自殺天国

 ある家屋の一室に数人が集まっていた。
 「今どき首吊りなんてダサいよ、薬物なんかスカッとするぜ。」
   「犯罪者として死ぬのはヤだな。やっぱ王道に切腹だよ。」
   「自殺って王のすることか?集団切腹なんて絵面がギャグだろ。ここはスタンダードにガスだな。」
   「関係ない人を巻き込みかねないしなぁ。だから首吊りだって。」
   いい自殺方法はないかとネットを彷徨っていた際に意気投合し、どうせなら心中しようと誰かが言い出したのが発端だ。
 「でも首吊りって死んだ後に糞尿垂れるって聞くぜ。」
 「どうせネットで聞いた話だろ、話半分に聞いとけ。」
   「オシッコだけ漏らすとか?」
   「アホ。」
   「そんなことよりここに呼んだのって誰だ?呼ばれるままに来てしまったけど。空き家って感じもしないし。」
   「それは俺も気にはなってたけど言い出しっぺの持ち家なんじゃね。」
   「その言い出しっぺは誰だよ。」
   「さぁ?」
   部屋の扉が大きな音と共にゆっくりと開いた。
   一人の小男が立っていた。
 「皆さんお揃いで、私が発起人です。最近は自殺するにも周りに止められますからねえ。つまり、誰にも邪魔されない場所を提供することが私の役割です。後始末も必要でしょう?」
   「そう言えば噂で聞いたことあるな。自殺したい奴の前に現れるという不思議な存在、確か通称死神。」
   「またネットか。しかし、それでアンタに何の得があるんだ。」
   「娘さんだか奥さんだかのドナーを探しているって話。」
   「何故お前が答えるんだ。まぁいい、要するにアンタにも利はあるってことか。見つかるといいな。」
   「ありがとうございます。では、ごゆるりと。」
   小男は部屋を出た。
 「自殺する奴つかまえてゆるりも何も無いだろうに、つうか何しに来たんだ?」
    「どうでもいいだろ別に。いやぁしかし誰かと心中するの夢だっだんだ。昔は自殺自体駄目だったって言うだろ?信じられないよな。」
    「届出出せばオッケーだもんね。昔の人って自殺する権利も無かったんだね。」
    「文化が違ったんでしょ、歴史ではよくあることだよ。」
    「まったく良い時代に産まれたものだ。とは言え死に場所を指定されるのは少し不満だけど、まさに自殺天国だ。」
    そのとき、小男は監視カメラで部屋の様子を見ていた。
 「勝手なこと言ってる。」
 小男の正体は悪魔だったのだ。
    「権利ってのは組織あってのものなんだぞ。許されてないからこそ、そこかしこに死体があったのに。今じゃ皆役所に届出だ。おかげでこっちは役人に扮して来る日も来る日も書類と睨めっこ。自殺の名所で待機してりゃよかったのが懐かしい。ああ畜生忌々しい、全く冗談じゃない。こんなのは地獄と言うのだ。無駄に仕事増やしやがって。」
    カメラに向かって虚しく叫んだ。
 悪魔が仕事をし辛くなり、正しく天国と言えるだろう。
 
   
   
   


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