承認欲求に支配された三十路女の日常①【超ショートショートまとめ】
(98…99…お、100超えた)
部長からオフィスに響き渡る大声で叱責されながらも、堀田絵里は相手の話に集中していなかった。
代わりに尻に伝わる振動――
Xに投稿した生成AIによる谷間を強調した若い女性の画像と「#ママ活募集 」に反応した男たちからのDMを知らせる通知
――を夢中で数えていた。
〈堀田絵里のプロフィール〉
スカートからトイレットペーパーが出た状態で街を歩いていた。
慌てて尻から伸びるトイレットペーパーを取ろうとする。
しかし中々捕まえられず、クルクルと回る。
「自分の尻尾を追いかけるバカな猫みたい」
通りがかった子供の一言に、周囲の人々がドッと笑う。
顔が熱い。
けどオイシイかも。
砂浜で地味な水着を着た男女数人が、必死の形相で走り回っている。
その足元では、全裸の子供たちが色とりどりの小さな水着を踏みながら、親たちとの「追いかけっこ」を楽しんでいる。
自分と偽ってSNSに投稿しようと若い女性を盗撮していた堀田絵里は、眼前の光景に(邪魔)と舌打ちした。
片想いしていた同級生から「会える?」と堀田絵里にDMで連絡が来た。
プロフ画像を見ると、昔以上に格好良くなっている。
しかし堀田絵里は溜息を吐いた。
同級生がアプローチをしているのは、自分ではなく自分が作った架空の美少女なのだ。
堀田絵里は「こんな遊びしてる年?」と返信し、「私もか」と独りごちた。
AIで作った美女の画像を添付して、
「今日も銀座で某社長と。タクシー代ももらって満足だけど、たまには回ってる寿司も食べたいんだけど笑 #高級店」
とXに投稿しようとしたとき、前髪で視界が遮られた。
髪を掻き上げながら風の行き先を睨み見ると、車道を枯れ葉が転がっていた。
まだまだバスは来ない。
白い溜息が画面にかかる。
車道に身を取り出して手を上げる。まただ。またタクシーに素通りされた。
「3台連続で無視されてるんだけど」
大きめの独り言を言うが、周囲には誰もいない。
Xを開いて「ヤバい。タクシーに10台連続で無視されてる」と投稿すると
「迎えに行こか?」
知らない男たちからDMがきて安心した。
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