見出し画像

水木しげる『敗走記』感想

6つの短編を収録した漫画の文庫を読んだ。
どれも戦争の話。
いずれも事実を元に描かれたものだと、あとがきにあった。

我々はこうして生きていても
戦死した者と頭の中で常に同居しています
おそらく死ぬまででしょう

水木しげる『敗走記』収録「カンデレ」

戦争の虚しさ。
生き残った後もずっと抱えていかざるを得ないということ。
20歳過ぎたばかりの若者が誰にも知られずに死んでいく。
せっかく生き残っても逃げ帰ったことを問われて銃殺。あるいは戦犯として処刑。

『カランコロン漂泊記』にも、「最近何か賞をもらうような時は必ず死んだ戦友が夢に出る」とあった。
どれだけ歳を重ねても、人生がもっとも充実しているべき年代に経験したことはずっと心の中にあり、それは簡潔に言ってしまえば戦争のトラウマは消えないということだろうか。

水木しげるは戦争の漫画をたくさん描いている。描かずにはいられなかったのだろうし、描くことは鎮魂でもあるのだと思う。

戦争で素晴らしい戦果をあげた男の話で、敵から逃げ回り陣地に戻ったものの、生き残ったことで日本軍には処刑されそうになり、戦後は戦犯として追われ続けた男を描いた「ごきぶり」という話が特に虚しかった。

『総員玉砕せよ!』には描かれていないエピソードが沢山描かれている。

映画ゲゲゲの謎の「水木」も戦争トラウマに苦しむ場面が出てくる。
水木しげるの戦争漫画を読めば、水木というキャラクターについてより深く考えられると思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?