マネキン

 カフェ内で1人の男がぼやいていた。
 「ああクソッ、見る目のない奴め。俺の何処が問題なんだよ。」
    男は就活に連敗しており、半ば自暴自棄になっていた。
 「段々面倒くさくなってきた。もう何もしたくない。人手が欲しいなら企業側から声を掛けてこいよ。」
   そこに老人が話しかけてきた。
 「もし、少し声を聞いてしまってね。話だけでも聞いてみないか。君にとって良い話のはずだ。」
 男は少し考え、ついて行くことにした。
 「しかし、こんなところで俺は何をすれば良いんだ?俺に出来ることは無いと思うが。」
    「君の言う通りだ。何もしなくていいんだよ。」
    老人はいきなり謎のスプレーを吹きかけてきた。
 「うっ!急に、何を…。」
 「説明がまだだったね。私は、見ての通り服屋を営んでいるのだが、客足は多くない。やはり服は人が着てこそ真価を発揮する。私は考えた。人が着ている状態で店に並べてはどうか、と。どうだ、斬新な発想だろう。しかしすぐに行き詰まってしまった。どんな服でも古着になってしまう。そこで開発したのが先ほどのスプレーだ。この液体は生命のあらゆる活動を止める効果があるが死ぬわけではない。時間を止めると言った方がわかりやすいかな?ここが一番苦心したところでね。店先に死人が並ぶのは縁起が悪いし、購買意欲もそそられないだろう。生物学的には死んでいるかもしれないが、簡単に復活できる。つまり今の君は人であって人でないし文字通り何をする必要もない。」
   男は既に何も聞こえていない。ただ意識のみがある状態だ。
 「人の真似事のような存在が賃金を貰うのだからマネキンなんて名前はどうだろうか。うん、我ながら良いネーミングセンスだ。」


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