手裏剣の距離の延ばし方
棒手裏剣を稽古していると距離を延ばしたくなるのは誰もに共通する願いと言える。
距離の延ばし方を考える前に棒手裏剣の適正距離の話をしよう。
棒手裏剣の適正距離は流派の考え方によっても違うが、棒手裏剣を武器と捉えた時には相手が無手なら1間、刀を持っていたら2間、槍を持っていたら3間の距離から打てと言われる。
1間は畳一枚分、1.8メートルである。2間で3.6メートル、3間で5.4メートルである。
手裏剣術の場合、2間前後の距離から稽古を始めることが多く、3間で遠間と言われる。この距離を近いと感じるか遠いと感じるかは人それぞれだろう。ちなみに現存する手裏剣流派の中でも根岸流は最長距離の射程を誇ると言われ、5間(9メートル)で剣が的に垂直に立つと言われているし、11メートル程度は射程距離とも言われる。それ以上は弓の距離だ。
11メートル、手裏剣術を稽古しているとこれは長距離に分類される。そもそも半分の3間(5.4メートル)でもう長距離なのだ。
ちなみに野球のピッチャーマウンドからキャッチャーまでの距離は約18メートルある。
アスリートと一般人を比べるわけにはいかないが、それでもあえて言えば人間はボールを18メートル投げるだけの力は持っている。ただ投げるだけならそれこそ現役の野球選手は120メートルの遠投も可能だ。
手裏剣術の場合、それが5.4メートルでも長距離と言われる。
これは一つに手裏剣を武器とするなら、十分な威力が必要であり、その威力を保ったまま使える距離が限られているからだろう。
そもそも、手裏剣の殺傷能力については私は懐疑的である。
話を戻すが、十分に威力を保ったまま使える距離が短いから射程距離が短い。それに加えて、手裏剣の直打法の性質も射程距離が短い原因の一つだろう。切っ先が上を向いたまま飛び出して90度倒れる。
これは人間の腕の構造上、こう打つよりほかにないのだ。
もし人間が手裏剣を弓やアーチェリー、ライフルのように水平方向に発射することができればその射程距離ははるかに向上し、威力も増すだろう。
しかしそれは構造上不可能である。
直打法は手裏剣術の基礎と言われているが、実はこの直打法の動きが手裏剣術を難解なものにして距離を制限しているものの正体なのだ。
しかし、それに向き合って技術を磨くことに意味がある。
人間がいくら頑張って走ろうが自動車には適わない。でも人間は走るのをやめない。だからこそ100メートルを9秒台で走れる人はヒーローなのだ。
さて、本題の直打法の距離の延ばし方だが、上記の通り、人間はもともと適切な重ささえあれば10メートル以上ものを投げることは容易である。
それは成人男性のみならず力のない女性や子供でも可能だろう。
届かせることは出来るのだ。
まずは届く!このことは強調したい。
それほど力を入れずとも、だれでも3間程度の距離は届く。
そう捉えていただきたい。そうすることで余計な力みは抜ける。
実際に3間の距離を難しくしているのは力の有無ではなく直打法の特性にあるのだ。
手裏剣において3間に壁を感じている人の場合、多くは的に当たった時に切っ先が下を向いている。つまり手裏剣が縦方向に回転している状態にある。直打法は切っ先が90度倒れて刺さる。
これが180度回転しているから刺さらない。それだけのことなのだ。
なんだと思うだろうが、ここからわかることとして手裏剣はグルングルンと回転しているものではないということ。失敗したとしても180度下向きになっているだけ。さらに言えばその回転は160度から170度ほどかもしれない。
手裏剣の作中範囲はおよそ水平からプラスマイナス45度の範囲と推察される。もっと厳密にいえばさらに余裕があるだろう。つまり145度程度なら何とか刺さるのだ。
もし160度ほど倒れて刺さらない距離があってそこに壁を感じているなら「あとたった15度」手裏剣が傾くのを押さえればその手裏剣は的に刺さることになる。
もう一度言う。
たった15度傾けるのを押さえるだけでいいのだ。
では具体的にどうするか。
いくつかの方法を挙げる。これらを当てはめるもしくは複合的に使えば必ず距離は延びる。
一つは腕を楕円の軌道で振ることを意識してほしい。
手を真上にあげて真下に落とす軌道から耳の後ろもしくは後頭部あたりに持ってくるように手を引く。打つ時は真下ではなくやや目標方向に腕を振ってほしい。そうすることで腕の軌道は長楕円となる。剣術などに長けた方が手裏剣に取り組むとどうしても刀を振り下ろすように身体を使う。刀は引くか押すかして初めて斬れるものだが、刀には反りがあるので真下に腕を下すだけで本人は意図せずとも自然に「引く動き」が出来る。剣術に長けた方はその動きを身体に叩き込んでいる。それは本当に美しい動きだと私は思う。しかし、ことこの点においては刀は刀、手裏剣は手裏剣とでもいうべきか、手裏剣で長距離を打つためには別物と捉えることが必要な動きであると言える。
長楕円に振ることで腕が水平方向に動く時間がわずかだが長くなる。結果として手裏剣に力が乗り距離が延びるだろう。ただし、砲丸投げのような投げ方はしないでほしい。砲丸投げは極端に重いものを投擲することに特化したフォームであり、手裏剣であれをやっては肘を痛めてしまうし力も乗らない。円から長楕円に、意識下で変える程度で構わない。それだけでも結果は変わるはずだ。料理の隠し味ではないが、見た目にはほぼ変わらない程度で構わない。手裏剣は隠し武器でもある。そのコツもまた隠して使いたいものである。
もう一つ、これも隠し味程度で多様はあまりしてほしくないが、手裏剣が手から離れる際に手裏剣の尾部を少し押すように弾く方法がある。
最終的に15度倒れるのを押さえたいのならば射出角度を90度ではなく105度にすればいいのだ。
切っ先がやや自分側を向くように、尾部側から打つ。
ただしこれはあまりいい動きではない。
一部の流派ではこれを「壁塗り」と言ってあまりいいものとは捉えていない。その理由は長くなるのでいずれにするが、応急処置的に距離を延ばすには効果的である。ただし、使う手裏剣によっても差が出る。
先端の太い先重心の手裏剣の場合はこの動きはしない方がいい。単純に相性が悪いのだ。
またこれで距離を伸ばしたとしても、いずれはここまで極端に手裏剣を押さえずに自然な手の内で打てるようになってほしい。
最後にもう一つ。
手裏剣が回転しすぎて刺さらないのであれば、回転する前に的に到達するよう「強く打つ」方法がある。
その場合、ただ腕力だけで強く打っても意味がない。
身体の重さや腕の重さ、位置エネルギーを運動エネルギーに転換して使いたいが。しかしそれにはコツもいる。
では強く打つにはどうするか。
一番効果があるのは単純な筋力アップである。
手裏剣も武道であり武術なのだ。力がなくても出来ると言われているが、時として力が必要な場面もあるのだ。だからトレーニングは必要であると考えている。まず身体を作ること。これは壁を壊すエネルギーにもなる。技を鍛えると同時に身体を鍛えることは必要だろう。きっと手裏剣だけでなく人生を豊かにしてくれる。
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