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棒手裏剣の研究 その5

棒手裏剣の剣体に糸などを巻く「巻き物」を施すことでそれぞれの手に合わせて使いやすい手裏剣とする工夫をしていく上で、もう一つ並行して研究したいことがあった。
それが「房」である。
房は棒手裏剣の後部に数センチの糸などを束ねて取り付けるものである。

巻き物の研究でも述べたことだが、飛行する物体の後部に取り付けられた房は見た目にもわかりやすく「操舵翼」としての効果を期待できる。
ダーツの羽根のように、房があるだけで見た目にも飛行姿勢を安定させてくれそうだ。
私の先輩にあたる人がこの房を付けた手裏剣を愛用していたこともあり、手裏剣の稽古を始めた当初から房への興味は持っていた。

手始めに、糸を適当な長さに揃えて束にして手裏剣の後部(尾部)に取り付けてみた。長さの基準がわからなかったが、様々な手裏剣の資料などを見て、さらに手裏剣の大会のルールを参考にした。大会ルールとして房の長さは4センチ以内とはっきり定められていた。そこで4センチを上限として房を作った。
この房を付けただけで飛び方はがらりと変わる。この糸を束ねただけのものは見た目以上の効果を発揮してくれることは間違いなかった。

まず4センチの長さに揃えて房をつけて試打をした。距離は2間(3.6メートル)程から始めた。その感覚、手ごたえ、軌道などを目に焼き付けてから5ミリほど房を切ってみた。すると飛び方はやや鋭くなり、距離もやや伸びた。しばらく打ち、また5ミリカットしてみた。より直線的な軌道になり鋭く飛ぶ。ここからの理解として、房の役割が見えてきた。

手裏剣術に慣れてくると手裏剣が立ったまま倒れずに的に到達してしまい、結果として刺さらない状態に悩む時期がある。
その時期を越えると回転のコントロールを無意識に身体が覚えるが、コントロールは非常に繊細なもので、身体操作が完璧でも様々なものの影響を受けることがある。手で持っている手裏剣は汗や湿気などの手のひらの状態にも左右されやすく、時にピーキーな部分がある。
手から手裏剣が離れるのが遅いと立ったまま的まで飛んでしまいやすくなる。そうなったら絶対に刺さらない。そこで早めに手から離れるように工夫するのだが、それが早すぎると今度は手裏剣が回転してしまいやすくなる。
どちらが出てもミスになる。
初めて試した房付きの手裏剣はそうなってしまった時期を助けるものであるように感じた。
手裏剣術の基礎の一つ「直打法」は手裏剣が立って手から離れる。
尾部に房があるとそこに強烈に空気抵抗が掛かるので手裏剣が倒れやすくなる。つまり「立ったまま的に当たるミス」がほぼ出にくくなるのだ。
両極端な2つのミスが出るから難しい手裏剣術だが、どちらか一方が出にくくなれば非常に心強い。房は量と長さで構成されるが、長さが長いほど手裏剣への影響力は大きい。房を短くすると空気抵抗が減る。そうすると倒れるまでに必要な距離は伸びる。

この時点での私にとって房は「手裏剣を倒すためのもの」であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。
手裏剣を倒すものとして割り切れば非常に便利なアイテムと言えるが、この研究を始めた当初の予定としては手裏剣の性能を引き出して操舵翼のように手裏剣の飛行姿勢を安定させたかった。
しかし空気抵抗はそのまま「抵抗」である。
尾部に抵抗がある以上は水平距離を延ばすことが出来るのかどうか疑問は残った。
ある一定の距離で必ず倒れるということはメリットだが、抵抗を受けて回転して手裏剣が倒れているということは、それ以上の距離になったらもう刺さらないということでもある。つまり一定の距離ならポンポン刺さっていても、そこから数歩距離が変わると刺さらない状態になってしまう。これでは操舵翼の効果は期待できない。
デメリットを軽減する方法はないかと、房の材料を変えたり手裏剣本体の長さや重さ、形状を変えて試行錯誤することとなった。
そして、面白い形に出会った。

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