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にちどら協会の挑戦2(司法試験予備試験令和2年商法)

大阪の最高級ホテルで催されているにちどら※注1後援のセミナー
昼食は、通常、披露宴で使われる会場を借り切って、ジャズの生演奏が流れる中、協会員の親睦もかねての立食パーティーであった。
 ※注1 正式な名称は、東アジア支部日本国どら息子等更生保護協会であ
    った。前回、「東アジア支部」が脱落していたことに対し、この一
    文をもって紳士淑女に訂正とお詫びを申し入れさせていただく。
隅の一角に、その場に似つかわしくないたこやき屋台とりんご飴屋台が登場し、その屋台にその場で最も似つかわしい男たち、深瀬と小兵がたこやきを頬張っていた。
 しばらくして、りんご飴を頬張っている深瀬の周りに、どちらかと言えば、地味な色で控えめな服装であるが、素材がよく、センスのあるデザインでブラウス一つにとってもよく個性を主張している服装をした10代か20代か判別のつかない女の子三人組が寄ってきた。
 「先生、今年この3人とも予備試験に受かりたいたいのです。」と明らかにリーダシップのある真ん中の女の子が切り出した。
 「それぞれ、大学を辞めて、自分の好きな道に進みたいのです。」
 「へえー。」と口の端にりんご飴をつけた深瀬が何とも分からない返答をした。
 話によると、この仲良し3人組は、登山仲間であり、一生世界を巡って、色々な山を登って過ごしたいのであるが、親にせがまれて大学に進学した。しかし、大学がつまらないので、各親御さんと話し合いの末、司法試験に受かると、大学の中退を認めてくれるという話になったとのこと。
 そこへ中華料理を満載したトレーを2つ危なかっしげに運んできた小兵がやってきた。
「トレジャーハンターだ。」と中華料理満載のトレーをテーブルに置き叫んだ。
「この女の子達は、NOTでトレジャーハンティングという番組を持っているんですよ。」と興奮気味に、口の端にりんご飴をつけている深瀬に話し掛けた。
「へえー。」と口の端飴おじさんが答えた。
「世界中を旅して、珍しい植物や鉱物を持ち帰る資格を得ているので、前人未踏の高山で、希少な植物や未知の鉱物を探して採集するという番組なんですけど、最高なんすよ。」と小兵がまくしたてた。
「なんで、最後の口調くだけるような言い回しになった。」と全く関係のないことを口の端あめおじさんが追及した。
そんなことにお構いなく、
「申し遅れました。映像作家の小兵です。」と小兵は女の子達に名刺を渡し、
「そこのテーブルで中華料理でも食べながらしお話をききましょう。」と小兵は女の子達を連れて行き、口の端あめおじさんもしんがりをつとめた。
「僕、ファンで、ゆいさんのロッククライミングする場面や環(たまき)さんのオフロードバイクを乗り回すシーン。それと皆さんの服、今回も詩織さんがデザインしたのですか。」とテーブルを5人で囲むやいなや中華料理を食べ続けながら矢継ぎ早にどんどん話を進める小兵に女の子達は目を丸くしていた・・・。

ところで、賢明なる読者紳士淑女の諸君。もっと、会話を聞きたいであろうが、本稿は司法試験予備試験問題の解説が本分である。
とりあえず、中断して、映像作家の小兵の作った会社法の作品をご覧あれ。

(ラッパ音)
「グループ企業のたそがれ(令和2年司法試験予備試験商法)
 監督・演出・脚本・主人公 小兵翔平
 ナレーション 小町秋子弁護士
 エキストラ  小町夏子      」
  (表題等が画面に大きく表示)
「財閥。この言葉には、戦争の暗い影がつきまとう。」
(小町秋子弁護士のナレーション。画面は白黒でチョビ髭を付けた和服姿の小兵が、着物姿の小町夏子に葉巻に火をつけてもらって咳き込む様子。きっと、財閥からイメージされる金持ちを表現したかったのであろう。)
「その中心となる持株会社は、独占禁止法で禁止されていたが、世界のコングロマリットと競争していくためには、持株会社を中心に企業グループを再編する必要があった。」
(なぜか、石油コンビナートの映像。たぶん、オイルメジャーからイメージしたのだと思う。)
「1997年6月。持株会社が解禁された。「財閥の復活か。」と思う人はそれほど多くなかった。しかし、親会社と子会社の関係に気を揉む者がいた。それは、ずばり親会社の株主である。」
(「親会社」と書いたプラカードを下げた小兵がのけぞって威張り散らし、「子会社」と書いたプラカードを下げた小町夏子が平身低頭する様子)
「子会社は、親会社の従業員的地位にあるので、親会社の指図で子会社が違法行為をして子会社の株価を下げてしまい、その株価が下がることで親会社の株価も連動して価値を下げてしまう事態になることが予想されたったのである。そのような事態になっても、親会社が子会社を監督せず、なれ合いで済ましてしまう場合、誰が子会社の違法行為を追及するのであろうか。」
(画面には、仮面ライダー風の衣装で小兵が登場)
「それは、ずばり親会社の株主しかいない。そこで、平成26年会社法改正で、親会社の株主が、子会社の違法行為をした役員の責任を追及できる特定責任追及の訴え(多重代表訴訟とも呼ばれる。)が登場した。そして、余計な事だが、本件設問2の子会社の株式譲渡は、平成26年の会社法改正の目玉とされたものである。今回は平成26年会社法改正づくしの出題であった。」
(太鼓と銅鑼の大音響とともに、大きな岩に波が打ちつけ砕け散る映像
         「終」
        の文字が画面いっぱいに広がる)

(令和2年司法試験予備試験商法)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,飲食店の経営,飲食店の経営を行う会社の株式を保有 することにより当該会社の事業活動を支配・管理すること等を目的とする会社であり,種類株式発 行会社ではない。甲社の発行済株式の総数は1000株であり,そのうち,創業者であるAが40 0株を,Aの息子であるBが300株を,Aの娘であるCが300株を,それぞれ保有していた。 甲社の取締役はAのみであり,監査役は置いていない。
2.甲社は,Aが店長兼料理長となっている日本料理店を営むとともに,いずれも飲食店の経営等を 目的とする乙株式会社(以下「乙社」という。)と丙株式会社(以下「丙社」という。)の発行済株 式の全てを保有していた。乙社の取締役はBのみであり,乙社はBが店長兼料理長となっているフ ランス料理レストラン(以下「レストラン乙」という。)を営んでいる。丙社の取締役はCのみで あり,丙社はCが店長兼料理長となっているイタリア料理レストラン(以下「レストラン丙」とい う。)を営んでいる。甲社における乙社及び丙社の株式の帳簿価額は,それぞれ3000万円であ った。 ここ数年,甲社の貸借対照表上の総資産額は1億円前後で推移しており,令和2年6月10日 に確定した令和元年4月1日から令和2年3月31日までの事業年度に係る貸借対照表上の総資産額も1億円であった。甲社は,令和2年4月1日以降,下記6の合意までの間に,資本金,準備金 及び剰余金の額に影響を与える行為や自己株式の取得を行っておらず,他社との間で吸収合併や吸 収分割,事業の譲受けも行っていない。また,甲社は,これまでに新株予約権を発行したこともない。
3.Bは,個人として,200本以上に及ぶワインのコレクションを有していたが,収納スペースの 問題もあり,コレクションの入替えを円滑に行うために,その半数程度を処分することを検討して いた。ちょうどその頃,レストラン乙の改装が行われており,ワインセラーのスペースにも余裕が できることとなるため,Bは,自己のワインコレクションから100本を選んで乙社に買い取らせ ることとした。 そのためにBが選んだワイン100本(以下「本件ワイン」という。)の市場価格は総額150 万円であり,レストラン乙での提供価格は総額300万円程度となることが見込まれた。
4.Bは,乙社による本件ワインの買取りにつき,父であり,甲社の代表者でもあるAには話をして おいた方がいいだろうと考え,令和2年6月23日,Aの自宅を訪れた。Bは,Aに対し,本件ワ インのリストと市場価格を示しつつ,本件ワインをレストラン乙で提供するならば総額で300万 円程度になる旨を述べた。これに対して,Aは,「それならば300万円で,乙社が買い取ること にすればいいよ。」と述べた。 令和2年6月25日,乙社は,Bから本件ワインを300万円で買い取った(以下「本件買取り」 という。)。
5.令和2年7月1日,Aと共に改装後のレストラン乙を訪れたCは,そのワインセラーをのぞいた ことをきっかけとして,本件買取りが行われたことを初めて知った。本件ワインの買取価格を聞い たCは,「さすがに高過ぎるんじゃないか。」と不満を述べたが,Aは,「改装祝いを兼ねているし。」 と述べ,Bも,「おやじが決めたんだから,お前は黙っていろよ。」と言って取り合わなかった。そ れまでもAがBばかりを支援することに不満を募らせていたCは,大いに憤った。
〔設問1〕 Cは,甲社の株主として,本件買取りに関するBの乙社に対する損害賠償責任とAの甲社に対 する損害賠償責任を追及したいと考えている。B及びAの会社法上の損害賠償責任の有無とそれぞれの責任をCが追及する方法について,論じなさい。

6.本件買取りをきっかけとして,A及びBとたもとを分かつ決心をしたCは,甲社から独立してレ ストラン丙を経営したいと考え,Aと交渉を行った。その結果,令和2年8月12日,Cが保有する甲社株式を甲社に譲渡するのと引換えに,甲社が保有する丙社株式をCに譲渡する旨の合意(以 下「本件合意」という。)が成立した。
〔設問2〕 本件合意の内容を実現させるために甲社及び丙社において会社法上必要となる手続について, 説明しなさい。なお,令和2年8月12日現在の甲社の分配可能額は5000万円であり,その後, 分配可能額に変動をもたらす事象は生じていない。

(解答例)
設問1について
1 Bの本件ワインを乙社に買い取らせた行為は、会社法(以下「法」とい
 う。)356条の定める利益相反行為のうち、同1項2号の自己取引にあ 
 たり、法355条の忠実義務に違反している。
2 また、本件買取りによって、本件ワインの市場価格が総額150万円で
 あるのに、本件買取り価額が、300万円なので、乙社には150万円の
 損害が生じている。
3 よって、Bは同法423条1項の任務懈怠責任を負うため、同項の損害
 賠償責任が生じる。
4 Cが、甲社の株主として、Bの責任を追及するには、甲社が乙社の発行済
 全株式を有する完全親会社であるから、法847条の3の多重代表訴訟を
 利用し、Bの特定責任を追求する方法が考えられる。
5 ところで、本件買取りにつき、Bは全株主である甲社の代表者Aの承認を
 得ているので法424条の責任免除の適用があるかのようにみえるが、法
 847条の3第10項により、「最終完全親会社等」の株主であるCの同
 意を得ていないので、法424条による免除の適用はない。
6 法847条の3第1項の株主要件は、Cは、完全親会社である甲社の株
 式を30%取得しているので満たす。また、同4項の特定責任の要件につ
 いても、乙社の株式の帳簿価格が3000万円であり、甲社の総資産が1
 億円であるのでみたす。
7 最後に、同1項ただし書の完全親会社に損害が生じているという要件
 について検討する。本件買取りによって、レストラン乙に損害が発生し、
 乙社の株価が低下したといえる。持株会社甲社にとって、子会社の株式は
 甲社の財産であるから、損害が発生したと言える。また、将来的に乙社の  
 株価に連動し、甲社の株価も低下する恐れが大きい。
8 よって、Cは、Bに対して、法847条の3による特定責任追及の訴えを  
 提起することができる。
9 Aは、持株会社甲社の代表者として、事業全体が適正に運営されるよう
 に子会社を監視する注意義務がある(法330条)。Aはそれを怠り、本件
 買取りを承認したのであるから、任務懈怠責任が生じ、損害賠償義務を負
 う。
10   よって、Cは甲社の株主として、法847条の株主代表者訴訟を提起し
 て、取締役であるAの責任を追及することができる。

設問2について
1 甲社が保有する丙社の全株式をCに譲渡するには、事業譲渡類似の行為
 として定められた法467条1項2の2の手続をとることになる。
2 同項適用の要件として、同イは、丙社の株式が甲社の総資産の5分の
 1であることを定めるが、甲社の総資産額は1億円であり、丙社の株式の
 の帳簿価額は3000万円であることから要件をみたす。また、同ロにつ
 いても、全株式を甲社が保有していることから要件をみたす。
3 よって、甲社は、株主総会の特別決議を経て(法467条1項本文、3
 09条2項11号)、丙社株式をCに譲渡することができる。
4 なお、丙社は取締役会を設置していないので、公開会社でない(法32
 7条1項1号参照)。よって、株式は譲渡制限があるので(法2条5号)、
 Cが単独で譲渡承認請求するか(法136条)、甲社の代表者AがCと共同
 で譲渡承認手続(法137条2項)を請求して、丙社の株主総会の決議
 (法309条1項)を経る必要がある。
5 Cが保有する甲社株式を、甲社に譲渡するには、甲社が自己株式を取得
 する法155条以下の自己株式の取得の手続をとることになり、本件合意
 があることから、法155条3号の手続をとることになる。
6 甲社は、法156条1項に定める株主総会の特別決議(法309条2項
 2号)を経ることになる。
7 なお、自己株式の取得は、剰余金の配当と同じく、株主に金銭等を分配
 する手段として使われることから、財源に関する規制があり、分配可能額
 の限度で行わなけれならない(法461条1項2号)。
8 設問2によれば、分配可能額は5000万円であり、Cに譲渡する丙社
 の株式の帳簿価額は3000万円であるから譲渡可能である。
       

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