが。

 まず最初に、回虫卵検出、駆虫薬投与、回虫排出と、順調に進んだと思ったら、今度は肺炎。これは、一時命まで危なかったことがあり、私も青ざめた時がありました。
 ところが、その肺炎も奇跡の回復を遂げ、回虫も同時に完治し、いよいよ里親様募集に向けて血液検査をしたところ、FIV(猫エイズ)陽性の反応が出てしまいました。

ショック!

 そのため、せっかく決まりかけていた里親様のお話も、キャンセルとなりました。

途方に暮れる猫じい

 しかし、月日の経過は待ってくれません。猫じいは、やがて予定されている、自分の父親の一周忌法要のため、どうしても遠隔地に行かなくてはなりません。こういう場合、基本的に猫は連れて行くことができません。
 さらに、預かってもらうにしても猫エイズであることが問題になります。つまり、どこでも預かってくれる訳ではないですし、知人に頼むと言っても、やっぱり頼みにくいというのが正直な気持ちです。
 そこで、最小限の留守番時間で済むように、日程を一泊二日にして、餌は、自動給餌器で過ごせないか実験しました。

これは「当たり」でした

この子が不憫に思えて


病気なんて、いったいどこに?

 当たり前のことですが、リコちゃんは自分の病気のことなんか何も知らず、毎日無邪気に遊んでいます。実は私が、リコちゃんのエイズの簡易検査での結果では、母乳を途中まで飲んでいた関係で、母親からの移行抗体に反応しただけという場合もあることは、以前から知っていました。猫エイズの感染経路の大半は、噛みつき合いの喧嘩で、あとは性交渉などが主な原因と言われても、リコちゃんの場合、子猫でしたので、どちらも当てはまらないのではないかと考えました。なので、もっと詳しいPCR検査を受けることを考えていました。しかし、足の太い血管から大量に採血されるPCR検査でも、やっぱり結果は「陽性」と出ました。
 里親様の募集をかけると、案外黒猫がほしいという方は多いらしく、反応はいいと聞きました。しかし、その情報の中に、猫エイズのキャリアであることを、まさか隠しておく訳にはいかず、それを見ただけで、それ以上その記事を読まなくなる人がほとんどだそうです。「神様は、どうしてこの子にそんな運命を与えたのか」と嘆いていても、結果が変わることはありません。

 実は、この子も兄弟猫と思われる猫たちも、元々は地域猫なのですから、避妊手術を施した上で、また元いた縄張りにリリースするというのは、ひとつ考えとしてありました。しかし、ここから次第に夏に向かう季節ならともかく、だんだんと寒さが厳しくなる季節に外に放すというのは、あまりにも残酷です。まして、リコちゃんの場合は、生後2ヶ月程度で人間に拾われて、それから人の手で育てられてきたことを考えると、外の世界で生き抜く術を身につけているとは考えにくいです。私は、一度は自分の手で救った命なのだからと、リコちゃんにできるだけのことはしてあげようと決意したのです。

時期が来れば

 さて、そうしているうちに、どんどん月日は過ぎ、年末年始を猫と一緒に暮らしたというのは、実は猫じいの人生始まって以来の事でした。
 それと同時に、リコちゃんは生後6ヶ月という時期が来ていることに、ふと気づきました。避妊手術を考えなくてはいけない時期です。これは、今後うちの子になるにしても、どこか可愛がってむかえてくれる家があったにしても、いずれ必要なことです。通常は、飼い猫ならば、一回目の発情が来る前に手術するのが望ましいとされるので、1月14日に動物病院の予約を取りました。

すっかり黒猫になってしまいました

 手術に際しては、避妊手術だけでなく、マイクロチップ装着と、1回目のワクチン接種を同時に済ませてもらいました。
 これで、改めて、里親様募集の情報を知人の経営するお店や、近所の美容室に掲示させてもらいました。しかし、相変わらず、エイズキャリアの子はハードルが高く、苦戦を強いられました。

 そうしているうちに、知人から猫の譲渡会に出してみることを薦められ、私もそれに望みをかけてみることにしました。

黒猫が好きという方は多いらしいです

 しかし、この譲渡会も、決して平坦な道のりではありませんでした。1回目と2回目の譲渡会で空振りだったのは、「そう簡単に決まるはずがない」という覚悟はありましたが、さすがに3回目になると、心が折れそうになってきました。

リコちゃんの負担も考えて

 リコちゃんは、車で長時間移動するのが苦手で、往復のストレスを考えると無理をしてしまったかと思いました。それに、エイズキャリアだと、先住猫がいますからと言って冷たく断られ、中にはエイズキャリアだと聞いた途端に、話を途中で聞くのを止めて立ち去ってしまう人、「黒猫がほしかったんだけどエイズじゃ残念ねえ」と柔らかい口調ながらも、きっぱり断る人、こんな状況では、里親様が決まることは奇跡に近いことなのかとも思ってしまいました。

道は開ける

 実は、私には、どうしても困った時に、リコちゃんを終生飼養施設に預けることも選択肢のひとつにはありました。この施設は信頼できる団体が運営しており、バックに動物医療のスタッフも付いている施設なので、リコちゃんよりももっと深刻な病気や怪我などで行き場のないペットたちを安心して一生を過ごしてもらえる施設です。
 しかしここに入れるためには、どうしても多額のお金がかかることと、一度預けてしまったら、近況などは伝えてもらうことはできず、たとえどなたかに譲渡されたとしても、どこのうちに行ったのかなどは、もちろん教えてもらうことはできません。つまり、そこで一生のお別れになってしまうのです。
 私は、自分の孫娘のように、7ヶ月もの間一緒に暮らしてきたリコちゃんと、そんな別れ方をしたら、後で必ず後悔するだろうと思い、4回目の譲渡会に望みをかけました。
 これは、譲渡会のスタッフの方からの情報ですが、保険会社によっては、猫エイズの子でも加入できるペット保険があるとのことで、これはこれから猫を迎え入れる方々には朗報だと思います。詳しくは、ご確認ください。
 また、譲渡会のスタッフの方でも、エイズキャリアの猫を飼育してる方、また、エイズキャリアとそうでない猫が普通に同居しているというお宅もあるそうです。
 従って、猫エイズについては、あまり過剰に心配すると、せっかくのご縁を失ってしまう場合もあるということを、ぜひ私はここに発信していきたいです。

譲渡会で運命の出会いが

 2023年4月8日というのは、私にとって、忘れられない日になりました。リコちゃんに運命の出会いがあったのです。
 この4月8日は、4回目となる譲渡会で、もしここで決まらなかったら、リコちゃんの負担を考えると、次回は5月になるかと思っていたところでした。

譲渡会のリコちゃん

 この日、リコちゃんに会いたいとおっしゃるご夫妻が、会場にお見えになり、リコちゃんをたいそう気に入ってくださいました。聞けば、こちらのお宅には、すでにエイズキャリアのオス猫がいるとのことで、猫同士の相性が悪くなければ、リコちゃんをお迎えしたいとのご意向でした。
 そして、ありがたいことに、トライアルまでたどり着くことができました。

こんなのとか
こんな幸せそうな近況を

 里親様からは、こんな素晴らしい近況をお知らせいただき、正式譲渡が決定いたしました。
 私は、ちょうど例えて言うならば、親を失っておじい一人で育てた孫娘が、嫁ぎ先で幸せになってるのを涙しながら見ている、そんな気持ちでこの記事を書かせていただきました。

7月14日はリコちゃんの誕生日!

 そして、この記事を投稿する本日、7月14日は、リコちゃんの1歳の誕生日でした。私は朝早速お祝いのメッセージを送りましたが、里親様から、近況の写真が届いております。

子猫館の通算15匹目の卒業生です
大きくなったね

 本日も、記事を最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

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