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手裏剣術における「継ぎ矢」

手裏剣の持ち手に糸などを巻き付けた所謂「巻き物」を施した手裏剣で稽古をしていると、先に的に刺さった手裏剣の巻き物に次の手裏剣が刺さることがよくある。
動画で私は最初に刺した少し大型の手裏剣の後ろを狙いそこに刺している。
写真で見ると、巻き物の中央部分に次の手裏剣が刺さっていることがよくわかる。

棒手裏剣による継ぎ矢

この時は、刺さる瞬間を動画に収めるために意図して狙ってこの「継ぎ矢」の状態を作り出した。
しかし普段からこんな練習をしているわけではない。
普段であればむしろ逆に「適度に離して狙う」ことを心掛けている。

棒手裏剣は巻き物を施したものもあれば鉄製の棒そのままのものもある。
鉄製の棒であればこのように刺さることはほぼない。
ほぼ、と言うのは私は一度だけ鉄製の手裏剣に鉄製の手裏剣を刺してしまったからだ。しかしそれはとんでもなく特異なケースなので今は除外する。
金属同士がぶつかれば当然キズがつく。キズがつき、ささくれだった手裏剣を気が付かずに使うと手のひらや指をケガすることもある。だから手裏剣同士をぶつけないように多少離して狙うようにしている。なによりも強くぶつけてしまっては手裏剣がかわいそうである。
手裏剣に巻き物を施す理由はいくつかあるが、そのうちの一つが「手裏剣本体を保護するため」でもある。
それほどに気を付けているのだが、時に「手裏剣は寂しがり屋」と言われるほどに一か所同じところに集まりたがる習性がどうやらあるようだ。稽古をしているとつい同じところに手裏剣が飛んでいきがちである。
写真に写る他の手裏剣の巻き物にも細かい傷がいくつもついているのはそういう理由である。

この「継ぎ矢」の状態だが、弓道では珍しいものとされているが手裏剣の場合は距離が近いこともあるので比較的起こりやすいと言える。
また、弓道においては一射目と同じ軌道を二射目がなぞった結果と言われるが手裏剣においては実はそうではない。結果こそ似ているが手裏剣のこの現象は弓道の継ぎ矢とは全く異なるのだ。
弓矢の場合、矢は垂直方向に直線状に飛ぶ。しかし手裏剣は直線状には飛ばない。手裏剣術の基礎打法である直打法は切っ先が4分の1倒れながら飛び的に刺さる。つまり半円を描きながら飛ぶのである。一打目が的に刺さったとすると「刺さった手裏剣そのものの長さ」があるからその尾部は的よりも当然手前に存在することになる。だから二打目が一打目とまったく同じ軌道を描いた場合、二打目の手裏剣が先に刺さった手裏剣の尾部に刺さることはない。つまり尾部に次の手裏剣を刺すことは再現性の証明ではなく、別々の的を狙うことが出来るという一つのパフォーマンスであり、私がそれをする際には一打目の狙いよりもほんの少し下方向を狙う。そうすることで倒れながら飛んでいる手裏剣の切っ先が先に刺さった手裏剣の尾部にちょうど合い、結果として刺さる。
今回の手裏剣は尾部まで保護していなかったので金属がむき出しであるから、巻き物の中間部あたりに刺さったが、尾部まで保護した場合はもっと綺麗に手裏剣が立つこともある。

尾部に刺さる手裏剣


さて、上記の理由から手裏剣における継ぎ矢は再現性の証明ではないと言ったが、では手裏剣において一打目の軌道を二打目が綺麗になぞったらどうなるのか。正確な二打目の打剣が出来た場合は「真横に並んで的に突き立つ」のが正解である。私の手裏剣術においてはこの並んで的に突き立つ状態こそ打剣の再現性が高い証明であると考えている。
手裏剣が並ぶことは珍しいことではない。しかし、本当に同じ軌道を描いた時の並び方はそれとはまったく違う。巻き物に手裏剣が刺さる経験をしたことがある方は知っていることだが、手裏剣が「消える」感覚がある。目で追っていた手裏剣が突然消え、的に近づいてみたら巻き物に手裏剣が刺さっているのである。
本当に同じ軌道を描いた時もまた「消える」のである。

同じ軌道を描き並ぶ手裏剣
真横に同じ角度で刺さる手裏剣

まったく同じ軌道を同じように飛ぶということは刺さった後の状態も全く同じようになる。捻じれもなく、ただ真横に並び突き立つ。上記の写真はそんな結果である。手で刺したように正確に同じ角度で刺さってる。私自身もこのような打剣はほとんど出来ないが、これを再現して越えられるように常に努力している。

手裏剣における継ぎ矢は再現性の証明ではないが、正確に狙う意識がなければいけないことは変わりない。特に横にブレてしまうと成功の確率はほぼないので縦の軸をしっかりと通す意識を持つ一つの契機にはなる。
狙って毎回必ず出来ることではなくとも、正確性を求めていればいつでも起こりうる「未必の故意」のような状態であると言える。
先ほどから弓道の継ぎ矢とは違うと言っているが、同じ点もある。
弓道においても継ぎ矢をしてしまうと、周りはとても喜んでくれるが本人は複雑な心境になるという。つまり、矢が破損してしまうのだ。
手裏剣も同様で、こうなると巻き物を巻きなおさなくてはいけない。
糸を巻くだけの単純なものならまだいいが、手裏剣の微妙なバランスを糸の中で調整しているものもあるだけに、作り直すのも大変なのである。
複雑な心境だからこそ、縁起物として見ていただければいいなと願う。

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