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Xの悲劇、「#いかづちとカナヅチ」(令和3年司法試験選択科目破産法第1問)

NOTEの大賞の姉妹大賞であるNOT大賞。それに応募していた、深瀬先生。
NOT大賞では惜しくも落選してしまいました。
NOTのドキュメンタリー部門のお題は「#雷(いかづち)と金槌(かなずち)」でした。ちょうど深瀬先生の内容が、司法試験令和3年選択科目倒産法を企画していたのと一致したので、転載させていただきます。
(※この物語はすべてフィクションです。)

NOTの応募作品から転載

#NOT大賞 #雷と金槌 #あかんで #あきまへん
#司法試験の悪口

Xの悲劇

 水泳でかなづちの私は、にちドラ協会の司法試験部門の講師として大阪に呼ばれていた。
 私もいくつか講師をこなしていかづち(ダジャレ)、選択科目に移ってからは、かなづち(ダジャレ)の部分を複数の講師にお願いをした。
私は後学のために、選択科目の倒産法の講義を拝聴することにした。
それは、雷がとどろくこともなかった、薄曇りの夜のことであった。
 私が教室に入ると、凄腕の管財人、仰山宜春(ぎょうさん きばる)弁護士の破産法の授業が始まるところであった。
 以下は、仰山先生の講義であり、司法試験の出題を攻撃し、地雷を踏むに似たことをするあたり、戦地に赴き戦死した崇拝する写真家ロバート・キャパの行動と一致しており、NOT大賞のドキュメンタリー部門に応募する意欲をかき立てられた一部始終である。
 なお、内容から推察して、雷(いかづち)や金槌(かなづち)とは関係ないように思われるが、賢明なる読者諸氏は読書百篇、おのずから、その内容が、雷や金槌に深く関係していることが理解できるであろう。
 

「あかんで。あかんで。あかんでの仰山宜春」
 この発言を聞いて、私は雷に打たれたように感じた。京都弁護士会副会長「かんにんえ。」の弥七こと田所弥七の使うフレーズをかなづち?のように思い出したからである。
 「この問題を読んで、破産管財人Xは、アホやなと思いました。ガハハ。」
 仰山先生は戦闘モードである。今だかつて、司法試験委員会の出題にケチをつけるなどという、まるで、蟷螂の斧のような行為を誰がなし得たであろうか。その姿は命を顧みず、武器を持たず戦地に赴く写真家ロバート・キャパを彷彿とさせた。 
「設問1に、「破産財団にとって建て替えられた倉庫は不要であると考え、・・本件請負契約を解除する旨の通知をした。」とあるでしょ。注文者が破産した場合、破産法53条でなくて、民法642条が適用されて、本件建物は、「引渡し」を要せず、破産財団のものになるんです。」
「破産財団、つまり、破産管財人Xが自分のものにしたものをいらんからと言って、解除してどうするんですか。解除しても本件倉庫は破産財団に帰属しているのですよ。要らないからE建設に取り壊せとも言うのですか。それとも、「履行」を選択したら、E建設の報酬は財団債権になるから支払わなければならないけれど、解除を選択したら、E建設の報酬債権は破産債権になって、配当を待たないと財団から支払いのできない債権になるんですよ。そこまでしてE建設にいじわるしたいのですか。」
 まさに、銃弾の嵐をくぐりつつ写真を撮るキャパそのものである。NOT大賞のドキュメンタリー部門の評価者はこれを読んで号泣せずにいられようか。もしいたならその心は金槌?である。
「1億5000万円したんですよ。私が管財人Xだったら、本件倉庫を手に入れて、1億円以上で売却してみせますよ。そうすると、管財人報酬もがっぽがっぽですわ。」
「多分、Xは肝っ玉の小さい人間で、どうしても契約時に報酬として先払いした5000万円が取り返したかったですわ。そこで、解除を選択した。しかし、5000万円は、すでにした仕事の出来高分として、実務では返すことおまへん。管財人として失格ですわ。ほんま気がききまへんな。」
「あっ。問題お配りしてませんでしたね。ガハハ。それから話始めましょう。」

(令和3年司法試験選択科目破産法第1問より)
次の【事例】について,以下の設問に答えなさい。 なお,解答に当たっては,文中において特定されている日時にかかわらず,試験時に施行されて いる法令に基づいて答えなさい。

【事 例】 A株式会社(以下「A社」という。)は,家具の卸売を業とする株式会社である。A社は,平 成元年の設立以来,地元の地方銀行であるB銀行を主要な取引銀行として,当座預金口座を開設 するとともに,しばしば運転資金の融資や手形の割引等に応じてもらってきた。また,A社は,B銀行のほか,C信用金庫及びD銀行にもそれぞれ普通預金口座を開設し,取引先に送付する請 求書にこれらの口座を記載して,取引先の選択により,これらのいずれかの口座に振込送金させる方法により決済を行っていた。
A社の業績は,創業以来順調に発展してきたが,平成20年頃になると,製造業者から直接仕 入れをする小売業者が増加し,卸売業の役割が相対的に低下するとともに,家具の製造から販売 まで一手に行う大規模家具小売業者の進出等もあり,次第にA社の業績は悪化し,平成25年以降は赤字決算となる年度もあった。
A社は製造業者から仕入れた家具を保管するための自社倉庫(以下「本件倉庫」という。)を 所有していたが,令和元年9月に台風の影響により屋根が大きく破損し,仕入れた家具の多くに 水濡れの被害が生じた。本件倉庫については,屋根の破損のみならず,建物全体が大きな損傷を受けたため,抜本的な補修ないし建て替えが必要な状況であった。そこで,A社は,本件倉庫を 建て替えることとし,同年10月10日,E建設との間で,倉庫建設請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。本件請負契約においては,請負代金は1億5000万円とされ, A社がE建設に対して,契約成立時に5000万円を支払い,残代金は完成した倉庫の引渡しと 引換えに支払うこと,E建設は,令和2年6月30日までに倉庫を完成させてA社に引渡しをすることを合意した。A社は,本件請負契約の前払金を支払うため,B銀行から5000万円の融 資を受けて,E建設に支払った。E建設による倉庫の建設は順調に進み,同年5月31日までに は倉庫は完成したが,A社への引渡しはまだされていない。
また,台風被害により水濡れしてしまった在庫商品について,比較的損害の程度が軽かったものは,以前から取引があった小売業者に割引価格で売却するなどにより処分することができたが, 程度の悪いものについては買取り先が見つからないまま,令和2年の春を迎えることとなった。 この時点でA社の資金繰りはかなり苦しくなってきているとともに,商品の保管場所の問題もあり,同業者からの紹介により,中古家具販売業者であるF商店に残りの水濡れした在庫商品一式 (以下「本件商品」という。)を300万円で一括売却することとした。この売買契約(以下 「本件売買契約」という。)は同年4月15日に締結され,本件売買契約によれば,同年5月末 日までにF商店の負担により本件商品を引き取り,商品の引取り後10日以内に,B銀行,C信用金庫又はD銀行に開設したA社のいずれかの口座に代金300万円を振り込む方法で支払うこ ととされた。
在庫商品の水濡れによる損失に加え,本件倉庫の建て替え工事の間,商品を保管するために借 り上げた倉庫の賃料の支払等の支出が重なったこともあり,令和2年4月頃には,A社の資金繰 りはかなり苦しい状況に陥っていた。そこで,A社は当面の事業資金3000万円の融資をB銀行に申し込んだが,既に本件請負契約の前払金5000万円について融資を受けていたため,B銀行からは追加の融資を受けることができなかった。そのため,A社は,C信用金庫及びD銀行 にも緊急の融資を求めたが,主要な取引銀行であるB銀行が融資を見送っていることもあり,両金融機関とも融資については二の足を踏み,結局融資を受けることができないまま,仕入先であ るG木工への買掛代金の支払期日である同年5月31日を徒過してしまった。翌6月1日,買掛代金の振込みがないことを知ったG木工からの問合せを受け,A社の経理担当者は,事務手続上 のミスで支払が遅れているが,数日のうちには必ず振り込むとの返答をしたものの,実際にはG木工への支払はもとより,他の仕入先に対する買掛代金の調達のみならず,取引金融機関からの 借入金の弁済のめども立たない状況であった。
そこで,A社の経営陣は,顧問弁護士のHに連絡をし,令和2年6月3日にA社の会議室にお いて今後の方針について協議を行った結果,主な取引先や取引金融機関に対して,A社は近日中 にH弁護士を申立代理人として破産手続開始の申立てを行う予定であり,債務の支払についても それまでの間停止する旨の通知(以下「本件通知」という。)を,翌週の同月8日に発送するこ とを決めた。ただし,この方針については,混乱を避けるため,本件通知の発送までは,H弁護 士と協議に参加した経営陣限りにとどめておくこととした。
本件通知は,予定どおり,令和2年6月8日に,H弁護士名義で発送され,翌9日に,B銀行 を始めとする取引金融機関及び主な取引先に到達した。その後,A社は,H弁護士の下で破産手 続開始の申立ての準備を進め,同月15日にI地方裁判所に破産手続開始の申立てをし,同月2 5日にA社について破産手続開始の決定がされ,破産管財人Xが選任された。
〔設 問〕 以下の1から3については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.破産管財人Xは,破産財団にとって建て替えられた倉庫は不要であると考え,E建設に対し, 本件請負契約を解除する旨の通知をした。仮に,この解除が認められるとした場合,A社の破 産手続において,支払済み及び未払の請負代金がどのように扱われることになるか,説明しなさい。
2.F商店は,本件売買契約に従い,令和2年5月28日までに本件商品を引き取り,同年6月 5日に,B銀行に開設されたA社の当座預金口座に代金300万円を振り込んだとする。破産手続の開始後に破産管財人XがB銀行に対してF商店から振り込まれた300万円の引き出し を求めた場合において,B銀行は,本件請負契約の前払金として融資した5000万円と対当額について相殺するとして,300万円の支払請求を拒絶することができるか,論じなさい。
3.前記2において,F商店がB銀行に開設されたA社の当座預金口座に代金300万円を振り 込んだのが令和2年6月16日であり,その時点では,B銀行は,前日の同月15日にA社に ついて破産手続開始の申立てがされていたことを知らなかった場合,B銀行は,本件請負契約 の前払金として融資した5000万円と対当額について相殺するとして,300万円の支払請 求を拒絶することができるか,論じなさい

「さっそく、設問1から始めましょう。答案には、
『設問1について
 1 Xはアホと思われる。みすみす高額で売却できる本件建物を財団放棄 
  しようとしている。』
 から始めてください。ガハハ。今のは冗談です。本気にして書いたら判定は「F」を通りこして、「Z」ですよ。そういえば、採点実感に破産管財人の解除について長々と書いた答案は、「低い評価にとどまっている。」という記載がありましたが、多分、現場を知っている裁判所書記官の答案でしょう。元書記官の深瀬先生に話すと間違いないと言って苦笑いしておられました。ガハハ」
「ところで、『請負契約において注文者は破産した場合は、破産法53条によるのではなく、民法642条による。それは、民法642条は破産法の特則であるから』は、日本のおとぎ話の始まりにあたる「むかし、むかし、ある所におじいさんと、おばあさんが」にあたるところだから、呪文のように覚えてください。判例、通説も固まっています。知らない人は今覚えてください。これは理解というより暗記ですね。ガハハ。」

民法642条
1 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人
 は、契約の解除をすることができる。ただし、請負人による契約の解除に
 ついては、仕事を完成した後は、この限りでない。
2 前項に規定する場合において、請負人は、既にした仕事の報酬及びその
 中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入することができ
 る。
3 第1項の場合には、契約の解除によって生じた損害の賠償は、破産管財
 人が契約の解除をした場合における請負人に限り、請求することができ
 る。この場合において、請負人は、その損害賠償について、破産財団の配
 当に加入する。


(解答例)
設問1について
1 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、破産法55条ではなく
 て、特則である民法642条が適用される。
2 民法642条2項により、第1項の解除によって「既にした仕事の報
 酬」、本問でいう「未払報酬」については、「破産財団の配当に加入するこ
 とができる。」とあることから、 未払報酬については破産債権となる。
3 同項で未払報酬を破産債権と認める衡平上、完成している本件倉庫の帰
 属は、A社の破産財団となる。これは、請負契約の解除について、通常、
 請負人に所有権が帰属し、引渡しにより注文者に移転することを要しない
 ということである。
4 本件倉庫が破産財団に帰属している以上、請負代金1億5000万円全
 額がE建設の報酬債権となる。それに対し、支払済の請負代金は、150
 0万に過ぎないから、報酬債権の一部既履行とみなされ、破産処理手続の
 対象とならない。

(再び、深瀬一郎NOT大賞応募作品、「Xの悲劇」から)
「あきまへんで、あきまへんで、あきまへんでの仰山宜春」
私は、まるでかなづちで叩かれたように感じた。それは、先程のフレーズ「あかんで」から「あきまへん」に変化を遂げたからである。
ドキュメンタリーを執筆する際には、現場の微妙な変化を記録する楽しみがあり、小説を書くのではない面白さを感じた。
「設問2は、いいとして、設問3が問題や。問題というても、出題の趣旨や採点実感や。」
 なんということであろう。仰山先生の正面攻撃である。「前にならえ。」と司法試験委員会が号令をかければ、司法試験受験生がすべて前にならう受験界に、バイブルとされる出題の趣旨や採点実感に攻撃をかけるつもりである。私は目の前が真っ白になるとともに、蒙古襲来絵詞で、竹崎季長が孤軍奮闘している姿が脳裏に浮かんだ。
「破産法71条1項1号を無視するとは、どういうことや。」
「同号の意味は、破産手続開始について、破産債権者の悪意や債務負担の原因が発生した時期を問題とせず、「破産債権者が、破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したとしても、それを受動債権として破産債権との相殺をなしえない」(破産法・民事再生法(第5版)伊藤眞 530頁 有斐閣)と言う意味や。」
「F商店の振込みが令和2年6月16日で、破産手続開始が6月15日や。
F商店の振込みによって、B銀行は、破産財団に対して預金返還債務を負うことは自明なのに、それが、出題の趣旨では触れられず、採点実感に至っては、「少数ながら、破産手続開始後に債務を負担したものであるとして破産法71条第1項1号により相殺が禁止されるとの答案、・・・このような答案は、低い評価にとどまっている。」という評価や。」
「普通に考えても、裁判所の破産手続始まっているのに、銀行の破産者名義の口座に、たまたま破産者の口座知っているからと言って、これまでの借金の返済やと言って第三者から大金入って、その銀行が一人占めしたら、破産手続が始まっててるのに、そんな一人占めしていいんかい。おかしいやろと一般の人は思いますやろ。それと同じですわ。」
「そろそろ時間や。ダメ押ししとくで、かの有名な伊藤眞先生の破産法・民事再生法(第5版)530頁(有斐閣)からの、破産法71条1項1号についての記載の抜粋ですわ。
「金融機関が破産債権者になっているときに、第三者が破産手続開始後に破産者の口座に振込みをなした結果として、金融機関が破産財団に対して預金返還義務を負担したときにも、相殺は禁止される。」
 語り終わった仰山先生は、壇上でホセ・メンドーサとの戦い後の矢吹丈のような真っ白になって燃え尽きた姿をされていた。
 私は仰山先生の冥福を祈った(死亡していないことが後に判明した。)。

設問2について
1 相殺権については、「破産手続によらないで、行使することができる
 」(破産法67条1項)として、担保権者と同じ地位(破産法65条1項参
 照)が与えられている。
2 しかし、債務者が倒産状態に陥った後、相殺を目的として債務負担をし
 たり、債権を取得する行為は、債権者の公平を害するので禁止される(破
 産法71条、72条)。
3 そこで本設問では、詐害性を有するかどうかを検討する。B銀行へのF商
 店により振込みは、B銀行がA社もしくは破産財団に預金返還債務を負担し
 たことになり、B銀行がA社に対する貸金5000万円の受動債権として、
 同法71条各号の負担時期の問題となる。
4 振込みが、令和2年6月5日であるから、同月22日の破産手続開始前
 である。よって、破産法71条の1項1号及び4号には該当しない。
5 また、本件通知には、明確に「債務の支払」を「停止」する旨が記載さ
 れており、同月9日には、B銀行に到達しているから、「支払停止」は同月
 9日である。よって、同項3号にも該当しない。
6 ところで、同項2号については、債務者の支払不能時期が資金調達時期
 と重なることから、 債務負担原因契約と専相殺共用目的に限って禁止す
 るものである。
7 確かに、振込みが行われる前の6月1日の時点で、G木工のみならず他
 の仕入先の買掛代金の支払や金融機関への返済もできないので、弁済期の
 債権について、「一般的かつ継続的に弁済することができない状態」(同法
 2条11号)にあるので、支払不能といえる。
8 しかし、F商店の振込は、専相殺共用目的ではないし、A社は、3つの金
 融機関をあげて、F商店に選択させているので、A社がF商店へB銀行に振 
 り込ませるように指示したとは言えない。よって、B銀行のみならずA社に
 も詐害性はないので、同項2号には該当しない。
9 よって、B銀行は、相殺禁止に関する破産法71条1項各号の適用がな 
 く、相殺して、300万円の支払請求を拒絶することができる。

設問3について
1 前問同様、71条1項各号に該当するか検討する。ただし、前問の解   
 答から同項2号を除く。
2 まず、設題でB銀行は、破産手続開始の申立てがあったことを知らなか
 ったので、同項4号に該当しない。
3 次に、前問のとおり、破産財団に対し預金返還債務を負担したわけであ
 るから同項1号に該当するとともに、本件通知による支払停止後に債務を
 負担したわけであるから、同項2号に該当する。
4 なお、法71条2項は、同条1項の2号から4号に適用があるだけで、
 1号を除外している。
5 よって、同条1項1号が該当する本件では、除外事由を考慮することな 
 く、相殺が禁止され、B銀行は、300万円の支払請求を拒絶できない。
   



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