生まれ変わり

 15の春、鏡を見た瞬間に全てを理解した。
 俺絶対生まれ変わりだわ、と。
 兎に角自慢がしたかったので学校で友人に話した。
 少しざわついている朝の学校。まあまあ仲のいい友人に近づいた。
 「おはよう。そんなことより聴いてくれ。昨日凄いことに気づいたんだ。もう世紀の発見、ノーベル賞クラスのやつ。」
    友人は怪訝な顔をしている。多分ホラーかなんかでも見ちゃって顔面がつったんだろう。温めると良いよと伝えてるとますます変な顔をした。人の好意がわからんとは哀れな奴だ。他人から優しくされたことが無いのだろう、これからはもっと優しくしてやることにした。
 友人は、飼い主が寄ってきたときの猫みたいな顔をしている。
    きっとツンデレなんだろう、その可能性は誰にも否定できない。
 「そんなに知りたいのか。俺も嬉しい。いいかよく聴け、俺実は生まれ変わりなんだ。誰の生まれ変わりだと思う?」
    友人はまだ顔がつっている。
 「焦らして悪かった。まさかそこまで興味を持ってくれるとは思わなかったんだ。」
    「誰の生まれ変わりだと言うんだ。」
    友人はようやく口を開いた。これは亀の足に匹敵する早さであり、友人の思考速度は世界レコードだと言わざるを得ない。他の奴ならナマケモノやカタツムリとタメをはる。
 俺の周りはどうも口を開くのが遅い傾向がある。発言が妙に少ないというか。おそらく俺に対して失礼の無い様に言葉を選んでるんだろう。
 「言うなら言うで早くしろよ。言わないなら帰れ。」
     一体友人は学生の本分を何だと思っているのか。帰ってどうする。
 「すまない。聴いて驚け、その生まれ変わりとは俺のことだ。」
    「だから誰のだ。」
    「だから俺だって。」
    「うん?ひょっとしてお前の生まれ変わりとしてお前が生まれたってことか?」
    「始めからそう言ってるだろ。」
    「聴いて損した。」
 「理解できないことを損だと考えるのは勿体無いぞ。お前の家には家電も無いのか。」
 「昨日さ、乱暴だって先生に叱られてお前『窓ガラスは反抗期なんでしょうな、困ったものです。』とか言ってたよな。聴くだけ時間の無駄なんだ、お前の話は。」
 「すると理解自体は出来たのか。それならいいんだ。」
    「イヤ出来てないけど。」
    「よく偉そうなこと言えたな。」
    「じゃあ説明しろ。お前の生まれ変わりがお前って、それはただの同一人物だ。」
    やはり友人はツンデレだ。疑惑は確信に変わった。あるいは単なる反抗期かもしれない、中2だし。でも俺に反抗しても仕方がないと思う。
 「前世の俺に顔がそっくりって意味だ。」
    「どうやって前世の顔がわかったんだよ。」
    「前世も同じ顔だって自信がある。なんなら確信と言い換えても構わない。」
    「自身である自信があるのか、これは上手い。一本取られた。さあ自分の席にお戻り。」
     友人は興味を失った途端に露骨になる。
 「洒落になったのは偶然だ、俺の溢れる言語センスのせいで勘違いさせちゃってごめん。お前は信じ難いだろうけど本当にそっくりなんだから仕方ないだろう。同一人物かと疑うレベル。ちなみにお前とはビックリする位似てない。別人かと疑うレベル。」
     「確信しろ。」
 友人が冷たい。おそらく嫉妬だということは想像に難く無い。俺の顔に似てないことがよほどショックだったのだろう。でもね、現実逃避しても辛いだけだよ。
 「しかしお前がお前の生まれ変わりとは驚いたなあ、ビックリ。さあお戻り。」
    「信じてないだろ。」
    「わかったわかった。信じりゃいいんだろ。」
    「ところで話は変わるけど、窓ガラスも生まれ変わりたかったのか家出しちゃってさ。謝るのについてきてくれ。」
    「帰れ。」


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