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0020.読み上げ機能

2002年2月より、携帯電話向けのメールマガジンのサイトに登録して、発行者として不定期にメールマガジンを発行していた。いまはもうそのサイトはなく、メールマガジンは発行していない。それの代替行為が、先日まで続けていたパソコン教室のブログだったり、この note だったりするのだと思う。

メールマガジンのときに同じ発行者や読者との交流があり、いまでもすべてではないが続いている。その発行者・読者の中に目の見えないなにわのジュンという男がいた。名を出していいかちょっと迷ったが、いちいちその目の見えない男とか説明するのが面倒なので、当時のハンドルネームを出した。なにわのジュンは確か全盲だったと思う。生まれつきではなく十代の頃から視野狭窄が始まり、成人するころには全盲になった。その全盲になるまでが恐怖だった、全盲になってからのほうが、腹が座って恐怖が無くなったと言っていたような気がする。

確かあんまの資格を取り、生活していたのだと思った。子供の頃からの鉄道ファンで、全盲になる前から全国の鉄道を乗り歩き、駅構内などの様子を記憶にとどめたと言っていた。記憶力が抜群に良く、そもそもがどんな男かよくわからないやつだった。当時俺は、東京のタクシー会社で乗務員をしていた。勤務明けの朝、タクシー会社の最寄り駅JR錦糸町駅に、なにわのジュンは現れた。駅員さんの肩に手を置き一緒に歩いてきた。バックパックを背負って、白い杖を持っていたかどうか俺はまるで覚えていない。これが初めて会ったときのことである。

年齢は俺と一緒、いまの俺と同じように頭は全剃り、髭ははやしていない。中肉中背で、なにせその最大の特徴は速い関西弁である。まあよくしゃべる。そして決断が早い。どうしましょかーとかいいながら、もう彼は決めている。錦糸町駅からそのまま電車に乗って、ふたりで熱海を目指した。俺と熱海の温泉に浸かりたいというのだ。ともかく、駅の乗り換え等は彼のほうが詳しい。何か時間が足りないと言って、結局温泉街へは行かず、駅前の足湯に30分浸かっただけで帰ってきた。

なにわのジュンはドコモユーザーだった。当時ドコモだけが読み上げ機能を装備した携帯電話を出していた。その読み上げ機能を使ってメールおよびメールマガジンを読んでいたのだ。彼とはその後も何度か会った。新宿の障がい者手帳で安く泊まれる宿に呼ばれて、一緒にふろに入った。かと思えば俺の地元船橋まで来て彼女らしき女性を俺に会わせたりした。非常にコミュニケーション能力の高い男で、彼を介して多くのメールマガジン発行者と知り合いになることができた。いつの間にか連絡を取り合うこともなくなったが、不思議な男だった。

それを思い出し、昨日22時、なにわのジュンがもし俺の note を読んだときに、読み上げ機能で正しく読めるのだろうかと気になった。読み上げ機能とは、主に視覚障がい者のために、スマートフォン、タブレット、パソコンでテキストを音声で読み上げてくれる機能である。俺は顔文字をときおり使う。顔文字は視覚にだけに訴えるコミュニケーション方法である。読み上げ機能は顔文字に適合していないはずだ。俺の note 2月15日投稿の「コーヒーを飲む」を、iPad Air 第5世代の読み上げ機能を使って読んでみた。

note の 2月15日投稿の「コーヒーを飲む」を表示させて、上へんの検索ボックスの左端の「あ」をタップして、読み上げ機能のメニューを出した。メニューの中の「ページの読み上げを聞く」をタップすると、すぐに記事タイトル、投稿年月日時刻、本文を音声で読み上げた。鉤括弧はあっても読み上げないので問題ない。鉤括弧は目で読む者にとっては有益なので、いまこの記事でも付けている。しかし、顔文字は顔文字の意味を読み上げない。だから、俺はこれから顔文字を使わない。嬉しい気分のときを表現する音符記号も使わない。

漢字に二通りの読み方がある場合がある。「くだんの粉キューブが」の「くだん」を漢字「件」で書いた。すると、読み上げ機能では「くだん」を「けん」と読んだ。「くだん」と「けん」では通常使われ方が違う。俺はこれからは、「くだん」はひらがなで書き、「件」は漢字で書くことにする。というように、なかなか難しいことになっている。しかし、考えてみれば、国が違い話す言語が違う者同士でのコミュニケーションでも、通訳を介してではあるが、自分の意思が相手に正確に伝わっているのかどうか気遣いしながらコミュニケーションをとると思う。それと同じだ。

読み上げ機能で、自分の文章が音声でどう読まれるのか、気にしながら書いてみたい。別に俺はいい人ではない。俺は聴覚障害がある。難聴で聴こえが悪い。「ち」と「り」の区別がつかない。「と」と「ど」を聞き分けるのが難しい。だから、他人の話を聴いて理解する力が劣ってしまっている。聞いているのが日本語なのに「なに言ってんだこいつ」と思うことが多い。コミュニケーションとは、話す・聞く・書く・読むことだけではない。話したことが、書いたことが相手に伝わっているかどうかを気にすることも必要だと思う。

そして、この読み上げ機能での確認も、俺はゲームと思ってやろうとしている。目の見えない人に寄り添うつもりはない。寄り添ってしまうと共倒れである。そこまでしなくとも、みんながほんのちょっと相手を気遣うだけでも、違ってくるんじゃないかなと思う。

上記の文を読み上げ機能を使って聴いてみた。漢字で「ひげをはやしていない」と書くと、「ひげをなまやしていない」と読む。漢字で「じょうへん」は、「うわべ」と読む。なので、漢字に気をつけて書こうと思う。あ、俺はパソコンで書いて投稿するのだけれど、パソコンにも読み上げ機能はある。

柳 秀三

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