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日本どら息子協会の挑戦(司法試験予備試験令和2年民法)

あれ、あれ、あれ、日本どら息子協会というのに、お姉さんもいるよ。
ここは日本どら息子協会関西教室。新たに始まった司法試験予備試験セミナーの講義会場です。
ニートどら息子を何とか社会に出そうとする金満家の親御さん達が、その才能を持て余している子女が多いので、同じく暇を持て余している我が深瀬弁護士に講師を依頼したのでした。
美味しいたこ焼きを食べようと、体重150キロ(また少し太った)の巨漢。小兵(こひょう)弁護士も出張に随行しています。
少し、教室をのぞいてみましょうか。

「本日は、にちどら協会 ※注1 理事の方々もお見えになっています。特に志村専務理事は、講義後、いつもたこ焼きの名店でご馳走していただいています。今日は当法律事務所のパートナーの小兵君にも来てもらっています。」
 ※注1 正式な名称は、「日本国どら息子等更生保護協会」である
「時間も惜しまれるので、早速、講義に入っていきましょう。本日は、司法試験予備試験の令和2年の民法です。」

(司法試験予備試験令和2年民法)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

【事実】 1.Aは,早くに夫と死別し,A所有の土地上に建物を建築して一人で暮らしていた(以下では, この土地及び建物を「本件不動産」という。)。Aは,身の回りのことは何でも一人で行っていた が,高齢であったことから,近所に住むAの娘Bが,時折,Aの自宅を訪問してAの様子を見る ようにしていた。
2.令和2年4月10日,Aの友人であるCがAの自宅を訪れると,Aは廊下で倒れており,呼び 掛けても返事がなかった。Aは,Cが呼んだ救急車で病院に運ばれ,一命を取り留めたものの, 意識不明の状態のまま入院することになった。
3.令和2年4月20日,BはCの自宅を訪れ,Aの命を助けてくれたことの礼を述べた。Cは, Bから,Aの意識がまだ戻らないこと,Aの治療のために多額の入院費用が掛かりそうだが, 突然のことで資金の調達のあてがなく困っていることなどを聞き,無利息で100万円ほど融 通してもよいと申し出た。 そこで,BとCは,同日,返還の時期を定めずに,CがAに100万円を貸すことに合意し, CはBに100万円を交付した(以下では,この消費貸借契約を「本件消費貸借契約」という。)。 本件消費貸借契約締結の際,BはAの代理人であることを示した。Bは,受領した100万円を Aの入院費用の支払に充てた。
4.令和2年4月21日,Bは,家庭裁判所に対し,Aについて後見開始の審判の申立てをした。 令和2年7月10日,家庭裁判所は,Aについて後見開始の審判をし,Bが後見人に就任した。 そこで,CがBに対して【事実】3の貸金を返還するよう求めたところ,BはAから本件消費貸 借契約締結の代理権を授与されていなかったことを理由として,これを拒絶した。

〔設問1〕 Cは,本件消費貸借契約に基づき,Aに対して,貸金の返還を請求することができるか。

「設問1から始めましょう。この問題を一読して、小兵くん。もし、小兵くんが、京都弁護士会の副会長、「かんにんえ」の弥七の立場であれば、Bに対して何と発言しますか。」
小兵が立ち上がり、その巨体で周りを揺るがした。
「「あかんえ。」と言います。
「そうですね。Bのしている行動は、法律を全く知らない人から見てもおかしい。これを「あかんえ。」の法則とでも名付けましょう。」
「ただ、私達は法律家です。あるいは法律家の卵です。芦屋に豪邸を構える鎌田さん。この「あかんえ」の法則を法律用語で何といいますか。」
「信義則違反です。」
「そのとおりですね。設問1は直感で解答が分かりますが、法律用語を並べて書くと、なかなか大変です。」
「参考答案をお配りしましょう。」

(解答例)
設問1について
1 本件消費貸借契約について、BはAの代理人であることを示しているけれ
 ども、BはAから代理権を与えられていないので、無権代理人である。
2 無権代理人のした契約は、本人が追認しなければ効力を生じない(民法
 113条1項)。本件では、Bは本人Aの後見人であり、「財産に関する法律
 行為については、被後見人を代表する」(法859条1項)から包括的な
 代理権限が与えられている。BはAの後見人に就職したことで、本件消費貸
 借契約を追認できる立場になったといえる。
3 では、Aの無権代理人として行った本件消費貸借契約を、Aの法定代理人
 である後見人に就職してから追認拒絶することは許されるであろうか。
4 確かに、無権代理人が本人を相続した場合は、無権代理人にその法律効
 果が帰属するのに対し、後見人の場合、無権代理人である後見人でなく、   
 本人である被後見人に効果が帰属する。また、後見人は善良な管理者とし
 て義務を行使する(法869条、644条)ことが要請されるので、本人
 のために追認拒絶できる余地はある。
5 しかし、本件の場合、BはAの親族であり、本件消費貸借契約について
 は、Aの入院費用の工面が目的であり、契約当時、Aが意思表示できないこ
 とをB及びC双方が認識していたからこそ、BとCの間で、BをAの代理人と
 して本件消費貸借契約を締結したのであって、Bは信義則上、当該契約の
 追認を拒絶できない。
6 よって、Cは、Aに対し、当該契約に基づき、貸金の返還を請求できる。

(引き続き司法試験予備試験の問題です。)
5.その後,Aの事理弁識能力は著しい改善を見せ,令和3年7月20日,【事実】4の後見開始 の審判は取り消された。しかし,長期の入院生活によって運動能力が低下したAは,介護付有 料老人ホーム甲に入居することにし,甲を運営する事業者と入居に関する契約を締結し,これ に基づき,入居一時金を支払った。また,甲の入居費用は月額25万円であり,毎月末に翌月 分を支払うとの合意がされた。同日,Aは,甲に入居した。
6.Aは,本件不動産以外にめぼしい財産がなく,甲の入居費用を支払えなくなったことから,令 和4年5月1日,知人のDから,弁済期を令和5年4月末日とし,無利息で500万円を借り 入れた。
7.令和5年6月10日,Aは,親族であるEから,本件不動産の売却を持ち掛けられた。Eは, 実際には本件不動産が3000万円相当の価値を有していることを知っていたが,Aをだまし て本件不動産を不当に安く買い受けようと考え,様々な虚偽の事実を並べ立てて,本件不動産 の価値は300万円を超えないと言葉巧みに申し向けた。Aは,既に生活の本拠を甲に移して おり,将来にわたって本件不動産を使用する見込みもなかったことから,売買代金を債務の弁 済等に充てようと考え,その価値は300万円を超えないものであると信じて,代金300万 円で本件不動産を売却することにした。そこで,同月20日,Aは,Eとの間で,本件不動産 を代金300万円で売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し,同日,本件 - 3 -自宅についてAからEへの売買を原因とする所有権移転登記(以下「本件登記」という。)がさ れた。
8.令和5年7月10日,本件売買契約の事実を知ったDは,Aに対して,本件不動産の価値は 3000万円相当であり,Eにだまされているとして,本件売買契約を取り消すように申し向 けたが,Aは,「だまされているのだとしても,親族間で紛争を起こしたくない」として取り合 おうとしない。なお,本件売買契約に基づく代金支払債務の履行期は未だ到来しておらず,E は,本件売買契約の代金300万円を支払っていない。

〔設問2〕 Dは,本件不動産について強制執行をするための前提として,Eに対し,本件登記の抹消登記 手続を請求することを考えている。考えられる複数の法律構成を示した上で,Dの請求が認められ るかどうかを検討しなさい。

「さて、さて、設問2に移るとしましょう。親御さんもおられるので、少し専務理事の娘さん、志村さんをいじめてみますか。」
「民法を離れて破産法を少しかじってみましょう。破産者の唯一の責任財産である不動産が、支払停止後、第三者に無償贈与された場合、破産法ではそれを止める手立てがありますか。」
「否認権を行使します。」と志村さん。
「そうですね。破産法160条3項ですね。誰が行使しますか。志村さん。」
「破産管財人です。」
「そのとおりです。これと似た制度が民法にありますか。志村さん。」
「詐害行為取消権です。」
「そのとおりです。多分、皆さんは、いきなり破産法の講義を始めて、「このおっさん、気が狂ってんのか。」と思われたのではないですか。このなんていうか、違和感、異質感。非常に大切です。」
「だって、民法は取引の安全のことばかり考えているではないですか。ここで、破産管財人でもなく、破産裁判所の監督が及ばない債権者のために、取引を取り消せるだの、債務者が気が進まないから債権者がしゃしゃり出て代位行使できるだのという制度が突然でてきたら変じゃないですか。」
「何かこれまでと違うなあという感覚持ちませんか。小兵さん。」
「そうですね。民法の中に、破産法のみならず、民事執行法や民事保全法を持ってきたような気がします。」
「たまには、いいこと言いますね。」
「例えば。」とたまにいいことを言う小兵さん。
「例えば。」と聞き返す期待に胸をふくらませる深瀬先生
「ミックスピザにあんこが入っている感じです。」とたまにはいい事を言ったことがある小兵さん。
がっかりした深瀬先生が述べた。
「それはともかく。本設題では、なんとかして詐欺をした悪党Eから、好意でAにお金を貸したDのために本件不動産を取り戻そうという筋道で答案を書くことになりそうですが、取消権等を枠に当てはめず、水戸黄門の印籠※注2のように振り回していいものかという気がしました。」
 ※注2 水戸黄門の印籠とは、ドラマの最後にそれを見せることで、すべて
    の人が黄門さまにひれ伏し、屈服するというマジックアイテム
「枠に当てはめる。つまり、債権者による他人の財産権の侵害を最小限度に抑えるために取消権等の行使を制限する要件としては、債務者の「無資力」は必須ですし、それに加え、詐害行為取消権は、「詐害行為」という枠がありますし、債権者代位権も、「一身専属以外」という枠があります。」
「債権者Dを救うという結論は動かし難いですが、果たして民法の枠を当てはめた上で救えるのかそれぞれ考えてください。」
「私なりに考えた参考答案をお配りしましょう。」

(解答例)
設問2について
1 法律構成として、
 (1) Dが本件売買契約を詐害行為として取り消して(法424条)、本件
   登記の抹消登記手続を請求する(法424条の6第1項)
 (2) Aが、Eの詐欺に対し取消権をもつことから(法96条1項、120
   条2項)、DがAに代位して、本件売買契約を取り消し(法423条1
   項)、さらに、Aに代位して、Eに対し、本件登記の抹消登記手続を請
   求する
 という2つの法律構成が考えられる。
2 (1)、(2)ともに被保全債権は、DのAに対する貸金債権100万円で
 ある。また、両者ともに、他人の財産権に介入を加えるものであるから、
 介入を正当化する債権保全の必要性が求められる。正当化根拠として、債
 務者が債権者に弁済する資力がないので、責任財産を保全することが許さ
 れると考えると、債務者の無資力が要件であり、本件では、Aは、借金を
 しないと、甲の入居費用さえも支払えないことから無資力の要件をみた
 す。
3 (1)の詐害行為取消権を行使する場合、取り消される行為は、「債務者
 が債権者を害することを知ってした行為」(424条1項)に限定され、
 この行為の詐害性は、主観面と客観面双方から判断される。
4 本件の場合、客観面は、3000万円の不動産を300万円で売り渡し
 ているのであるから、明らかに財産減少行為が見られこの要件を満たす。
5 しかし、主観面は、Eの詐欺により、本件不動産の価値を300万円だ
 と誤信し、その得る300万円も債務の弁済等に当てようというのだから
 Aに債権者を害する認識がない。
6 よって、行為の詐害性の主観面が欠けるので、詐害行為取消権は行使で
 きず、(1)の法律構成はとることができない。
7 (2)の債権者代位権を行使する場合、対象として、「債務者の一身に専
 属する権利」は代位行使を禁止されている(法423条1項ただし書)。8 ところで、詐欺の取消権については、取消権者が法定されており(法1
 20条2項)、一見すると取消権者は、一身専属性を有するとも思える。
9 しかし、取消権者を法定したのは、取消権が形成権であるから、その行
 使権者を明記しただけであり、一身専属性を担保するものではない。
10 それにもまして、本件では、Aはだまされていることを認識しており、
 取消権を行使しないのは、親族間の紛争にわだかまりがあるだけで、一身
 専属性をもってAを保護する必要性は乏しいし、詐欺により、唯一の責任
 財産である本件不動産を失うDの不利益は大きい。
11   よって、本件については、Aが詐欺の事実を認めており、代位権を行使し
 ないと衡平の見地からDの失う利益が余りにも大きいため、(2)の法律構
 成をとることができ、Dの請求は認められる。

 

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