桃太郎の話

 周りの人がヒソヒソと俺を見ながらナイショ話をしてるんだけど感じ悪いったらありゃしない。どうも普通の人は犬と会話できないらしいね。俺を不気味に思ってるって訳だ。じゃあ何で俺は犬とお喋り出来るのか、そんなもん俺が知るか。そんなこんなでお爺さんに聴いてみることにした。
 「昔婆さんが川で桃を拾ってきたんじゃ。」
    川の側で拾われたんかな、まぁ俺の親にしては年を取りすぎだもんな。少し寂しいが仕方ない。
 「桃を割ろうとしたらお前が生まれた。」
     急だなぁ。何の前触れも無しに?これからデザート食べようってときに?困惑しか無いわ。コイツよっぽど桃食いたかったんだなぁ、そうだ!名前は桃太郎にしよう!なんてか?アホか。
 お爺さんは察したように言い直した。
 「違う。桃の中から出て来たんじゃ。」
    アホは俺だったようだ。お爺さんがボケてたら良いのにと思ったのは生まれて初めてのことだったね。どうでもいいけど俺のおへそは一体何処に繋がってたんだろうか。
 混乱した頭を抱えてその場を後にした。
 俺は桃なのか、それともお爺さんがポエマーなだけで何かの比喩なのか。わからないまま布団の中で思考をグルグルさせてた。せめて桃が残ってりゃいいんだけど残念ながらもう食べちゃったらしい。
 桃から這い出る謎の子供をよく育てようと思ったなとか、結局何で俺は犬と会話が出来るのかとか、疑問の多い1日だった。
 新しい朝が来た、絶望の朝だ。
 「お爺さん、お婆さん。鬼ヶ島に鬼退治に行ってきます。」
    自分が脊椎動物ですらなかったのはショックだけど今はどうでもいい。ボヤボヤしてると俺も食われる可能性がある。
 ひょっとして周りの人も「犬に話しかけて不気味な子ね。」じゃなくて「そろそろ食べ頃ね。」とか言ってたのかな?最近やけに布団から桃の香りがするなぁとは思ってたんだよ。まさか自分の体臭だったとは一本取られた。
 全然寝れてないせいか思考がおかしい。
 「そうかい、仕方ない。これを持ってお行きなさい。」
    そう言って日本一の旗印ときびだんごを持ってきた。チョイスはわからないけど好意は嬉しいから素直に受け取った。
 食料はきびだんごのみだから仲間は厳選する必要がある。人を仲間にしたら鬼ヶ島に着く前に消え失せるだろう。ああそうか、そもそも俺が食料だ。喧しいわ。
 そんなことを考えながら旅をしてると道中に犬と猿と雉に出会った。やたらと鼻の良い奴らだったのできびだんごをあげて誤魔化したらお供になった。神様!どうか俺が桃だとバレてませんように!
 一応言っとくと鬼ヶ島を選んだのは理由がある。鬼ってなんか桃を食べるイメージ無いじゃん?共生出来るかなって。なのに桃食べそうなのが仲間になってしもた。俺が何をしたと言うんだ。こうなったら隙を見て鬼に寝返ろう。
 鬼ヶ島に着いた。まずは未来の住居を下見だ。とか考えてたんだけど勝っちゃった。勝っちゃった…。勝って…しまった…。
 「争いとは空しいものだなぁ。」
 でも今は鬼の財宝で遊び尽くしてやろうと思ってる。こうなりゃ生きるが勝ちだぜ。
 「皆俺に続け!」
    こうして桃太郎はお金と武力で市民権を勝ち取り幸せに暮しましたとさ。
 
 


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