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秋ピリカグランプリ応募作/短編小説/「紙」


小学生を中心に「紙」という都市伝説が話題になっていた。
妖怪。幽霊。宇宙人。はたまた人間か。
その正体は分からないが特性は詳細に知られていた。

「紙」が現れるのは夜7時から深夜12時の人通りのない道。
気配はなく背後から声を掛けてくる。
ぼっちゃん。ぼっちゃん。とゆっくりした口調で二度。
降り向くと「紙」が立っている。大きさはおよそ2メートル。
鍔の広い黒い帽子を被っており
笑ってる口元だけが見える。
そしておもむろに「紙」を差し出してくる。
無地なら回避。しかし言葉が記されていたらアウト。
その紙を受け取った者は体が溶けてしまうというのだ。

そのため「紙」から身を守る対策もあった。
「紙」は燃えるので
振り向いた時にライターの火を見せると逃げると言われていた。

ネット記事から広がった「紙」は瞬く間に子供らを恐怖に陥れた。
かつての口裂け女やトイレの花子さんと同じような社会現象を起こし
塾や習い事に行けなくなる子供が続出するなどの事態が頻発した。

Yahho!のトレンドニュースの1、2位は今日も「紙」に関する話題だった。
高杉はそれを見ながらペットボトルのコーラを飲んでほくそ笑んだ。
まさかここまで広がるとはな。
実は高杉こそが「紙」の生みの親だった。当然でたらめに書いた記事。
pv が伸び悩むweb 会社に勤める高杉は編集長から尻を叩かれ
やけくそになって「紙」を生み出したのだった。
もちろん最初は世間もスルー。同僚にも馬鹿にされたが
毎日続報を打っては文字通り「紙」をばら蒔いた。

反応したのは純粋な子供達。
インフルエンザの如く彼らの感染力は凄まじい。
存在しない「紙」の目撃情報まで出回ると一気に全国的に伝播した。
それに伴ってpv は上昇し続け高杉も加速した。
恐怖を煽りつつそれっぽい逸話を仕込むことでより信じこませる。
親達から「子供を怖がらせるな」と苦情が殺到しても無視して連投した。

だがある日事件が起きた。
小学生が友達を脅かそうと「ぼっちゃん」と背後から呼んだ。
するとその子は護身用のライターを携帯しており
振り向いた際に相手の子の服に火が着いて火傷を負わせてしまったのだ。

以後「紙」の記事は一切禁止された。
「少しやり過ぎたな」と高杉は編集長から別の部署への異動を命じられ
皮肉にも辞令の紙を突きつけられることとなった。

その晩飲み屋を二軒はしごした高杉は人気のない夜道を歩いていた。

すると「ぼっちゃん、ぼっちゃん」と背後から呼ばれた。

マジか。
高杉は苦笑した。
ふざけんな。誰だと思ってんだ。
「おい」と振り向いた刹那はっと息が止まった。
そこにいたものを見上げた。

鍔の広い黒い帽子を被った2メートルを越える奇妙な物体。
すいと差し出された紙を高杉は条件反射で受け取ってしまった。

「私を生んでくれてありがとう」
 
 紙にはそう書かれていた。

 鍔の縁に見える口元がにっと広がった瞬間 

 高杉の手は闇と同化した。


            文字数1200字


  初参加です。宜しくお願いします。
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