【短編小説】エンカウント
待ち合わせ場所に着き、ソワソワと辺りを見渡す。有名な待ち合わせスポットだから相手を待っている人がちらほら見える。僕もその一人だ。
マッチングアプリというのを使ってみた。
興味がなかったわけではない。ただ、どこか無機質な感じがして苦手だった。一念発起して利用をし始め、相手と連絡を取り合っていくうちにこういうのも今の時代にあった手段なのかなと思えるようになった。マフラーをいじりながら空を見上げる。晴天で心地の良い風が吹いている。
耳の横を何かが高速で通過する。振り返る。コンクリートの壁に深々とナイフが刺さっている。頭に直撃していればタダじゃ済まなかったろう。
「ご挨拶じゃねぇか」
俺は興奮してきた。
今回はルール無用のデスマッチ。
チャカもヤッパもモーマンタイ。
音もなく、そいつは姿を表す。
ひどく痩せ細った男が立っていた。
「あれを避けられるとは正直驚きましたよ。なかなかの手練れだ」
対する俺は筋肉の鎧を身に纏っている。血に飢えた獣のような眼光で男を睨む。本当に俺の相手はこいつなのか、アプリのプロフィールとはまったく違うじゃないか。いや、そこから既に戦いは始まっていたのか!
「ルールは特になし。武器の使用可でよかったのですよね?」
「俺は小細工なんて使わねぇ。己の肉体のみで十分だ」
「面白い」
「可愛がってくれよ!」
俺の土管みたいな足から繰り出される蹴りが男の顎を正確に狙う。男は上半身を逸らし、なんとか躱すも即座に逃れられない踵が脳天を叩く。男はアスファルトに寝転ぶ。容赦はしない。無防備な背中に拳をぶち込む。
激痛が走った。情けない声を堪えて、状況を確認する。
「鉄板です」
「痛いじゃねぇか!!」
上空から無数に降り注ぐ刃の雨を的確にすり抜ける。しかし誘導であった。俺は誘われるようにそこに足を置いてしまった。
「脳味噌も筋肉のようだね」
落とし穴ッ!!
「ぐあぁああああぁっ!?」
「無様です……ねっ!?」
途端に男の声が消える。気配もない。
慌てず呼吸を整える。なんとか大丈夫。鍛えておいて良かった。地上に立つ。
「誰だ……俺の獲物を横取りした奴は?」
そいつは姿を現した。
「あのぅ、遅れてすみませぇん〜!」
アプリでやりとりしていた女の子だ!
可愛いなぁ。
「あっ、あの、初めまして。待ち合わせしていた……はわわ!? すごいケガですぅ!! 大丈夫ですかぁ?」
「はは、大丈夫大丈夫! ちょっと痛むけど」
気力を振り絞り頭を掻く。
「ふふふ」
笑った顔に僕まで笑ってしまう。
相手を笑顔にする笑顔って素敵だ。
「なら楽にしてやるよッ!!」
豹変した彼女は圧倒的なスピードで俺との距離を詰め、防御する間もなく何度も拳を叩きつけられた。意識が遠のいていく……倒れた。
俺は敗北した。
もうマッチングアプリはゴリゴリだ。
🔚
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