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桜尽くしと公法研究会(令和3年司法試験予備試験行政法)

おやおやおや。一夜明けた勉強会は何やらざわめいています。
それもそのはず、あの澤谷加奈子弁護士が講師席についています。
妹の奈美弁護士も並んで座っています。
もちろん、タヌキというかムジナというかその類(たぐい)の深瀬さんもいました。
公法研究会を宿泊付きの勉強会で頑張る生徒さんと一緒にしようという粋な計らいです。
昨夜の持ち寄りビュッフェから、サプライズで澤谷姉妹が登場してから場内は興奮のるつぼと化してしまいました。
午前中の講義もその興奮が冷めやらぬうちに行われるのですから、元小料理屋「のれん」を利用した教室が沸き立つのも分かります。
さて、さて、講義をのぞいてみましょう。

話をしているのは加奈子弁護士です。
「深瀬先生が、NO大賞を目指すとかで忙しく、また、私は深瀬先生と妹と公法の勉強会を定期的に開いているので、みなさんの二日目の公法の講師をさせていただくことになりました。」と加奈子弁護士
「レジュメの始めに、「No.44」と書かれているのは、深瀬先生がNO大賞に応募する小説のタイトルを皆さんに紹介してくれと言われ、記載したのですが、何てお読みするのですか。」
深瀬が得意げな顔で起立し、
「難波(なんば)は、二度死ぬです。」と言った。
・・・しばらく静寂が続いたが、拍手が起こった。
「深瀬先生ありがとうございました。早速、講義を始めましょう。司法試験予備試験令和3年行政法です。」

(問題)
Aは,B県知事から,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)第14条の4 第1項に基づき,特別管理産業廃棄物に該当するポリ塩化ビフェニル廃棄物(以下「PCB廃棄物」 という。)について収集運搬業(積替え・保管を除く。)の許可を受けている特別管理産業廃棄物収 集運搬業者(以下「収集運搬業者」という。)である。PCB廃棄物の収集運搬業においては,積 替え・保管が認められると,事業者から収集したPCB廃棄物が収納された容器を運搬車から一度 下ろし,一時的に積替え・保管施設内で保管し,それを集積した後,まとめて別の大型運搬車で処 理施設まで運搬することができるので効率的な輸送が可能となる。しかし,Aは,積替え・保管が できないため,事業者から排出されたPCB廃棄物の収集量が少なく運搬車の積載量に空きがあっ ても,遠隔地にある処理施設までそのまま運搬しなければならず,輸送効率がかなり悪かった。そ こで,Aは,自らが積替え・保管施設を建設してPCB廃棄物の積替え・保管を含めた収集運搬業 を行うことで輸送効率を上げようと考えた。同時に,Aは,Aが建設する積替え・保管施設におい ては,他の収集運搬業者によるPCB廃棄物の搬入・搬出(以下「他者搬入・搬出」という。)も 行えるようにすることで事業をより効率化しようと考えた。Aは,B県担当者に対し,前記積替え ・保管施設の建設に関し,他者搬入・搬出も目的としていることを明確に伝えた上でB県の関係す る要綱等に従って複数回にわたり事前協議を行い,B県内のAの所有地に高額な費用を投じ,各種 規制に適合する相当規模の積替え・保管施設を設置した。B県知事は,以上の事前協議事項につい てB県担当課による審査を経て,Aに対し,適当と認める旨の協議終了通知を送付した。その後, Aは,令和3年3月1日,PCB廃棄物の積替え・保管を含めた収集運搬業を行うことができるよ うに,法第14条の5第1項による事業範囲の変更許可の申請(以下「本件申請」という。)をし た。なお,本件申請に係る書類には,他者搬入・搬出に関する記載は必要とされていなかった。 B県知事は,令和3年6月21日,本件申請に係る変更許可(以下「本件許可」という。)をし たが,「積替え・保管施設への搬入は,自ら行うこと。また,当該施設からの搬出も,自ら行うこ と。」という条件(以下「本件条件」という。)を付した。このような内容の条件を付した背景には, 他者搬入・搬出をしていた別の収集運搬業者の積替え・保管施設において,保管量の増加と保管期 間の長期化によりPCB廃棄物等の飛散,流出,異物混入などの不適正事例が発覚し,社会問題化 していたことがあった。そこで,B県知事は,特別管理産業廃棄物の性状等を踏まえ,他者搬入・ 搬出によって収集・運搬に関する責任の所在が不明確となること,廃棄物の飛散,流出,異物混入 などのおそれがあること等を考慮して,本件申請直前に従来の運用を変更することとし,本件許可 に当たり,B県で初めて本件条件を付することになった。 本件条件は法第14条の5第2項及び第14条の4第11項に基づくものであった。しかし, Aは,近隣の県では本件条件のような内容の条件は付されていないのに,B県においてのみ本件条 件が付された結果,当初予定していた事業の効率化が著しく阻害されると考えている。また,Aは, 本件条件が付されることについて,事前連絡を受けておらず,事前協議が無に帰してしまい裏切ら れたとの思いから,強い不満を持っている。 以上を前提として,以下の設問に答えなさい。 なお,法及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下「法施行規則」という。)の抜 粋を【資料】として掲げるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕 本件条件に不満を持つAは,どのような訴訟を提起すべきか。まず,本件条件の法的性質を明らかにし,次に,行政事件訴訟法第3条第2項に定める取消訴訟について,考えられる取消しの対象を2つ挙げ,それぞれの取消判決の効力を踏まえて検討しなさい。なお,解答に当たっては,本 件許可が処分に当たることを前提にしなさい。また,取消訴訟以外の訴訟及び仮の救済について検討する必要はない。
〔設問2〕 Aは,取消訴訟において,本件条件の違法性についてどのような主張をすべきか。想定される B県の反論を踏まえて検討しなさい。なお,本件申請の内容は,法施行規則第10条の13等の各 種基準に適合していることを前提にしなさい。また,行政手続法上の問題について検討する必要は ない。

(令和3年司法試験予備試験の出題の趣旨から引用)
(出題の趣旨)
本問は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づき特別管理産業廃棄物収集運 搬業の許可を受けている収集運搬業者が,その事業範囲の変更許可を申請したのに 対し,行政庁が一定の条件(以下「本件条件」という。)を付した上で変更許可(以 下「本件許可」という。)をしたという事実を基にして,行政処分の附款に関わる 訴訟方法及びその実体法上の制約について,基本的な知識・理解を試す趣旨の問題 である。 設問1は,本件条件に不満がある場合において,いかなる訴訟を提起すべきかを 問うものである。本件条件は本件許可の附款という性質を有することから,本件許 可の取消訴訟において本件条件の違法性を争うことができるか,本件条件の取消訴 訟を提起すべきかが主に問題となる。その際,本件許可と本件条件が不可分一体の 関係にあるか否か,それぞれの取消訴訟における取消判決の形成力,拘束力(行政 事件訴訟法第33条)について,本件の事実関係及び法令の諸規定を基に論ずるこ とが求められる。 設問2は,取消訴訟における本件条件の違法性に関する主張を問うものである。 とりわけ,本件条件が付されたことに関して主に比例原則と信頼保護について,本 件事実関係及び法令の諸規定とその趣旨を指摘し,また,信頼保護に関する裁判例 (最高裁判所昭和62年10月30日第三小法廷判決など)を踏まえ,本件条件の 違法性を論ずることが求められる。


「個性豊かな設題ですね。問題文が面白いので、ここから入りましょう。まず、「どのような訴訟を提起すべきか。」から始まっていますが、後に「取消訴訟以外の訴訟及び仮の救済以外については検討する必要はない。」となっているので、ここでは、抗告訴訟の種類を聞いているのではなく、「取消訴訟」と限定した上で、「取消訴訟」の「進め方」を聞いているのだと理解してください。」
「次に答案構成を指定してくれています。「本件条件の法的性質を明らかにし」とは、「定義付けろ」という意味です。次に取消訴訟の条文がわざわざ引用されているので、後に「対象をあげ」と続くことから、「取消訴訟の対象」を「条文を引用して示せ」という意味です。次に「取消しの対象を2つあげ」となっており、通常、どれを対象にするか頭を悩ますところですが、次に「本件許可が処分にあたることを前提にしなさい」とあるので、一つは「本件許可」であることが分かります。」

(澤谷弁護士の板書)
条件  →定義
取消訴訟の対象の根拠 行政訴訟法3条2項による処分
対象 (1)本件許可
   (2)?

「まず、設問1で問題となっている本件条件は,講学上なんて呼ばれていますか。沓脱(くつぬぎ)さん。」
「行政行為の附款です。」
「そのとおりですね。附款とは、主たる行政行為に付加された、行政庁の意思表示と理解されています。ただし、実定法では、「条件」という語句が使われています。」

(澤谷弁護士の板書)
条件=行政上の附款→主たる行政行為に付加された、行政庁の意思表示

「さて、さて、これで行政上の附款が理解できたと思ったあなたは、惜しみなく賛辞を送りたいところですが、少し寄り道しましょう。」
「奈美弁護士に「行政上の附款」について掘り下げてもらいましょう。」
「姉が要領が得た進行をするのに対し、私は取り立てて要領を得ない進行というのでしょうか。少し出題者に反発する形で進めたいと思います。」
「そもそも、「行政上の附款」については、昭和40年代、50年代に盛んに論じられた遺物であると思ってもらってよいでしょう。もともと民法総則からの借用概念でした。とは言うものの民法ではこの用語は絶滅しました。」
「令和になって、再登板したのは、司法試験予備試験でマイナーな問題で考えさせるためでしょう。」
(以下は「法学教室37号「行政法のルーツ」塩野宏、同237号「行政処分の附款限界」藤原静雄を参考にさせていただいた。)
「まず、附款について、田中二郎先生は次のように言っています。」
行政行為の効果を制限するために意思表示の主たる内容に付加される従たる意思表示をいう。行政行為の効果の制限が直接法規によって定まっているときは、これを法定附款といい、ここでいう附款と区別される
「まず、なぜ定義が必要なのかという問題から考えていきましょう。先程、「行政上の附款」は民法からの借り物だと言いました。正確には、ドイツの行政法学を借用してきた日本の行政法学において、本家本元のドイツ行政法がドイツ民法から借用してきたということです。話が複雑になってきましたね。ここで、大きな問題に直面します。民法は契約の自由が原則ですが、行政は、法律による行政の原理が支配するものであるということです。そこで、附款といえども制約を受ける。その制約の根拠を、田中先生は定義してみせたわけです。」
「まずは、「主たる内容」と「従たる意思表示」として、主従を区別していること、また、「従たる意思表示」として、附款の、付随的ではあるが効力を認めていることが重要です。」
「なんでこんな細々としたことを申し上げるかというと、本件条件の実質的議論よりも、出題者は本件条件を例に、「行政上の附款」に司法統制は及ぶかという抽象的な概念論を議論したくてたまらないように感じるからです。しかも、取消訴訟の教科書的概念論も入れろ、というのですからたまったものでありませんね。私はわざわざ「附款論」で大上段に構えずに、「行政行為の一部取消し」で対応できないかと考えていたところ、かの塩野先生も同じ考えでいらっしゃるのにびっくりしました(前掲書)。少し話が長くなりすぎたようです。」
「そうですね。判例は附款だけでも取消訴訟の対象にしていますね。ただし、試験問題として出題されているのですから、出題の趣旨に沿って解答を作らなくてなりません。」と加奈子弁護士
(澤谷弁護士の板書)
条件=行政上の附款→主たる行政行為に付加された、行政庁の意思表示
・・・
対象(1)本件許可
   (2)本件条件
取消訴訟の効力の関連性

「それでは、奈美弁護士はかなり批判していましたが、出題者の趣旨に沿って考えてみましょう。餅崎さん。取消訴訟の形成力とは。」と加奈子弁護士
「請求が認容された場合、処分の効力は処分時にさかのぼって消滅するということです。」
「そのとおりですね。本件許可を対象としてしまうと本件許可自体が取り消されて、Aは困ったことになりますね。」
「次に取消訴訟の拘束力とは何ですか。四月一日(わたぬき)さん。」
「行政訴訟法33条1項に定める拘束力のことです。」
行政訴訟法33条1項
処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。

「難問です。この拘束力ですが、消極的効果と呼ばれるものがあります。行政庁をどのように拘束するものでしょうか。」
「たくさん手が上がりましたね。では、京家さん。」
「判決で取り消された行政処分と同一の処分を行ってはいけないという反復禁止効です。」
「そのとおりです。素晴らしいです。そうすると、本件許可を対象にすると勝訴するとますます不利益を受けますね。」
「ここで、深瀬先生。失礼しました。ナンバーフォーティホーさんから
解答案のプリントを配布してもらいましょう。」

(解答案)
設問1について
1 本件条件は、本件許可に付随してなされたB県知事の意思表示であるか
 ら、あくまで本件許可に付随しているものであるが、本件許可とは区別さ
 れる行政行為である。講学上、「行政行為の附款」と言われるものである。
2 取消訴訟の対象となるのは、「処分」である(行政事件訴訟法3条2
 項)。本件取消訴訟の対象となる処分としては、本件条件が本件許可と付加
 して一体と考えれば、まず、本件許可が考えられる。また、本件許可と本
 件条件が切り離して考えられるのであれば、本件条件だけでも対象と考え
 られる。
3 しかし、本件許可を対象と考えてしまうと、Aの請求が認容され確定し
 た場合、取消訴訟の形成力から、本件許可が取り消され最初からなかった
 ことになってしまい、Aの望む結果にならない。また、行政訴訟法33条
 1項の拘束力から、A県知事は本件許可と同一の内容の許可を出すことは
 できないので、場合によってはAの望む結果を得られないこともありう
 る。
4 よって、本件条件のみを対象とすべきである。

「それでは、設問2にいきます。ようやく、概念論を離れて、行政法の問題らしくなってきました。行政裁量と司法的統制の話です。」と加奈子弁護士
「ここからは、また妹に掘り下げて検討してもらいましょう。」
(以下は、法学教室380号「行政法を学ぶ 第12回行政行為(4)行政裁量(その2)・附款」 曽和俊文を参考にさせていただいた。)
「「行政裁量の司法的統制」というと思い浮かぶのは、行政訴訟法何条ですか。三条さん。」
「行政訴訟法30条です。」
行政訴訟法30条
行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができ
る。
「そうですね。行政訴訟法30条。次に多くの教科書で、「行政裁量の司法的統制」と呼ばれているもののをあげましょう。」
(奈美弁護士の板書)
① 事実誤認
② 法の一般原則違反→平等原則、比例原則、信義誠実の原則
③ 判断過程の不適正
④ 手続的瑕疵
「ただ、このうち③法の一般原則違反を、行政訴訟法30条の問題としてとらえるのか、法の一般原則違反だけの問題としてとらえるのか検討が必要です。言い方を換えれば、法の一般原則違反は、「裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合」に該当するのかという問題です。」
「さらに、このように類型化しておいて申し訳ないのですが、最高裁が類型化しているわけではないので注意が必要です。個別事案に当たっては、柔軟に解釈していく必要があります。」
「そのとおりですね。では、引き続き本件条件についての個別的検討を奈美弁護士にお願いします。」と加奈子弁護士
「まず、法律を個別具体的にみていきましょう。
法の趣旨は、1条に「生活環境の保全」等とあり、法14条の5第2項で引用する法14条の4第5項11号にも、「生活環境の保全上」とあります。まず、法では「生活環境の保全上」としか言っていないことに注意を払う必要があります。」
「その上で、この抽象的な基準が、法施行規則で許可基準として具体化されており、法施行規則10条の13第1号イでは、運搬車等について「特別管理産業廃棄物が、飛散し、及び流失し、並びに悪臭が漏れるおそれのない」と具体的な基準を設け、施設については、同号へで「特別管理産業廃棄物が、飛散し、及び流失し、及び地下に浸透し、並びに悪臭が発散しないよう必要な措置を講じ、かつ、特別管理産業廃棄物に他の物が混入するおそれのないように仕切り等が設けられている施設」となっています。」
「なぜ、このように条文を追うのかというと、許可基準としては、廃棄物と外界の遮断を求めているだけなのに、「他者搬入・搬出」を禁止するという本件条件は比例原則に違反するのでないかという主張が成り立つからです。」
「比例原則について、一言説明しておきましょう。警察比例の原則は、警察権の介入は目的と手段が比例する場合のみ許されるという理解から始まっています。「警察は大砲をもって雀を撃ってはならない。」という有名な言葉がありますね。現在では、「必要最小限度の侵害」のみ許されるという意味で使う場合が多いと思います。また、もたらされる利益と不利益の比較衡量するという文脈で使われたりもします。場面として、人権を侵害する行政行為で使用されるという感覚ですね。警察権に限定されていません。」
「奈美弁護士ありがとうございました。次に私の方から、信頼保護の原則について簡単に説明しておきましょう。」
「本件では、Aは、B県担当者に、「他者搬入・搬出」を伝えた上で、事前協議をし、協議終了通知も受け取っている。」
「このことだけでも、本件条件は信頼保護違反と言えそうですが、判例の枠組みがあります。出題の趣旨で引用されている判例ですね。」
納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合でなければならない」という判断枠組みですね。」
「この判断枠組みを適用する具体的要件として最高裁は。
① 公的見解を表示したこと
② 納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したこと
③ その表示に反する課税処分が行われたこと
④ そのため納税者が不利益を受けたこと
⑤ 納税者がその表示を信頼し、行動したことに、納税者に責に帰すべき自
  由がないこと
としています。」
「これを本件にあてはまて主張するというわけです。後、ナンバーでなくて、難波は二度死ぬの作者さんから解答案が配られます。」
「午前の部はこれで終了です。皆さんお昼にしましょう。」
(この後、講師のお二人に惜しみのない拍手が送られた。)
(解答案)
1 Aは、本件条件が比例原則に違反していると主張すべきである。
2 法は、生活環境の保全等を目的とし、本件条件も生活環境の保全のため
 という制限を受けている。具体的には、許可基準として法施行規則10条
 の13中、運搬車等については1号イが、PCB廃棄物等が「飛散し、及び
 流出し、並びに悪臭が漏れるおそれのない」と定め、施設については同号
 へが、1号イの要件に、「地下に浸透し」ない要件を加えて定められてい
 る。
3 これらの要件に、「他者搬入・搬出」の要件を加えることは、法が予定す
 る環境保全の目的のために用意した、廃棄物と外界の遮断、悪臭の除去と
 いった手段を超えてしまうことになり、最小限度の侵害の範囲を超えてし
 まうので比例原則に反する。
4 しかし、B県は、他者搬入・搬出による不適正事例や、他者搬入・搬出
 の責任所在の不明確さや飛散等のおそれを上げて、必要最小限度の規制で
 あると反論するであろう。
5 けれども、Aの人権である営業の自由(憲法22条1項)を侵害してま
 で規制をかけるのは、漏出等の事故の可能性を少なくするという得られる
 利益を考慮してもなおAの侵害される人権の不利益の方が大きいとAは再反
 論できる。
6 次に、Aは、本件条件は、信頼保護の原則に違反していると主張すべき
 である。
7 Aは、B県担当者に、他者搬入・搬出に明確に伝えて、事前協議も行い、
 適当と認める旨の協議終了通知も受けたのであるから、他者搬入・搬出を
 禁止することは、信頼保護の原則に違反する。
8 しかし、B県としては、本件申請については、他者搬入・搬出の記載は
 なく、他者搬入・搬出の不適正事例が発覚したことから、これからはAだ
 けでなく、従来の運用を変更したので、これからの許可にあたり全業者に
 付するものであると反論するであろう。
9 けれども、Aは、他者搬入・搬出を明確に伝えた上で、B県担当者とB県
 の関係する要綱等に従い複数回に渡り事前協議を重ね、その信頼を基に他 
 者搬入・搬出の積替え・保管施設(以下「本件施設」という。)を建設して
 いるので、Aに本件施設建設に伴う責められるべき要素はないし、事後で
 あるが、他者搬入・搬出は適当である旨の協議終了通知という公的見解も 
 受け取っている。B県内のAの所有地に高額な費用を支出して建設した本件
 施設で、他者搬入・搬出が行われないと経済的不利益を受ける。
10  これらのことは、判例のいう他者との公平、平等を犠牲にしても、なお
 信頼を保護しなければならない特別の事情に該当するので、Aには信頼保
 護の利益があると再反論できる。

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