手裏剣における「仲間」の意味

手裏剣術は独習可能な武道であるとよく言われる。
一人で練習を始めても上達出来る武道とも言う人がいる。
間違ってはいないだろう。
間違ってはいないが大切なことが抜けている。
正確には「正しい知識と継続した努力があれば一人で練習を始めてもある程度一定のレベルまでは上達出来る可能性がある」である。手裏剣術はその人の感覚による部分が非常に大きいのだ。だからある人が上達した練習方法をそのまま別な人間に施しても同じ上達曲線を描くことはできない。それはすなわち個々の感覚によるものが大きいからだと私は考える。

私は手探りで手裏剣術の研究を始めた。
基礎といえるものを教えてくれる人もいたし、今はインターネットで調べればどんなもののノウハウもある程度は調べることができる。調べた中から必要なものを選んで活用しようと考えた。
しかし、始めてみたらこれが予想以上に困難な作業だった。
例えば「滑走」という言葉がある。手の中を手裏剣が滑る動きをそう呼ぶのだが、これを使っていい手裏剣と使わないほうがいい手裏剣が存在する。それは手裏剣の倒れやすさを左右するバランスによって決まるのだが、そんなことを事細かく書いているような都合のいいサイトや技術書は見当たらなかった。基礎として「滑走」がありますと書いてあるだけなのである。
また「手裏剣を抑える」という言葉がある。これは滑走と似た概念だが、手裏剣が倒れる時間を遅くするために手離れの瞬間に手裏剣の尾部に的方向へ指先で力を加える。そうすることで手裏剣の切っ先は反作用として的と逆向き(進行方向に向かって逆回転)がわずかにかかるのでそれで的までの回転をコントロールするのである。これも当然ながら、その人の使用している手裏剣によっては合う、合わないがあるし、指先でどの程度力を加えるかはその人の手や身体の状態によって大きく異なる。
そして、逆説的な言葉も当然ながら存在する。
「壁塗り」という言葉がある。手裏剣のリリース時に壁を塗るように手を的に沿って上から下へ動かして手裏剣の回転を抑える動きのことで、これはやってはいけない動きとされている。
「滑走」と「抑え」と「壁塗り」はすべて同一のものを指す言葉であり、やっていることを目の前で動いて見せても違いは誰にも分らないだろう。しかし明確な違いは存在する。
つまり情報がいくらあったとしても断片的なものが多く、それをいかに自分の中で再構築出来るかが大きなポイントになっているのである。そして情報が溢れているからこそ、余計に迷いやすいのだ。
ノウハウとはよく言ったもので英語表記にするとknow-how、つまりどうやっているのかを知らなくてはいけない。
自分一人だけの試行錯誤でもある程度までは上達出来るかもしれないが、それには途方もない時間がかかることもある。それに「ある程度」までは上達出来るかもしれないが独習ではそこで頭打ちになる可能性がある。
独習でやっていることが「ある程度」の形で上手に的に刺せる名人になるための練習である可能性は誰にも否定できないのである。
私は「一人で稽古できるからこそ手裏剣術には仲間が必要なのだ」と考えている。
上達には客観性が不可欠なのだ。客観性とは誰かと比べて高確率で的に刺せるとか長距離を打てるとかそういうことではない。
自分の身体の動きや剣の飛び方、リリースのタイミングなどを見て違いを感じ、なぜ違いが生じているのかを理解することである。
それは使っている手裏剣の種類によっても違うし、その人なりの打剣時の感覚も違う。その違いを言語化してもらい聞くことで自分との違いを理解する事ができる。もちろん、自分の考えを話すことも大切だ。それに対する反論などがあれば最高ではないか。
私の打法は人と比較をするとリリースがやや遅い。それは私のクセのようなものだが人に言われるまで気が付かなかった。言われて初めて他の人を様子を事細かに観察して「確かにリリースが遅い」と感じた。
それはリリースを遅らせることで「強い打剣」を打とうとした名残かもしれないし、腕をいっぱいに長く使おうという意識の表れだったかもしれない。「力をタメ過ぎると野球投げになりませんか?」という意見も出てくる。そうした議論そのものが後々に全く違ったことで迷った時に解決の糸口になってくれたことはいくつもある。
手裏剣術というのは感覚を重視するあまり、一人一流派と言われることがあるが、その経験や感覚は分け合うことはできると考えている。
私自身、手裏剣は一人で練習する時間が多いがそれでも仲間の存在はありがたい。YouTubeもこのnoteも仲間と共有するために始めたことなのだ。
何よりも、手裏剣術は上手くいくことよりも上手くいかないことのほうが圧倒的に多いのだ。自分一人だけで立ち向かいのはあまりに困難な頂なのである。私は仲間からの励ましやアドバイスなしにはとても続けることができなかった。一人で稽古していても完全に一人ではないのも手裏剣術の魅力である。

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