生きろ vol.7

iPhoneのiSO17の未設定のアラームが米原からの着信を知らせる。

「絵仁夢、どうよ。明日、文芸大の近くのデニーズなら、お前、近くに住んでるし、バスとか近いから暇なら会おうぜ」

「また無茶な。お前は暇でも僕は仕事があるんだ。それと、あのアルバム、フリーセッションなのかほんとに」

そう、僕はフリーセッションと聞いていたのに、全部違う感じだし、なんなら何日もかけて作っているか、パソコンで編集されているかのごとくちゃんと1曲になっているんだ。確かに米原はベースが上手い。しかし、僕が知ってるのは彼がベースだけをしている時だけだし、
ボーカルも、しかもあんな高音出るんだって驚かされた。

「じゃあ、19:00ぐらいなら大丈夫だろ?  ほかのメンバーはお前のこと知らないから、連れてっていいか?」

「ああ、あの変態ツインギターの人と、リズム感が抜群にいいドラムの人。会ってみたいよ」

「ああ、そっか。でも、妄想はやめた方がいいぞ。元は全員イメージと違うから」

軽く乾いた感じで返事された。冷たいな。そんな性格だったっけ、と思いながら。
あっ、そうだ。

「僕以外の人、誘っていい? 最近、仕事場で彼女できてその子がdtm好きなんだよ。他に公言しないようにするから」

ぶっ、と米原が笑ったのか驚いたのか電話越しに信じられないといった顔を想像できた。

「お前に彼女できたの? あんなV系バンドの好きなお前に? 相手、ほんと好きものだな」

「いいじゃん。最近はアイドルもきくんだよ。でも推しは被らないけど」

数秒、時間が止まる。
そのうちに保留音が流れ、あ、別のところから電話かかってきてるんだ。んでもってなんの許可もなくそっちに出てるんだな。

そこで1回電話を切った。

その後、何のやり取りもなく日は過ぎて。

「大丈夫だよ。米原ってルールちゃんと守るやつだし」

野口のデニーズでは、1番端っこの6人がけソファ席で僕と悠子は予定だった約束から1時間待ち続けてる。

「やっぱり私、いるのまずいかな」

ただでさえ不安症的なものを持っているし、全然自分が関係者では無いことで、遠くから見ているのではないか等、待ってられない性格だ。
(今日のこの会の1時間前に入ってドリンクバーで時間を潰していたらしい。30分後に僕が着くと伝票が既に切られていた。)

しばらくすると、虎柄のTシャツとジャージの米原とお値段高めであろう同じ古着を着た美人の双子、猫背で乃木坂の今年のバスラのTシャツを着たいかにもヲタクの同年代くらいの男の人が店員さんに話しかけられていた。

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