手裏剣の手入れ方法

お気に入りの服を買ったとき、新しい家電を買ったとき、気になるのは洗濯方法であったりメンテナンスの方法です。
手裏剣を稽古していてもそれは同じです。
手裏剣を稽古していると複数本を的に打ちます。そうすればどうしても先に刺さっていた手裏剣に次の手裏剣がぶつかるということも出てきます。金属同士が激しくぶつかるのです。しかも、上達すればするほど手裏剣がぶつかることは起こりえます。
意図して少し狙いを外すような練習もしますが手裏剣は時として「寂しがり屋」と言われるくらいに不思議と同じところに集まってしまうものです。
もともと投げて使う道具ですから神経質になる必要はありませんが、手裏剣同士がぶつかった時に金属がささくれ立っていたりしたら要注意です。
手裏剣の打ち方の基本の一つに「滑走」という技術があります。
これは手のひらを手裏剣が滑る動きを指し、手のひらや指を手裏剣がすり抜けて飛びます。
ですから手裏剣に小さな傷があると、知らぬ間にこの小さな金属の突起が手のひらや指を傷つけてしまうことになります。
痛みを感じてふと手のひらを見たら出血していたという話は実際に稽古をしているとあり得ることです。
ですから稽古中や稽古後には手裏剣の状態をよく観察することが必要です。
そして異変を感じたらすぐに手入れをすることです。
手入れには砥石を使って全面を研いで滑らかにする方法があります。
しかしこのやり方は慣れが必要であり、砥石をいくつも用意するのは大変手間もかかります。
そこで、ヤスリ掛けをして突起を無くす方法もあります。
ヤスリもたくさんの種類がありますが、目の細かいダイヤモンドヤスリや油目ヤスリなどはそう高価なものでもありませんので持っておくことをお勧めします。最近は100均などでも販売していますから。
このヤスリの表面ではなく角の部分などを使うと細かい突起や小さい範囲のメンテナンスが楽になります。どうしてもヤスリがなくてその場で突起を何とかしなければいけないときは手裏剣同士を擦り合わせることで応急処置をします。
手裏剣の手入れの頻度は基本的に使用頻度によって変わります。そして、その流派の理念なども関わってきます。
手裏剣を使う流派の中でも特に武士の作法を重視するところでは道具の錆は恥と見てピカピカに磨くところもあるそうです。
一方で、忍者、忍術を骨子とする流派では錆も使うというところもあるのでピカピカに研ぎあげることはしないという流派もあります。反射しないから見えにくくかわされにくい、錆のついた手裏剣で傷をつけると治りにくいという点をメリットとする考え方です。
そうした理念などはいったん置いておいて、現代において手裏剣を稽古している私個人の考えでは、頻繁に手裏剣を稽古で使用している人であれば手入れはあまり必要ありません。
しまいっぱなしの方が手入れが必要なのは意外と思われるかもしれませんが、手裏剣の手入れの主な目的はささくれの修理よりも錆がつかないようにすることです。
錆の一因は水分と塩分、つまり手で直接扱う手裏剣は常にこの錆と紙一重の距離にいます。
錆は大きく分けて赤錆と黒錆と呼ばれるものに分類されます。赤錆というのは赤茶けた錆で浸食性を持ちます。そのまま放置していると内部にまで浸食して鉄をぼろぼろにします。それに対して黒錆は名前こそ錆ですが科学的に言うと酸化被膜です。先にこの酸化被膜をつけることで鉄の大敵である赤錆をつきにくくしています。多くの手裏剣は何かしらの方法でこの酸化被膜で表面をコーティングしています。
一見銀色や鈍色に見えても、ごく薄くこの黒錆が表面を覆っていたりします。さらに手裏剣は手の表面を滑るように何度も触れることで適度に手脂などの油分で表面が覆われます。油にももちろん錆止めの効果がありますし、目に見えない色の錆が手によって落ちてしまうケースもあります。いずれにしても頻繁に使用している手裏剣には錆がつきにくくなります。
頻繁に使用せずに保管する時には水分をきちんと拭き取ることがなにより大事です。その上で長期保管をする場合、空気中の水分が触れないように油紙などで包むやり方が古来から一般的でした。しかし最近、工具などの保管において油紙はほとんど使われません。代わりに防錆紙というものがあります。これは密閉した容器にこの防錆紙を入れることで薬品が揮発して容器の中に入っているものの錆を防ぎます。その手軽さと確実さから今では油紙に代わるものとして様々な場所で活躍しています。伝統を守ることも大切ですが、それ以上に大切な道具を守るために、せっかく現代の便利なものがあるのですからこれを使って確実な保管をするのも一つの手です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?