マガジンのカバー画像

その他、書評やエッセイ

40
哲学や文学、科学といった本の書評、映画や格闘技などの雑記、エッセイをまとめています
運営しているクリエイター

2024年2月の記事一覧

エッセイ:わたしが文学青年だった頃~90年代0年代回想録~

 私が入れ込んでいる哲学者、スピノザ。このスピノザの日本でのブームという奇妙な現象は、ここ最近の出来事である。少なくとも90年代においては、スピノザ研究者やコアな哲学好きなどを除いては、あくまで柄谷行人を介してのスピノザ、あるいはドゥルーズを介してのスピノザ、アルチュセールを介してのスピノザに触れるという体験ではなかっただろうか。私が通っていた学部では幅広く哲学や倫理学、政治思想史などを学ぶことができたが、バルーフ・デ・スピノザ、その名が大学教授の口から出ることは皆無といって

ハイデガーが読みたい!『ハイデガー~世界内存在を生きる~(高井ゆと里著)』

私の哲学の読書はスピノザから始まった。そこから、哲学史をなぞるようにしてさまざまな哲学者の代表的な著作を読んではきたのだが、ハイデガーにはなかなか踏み込めないでいた。ハイデガーといえば、その主著は『存在と時間』であるが、この『存在と時間』は内容がとても分厚く、ただでさえドイツ哲学は難しいという印象があるので、自分にとってはハードルが高かったのだ。 思えば、カントを読むのも容易ではなかった。『純粋理性批判』から読んでみたのだが、これがまた頭にぜんぜん入ってこない。すぐに挫折し

新潮新人賞受賞作品『狭間の者たちへ』を読んでみた~「狭間」における病理~

新潮新人賞受賞作家の中西智佐乃さん『狭間の者たちへ』を読んだ。凄い力量を持った新人作家の作品は久しぶりだ。そこに書かれているのは紛れもなくわれわれの「リアル」である。 新人賞を受賞した作品は、同録の『尾を喰う蛇』の方だが、いずれの作品においてもテーマは一貫している。 この方の提示がユニークなのは、今の日本社会において、「強者」と「弱者」あるいは「勝ち組」と「負け組」といったような格差を生み出してしまう構造において、じつは弱者とみなされる人間の方にも甘えのようなものがあり、