無職男
無職がいた。グータラでいい加減で不精者の男がいた。無職になるべくしてなった男であった。
例のごとく家でゴロゴロしているとノックの音が聴こえてきた。
「おーい、居るかぁ。」
古い友人の声だ。根っからの世話好きであり週に一度家に来ては片付けをしてくれる。友人なくして男の生活は成り立たない。
「居るなら返事くらいしたらどうだ。」
男は適当に手を振る。
「まぁいい、コレが今週分の献立だから。冷蔵庫に入れておくからチンして食べて。」
タッパーに詰められた料理が並ぶ。
「いつもありがとう。」
「いいよたいした手間でもないし。料理を趣味にすると処分に困るから。そんなことよりそろそろ働いてみれば?」
男はタッパーを電子レンジに入れ答えた。
「国民には落ちぶれる権利があるんだ。堕落してもいいんだ。」
「またいい加減なことを。勤労の義務はどうした。」
友人は諭すように言う。
「無職は働かないのが仕事だろ。だからこれでいいんだ。」
友人は呆れた顔をして言った。
「アホか君は。そもそも無職は仕事じゃない。」
男はそれでも言い返した。
「仕事しない日を休日と言うが無職とは言わない。つまり今仕事してないことと無職であるかどうかは関係ないということだ。有給は知らんが休日だから賃金が発生するわけでもあるまい。要は同じことなんだよ。私は仕事として無職をしているのだ。」
「どういう仕事だ。」
友人は納得していない様子だが男には関係のないことである。別段理解してもらう必要もないのだ。
「とにかく無職としては就職しないのが筋だから仕事には就けない。そうなったらもう単なる詐欺だ。」
「無職を名乗らなかったらいいだけじゃないの。」
話が長引きそうだったので男は話題を変えることにした。
「そう言えば前回の件だが、私が死ぬ前に香典は前払いにしてはくれないか。」
「そうならないように生活を見直せって話だっただろ。香典貰ってどうする。」
「どうすると言われても死ぬだけだろう。香典貰って死ななかったら単なる詐欺だ。」
特に悪意があったわけでもないが友人は面白半分で香典を渡してみた。
途端に男は倒れ、音もなく息を引き取った。香典を取り上げてみると、男は息を吹き返した。
男によると、香典を取り上げられた以上死ぬわけにはいかなくなったらしい。
それ以来、男を無理矢理就職させたらどうなるのだろうかと気になって仕方のない友人だった。
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