ダメキング

 小さな頃からある才能に溢れた者達がいた。彼らはまさしく天才であり、メキメキと頭角を表していった。才能のない者はただ蹂躙されることしか出来なかった。
 それから数年後、ここに1人の青年が集団に絡まれている所から始まる。
 「お前じゃ力不足だ。出直してこい。」
 「お前ごときがダメさんに勝てるわけないだろ。」
    「馬鹿と駄目は違うぞ。あの方を見ろ。」
 言われた方に目を向けるとひときわ大柄な男が佇んでいた。
 「ヨォ、ルーキー。ああ、名前は要らねえ。どうした、俺に何か用か。」
 青年が話そうとすると、後ろから少年が飛び出し男に言った。
 「タカシの仇だ。」
    そう言うとフライパンを掲げて殴りかかったが、アッサリと捕まった。
 「クソッ、放せ。タカシの仇を討つんだ。」
 ダメさんと言われる男に辿り着きもせず取り巻きに首根っこを掴まれている。
 「世の中には想像を絶する馬鹿もいたもんですな。」
    男は立ち上がり、少年に話しかけた。
 「おいガキ。タカシに言っておけ。ダメさん以上のダメ人間はこの世に存在しませんとな。俺よりダメじゃないのが悪いんだよ。」
    「うるさい黙れ、何がダメ人間だ。ダメじゃない方が偉いに決まってるだろ。タカシは勝ったんだ。」
    「止せ止せ。醜い嫉妬は、いつの時代も空しいだけだ。心の広い俺様は受け入れてやるがな。」
    男はクルリと踵を返し、青年を向いた。
 「待たせたな。」
    男は生まれついてのダメ人間だった。およそ努力という努力をしたことがない。ダメ人間の才能に愛された男であり、その才能は留まるところを知らない。どこまでもダメ人間になり得る器の持ち主だ。
 「構わんが、ダメさんとはけったいな名だな。」
 青年もまたダメ人間の素質があった。ダメと違うのは、努力するダメ人間だということだ。
 「口には気をつけろ。ダメは本名だ。」
    ダメは少し怒りを感じた。
 「それはすまない。変わった親もいたものだな。」
   ダメは怒りに身を任せ、取り巻きの1人を青年に投げつけた。
 「親の悲願であるダメ人間を成就したのがこの俺だ。親と名前にケチをつけられる筋は無い。悪いが手加減は無しだ。」
   「謝るなよ、ダメの名が廃るぞ。それに怒っているのはお互い様だ。」
    ダメは捲し立てる様に攻撃を仕掛けて来た。それに対して青年は避けるだけの防戦一方だ。
 「お前が何に怒る。噂なら聞いてるぞ、努力するんだってな。ダメ人間の風上にもおけない奴だ。教えてやろう、お前にダメ人間の才能はない。」
    猛攻は続く。
 「ダメ人間ってのは才能だけで渡っていけるものではない。笑わせるな、結果ダメ人間になっただけの奴が自らダメ人間になった奴に勝てるわけないだろ。」
    「なんだと?」
 攻撃の手が緩んできた。
 ダメは真面目すぎた。言われるままに、言われた通りにダメ街道を走ってきたダメにダメ人間のあり方も本質もわからない。ダメに迷いが生じた。
 青年は迷いから生まれた隙をつついた。
 「俺こそダメキングの器。お前なんかダメ人間失格だ。見せかけだけの悪人間め。」
 少年は、余計タチが悪いなと思ったが口には出さなかった。
 ダメはガックリと膝を落として手をついている。
 「俺は、ダメじゃなかったのか?数十年も、俺は、何をしてたんだ?俺は、俺は、一体何なんだ。」
 ダメにもう戦意はない。
 「わかったら少年を解放しろダメダメ。」
   ダメグループは退散した。
 「あの、ダメ人間と悪人間の違いは正直わかんないけど。助けてくれて、ありがとう。」
 少年は気になることがあったので思い切ってきいた。
 「ねえ、ダメなのと悪いのを一緒にされてそんなに嫌だったの?」
    「当然だ、敬意を払わないのと対価を払わないことくらい違う。犯罪は悪いことだろ。わかったか犯罪者。失礼、そもそもタカシにお金借りようと思ったのにダメダメのおバカ野郎のせいで結局借りられなかったし。もう君でもいいからお金貸して。」
 「ダメだこの人。」
    「ありがとう。」
 
 
    
 
 
    
 
   
 


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