クローン

 「クローン技術を確立した彼に盛大な拍手を!」
大勢の拍手に包まれながら博士は手を振った。
 日照り、干ばつ、洪水、温暖化、戦争…世界からほとんど全ての食物がそう遠くない未来に消え去ろうとしていたとき、大きなニュースがあった。
 それがクローンの完全なる確立システムである。食糧危機の問題を前に頭を抱えるのみであった世界に一つの答えをもたらした。これで飢餓など未来永劫起こらないと誰しもが思った。
 しかし、ときは既に遅く全世界が受け入れるには少し時間が足りなかった。クローンよりオリジナルの方が圧倒的に人気があったのだ。食料を優先し、どうやっても食用不可の存在が地上から追いやられたこともあって世界からオリジナルの食料は完全に姿を消した。そのうちクローン人間が現れ始めた。種の存続を自らのクローンに託して自死を選んだのだろう。クローン技術の発達させた張本人として責任を感じた博士は自らを改造してGM作物となった。オリジナルの存在が最早人間しかいなかったからだ。一人のクローンがそれを見て学習し、情報が共有された。
 それから、最近ではもっぱら博士のクローンが食べられている。クローンの全てを知っていた博士は死んでしまったし、クローンも人間の食料化の方法しか見てなかったからだ。クローンしか居ないこの世界で食糧危機が起きることは確かに未来永劫あり得ないだろう。


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