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【漫才】「暴漢」

A:心配し過ぎかもしれないんだけどさ、
  最近、街中で急に暴漢に襲われたらどうしようかな
  って考えてるんだよね。

B:いやいや、全然心配し過ぎじゃないよ。
  暴漢なんてどこにいるか分からないんだから。

A:そう言ってくれるとありがたいわ。
  悪いんだけど、街中で急に暴漢に襲われた時の
  シミュレーションさせてくれない?

B:え?じゃあ俺が暴漢の役するってこと?

A:うん、悪いけどやってくれない?

B:いや、全然、むしろありがとう。
  やろうやろう。

A:ありがとうって何?

B:俺が暴漢として襲えばいいのね?

A:え?うん。
  じゃあここが夜の人気のない道だってことにして、
  俺が歩いて来るから襲って来て。

B:分かった。

A:(歩いて来る。)

B:(一緒に歩きながら声をかける。)
  あ、こんにちはお兄さん、あの、ちょっと……

A:キャッチみたいになってるわ。
  ちゃんと暴漢やってよ。

B:キャッチみたいになったらダメなの?
  キャッチも路上で犯罪してるから暴漢と一緒だと思ってたけど。

A:……まあ、そういう意味ではキャッチも暴漢みたいなもんだけど。

B:暴漢ってどういうのだっけ?

A:大声を出しながら真っ正面から向かって来るやつだよ。

B:大声を出しながら真っ正面から……?
  ああ分かった、あれね。イメージできたわ。

A:分かった?じゃあもう一回やって。

A:(歩いて来る。)

B:久しぶりー!!

A:女子か!
  久しぶりに友達に会った女子みたいになってるから。
  確かに大声出しながら向かって来るけど。

B:ちゃんと大声出しながら行ったんだけどな。

A:あれはテンション上がり過ぎておかしくなってるだけだから。

B:それ暴漢と一緒だろ。

A:そうかもしれないけど。
  暴漢には久しぶりに会う友達いないから。

B:どうやったら暴漢になれるかな?

A:難しくないよ。
  大声出しながら殴りかかるだけだから。

B:初めからそう言えばいいだろ。

A:大体分かるだろ。

A:(歩いて来る。)

B:(殴りかかりながら)うおー!!

A:(抵抗しながら)
  だ、誰か助けてください!
  警察呼んでください!

B:(逃げる。)

A:……これでいいんだよ。

B:今のでいいのか。

A:そう。おかげで暴漢に襲われたときのシミュレーションできたわ。

B:俺の方こそ、暴漢として襲うときのシミュレーションになったわ。

A:……え?

B:あぁ、俺、実は前から暴漢になりたくってさ、
  でも暴漢の練習したいなんて言っても協力してくれないだろ?
  だから良い練習になったわ。

A:……俺、知らず知らずの内に暴漢を育ててたのかよ!

B:おかげでちゃんと襲えそうだ。

A:すいません皆さん。
  俺、暴漢を育て上げてしまいました。
  放っておいたらただのキャッチだったのに。

B:それにしても本当、
  暴漢ってどこにいるか分からないよな。

A:それってお前自身のことだったのかよ。
  あのさ、言っておくけど、暴漢は直ぐに捕まるからな?
  今そこら中に防犯カメラあるから。

B:そんなの「自分じゃない」って言い張れば大丈夫だろ。

A:甘いよ。
  たぶん刑事が取り調べするから。

B:どんな風に?

A:どんな風って……。
  お前がやったんだろ!

B:だからやってませんって。

A:そんなこと言ってるけどな、ここに証拠……
  お前取り調べの練習してるだろ!
  捕まった後の練習までしようとしてるだろ。

B:してませんよ刑事さん!

A:コントから出ろ。
  これ以上暴漢が育たないように話題変えるわ。

B:なんだよ変えるのか。

A:俺、今マッチングアプリで連絡取っている女の子がいて、
  今度会うことになってるんだよね。

B:え、そうなの?
  めっちゃいいじゃん。

A:でしょ?で、会ったときのシミュレーションしたいから、
  俺が待ち合わせ場所で待っているところに女の子として来てくれない?

B:全然良いよ。じゃあ待ってて。

A:まだかな~。
  あ、来た!

B:(殴りかかりながら)うおーー!

A:暴漢じゃねえか!
  お前何してんだよ。

B:街中で急に襲うより、
  ネットで女のフリして釣った方が確実に襲えるからな。

A:暴漢としてレベルアップしてんじゃねえか。
  もっと全然関係ない話題にするわ。
  俺、板東英二のファンだから、街で会ったときにサインもらう練習したいんだよね。だから板東英二やって。

B:いいけど……板東英二のファン?

A:別にいいだろ

B:(歩いて来る)

A:あ、すいません、板東英二さんですよね?

B:(殴りかかりながら)うおーー!

A:お前じゃねえか。
  板東英二やれって。

B:いやこれは、俺が板東英二のフリをしてたんじゃなくて、
  板東英二が暴漢になったんだよ。

A:ふざけんな。
  なんで板東英二が暴漢になってんだよ。

B:俺が、お前からもらった暴漢のノウハウを
  板東英二に叩き込んだんだよ。

A:最悪だよ。
  間接的に俺が板東英二を暴漢にしたのか。

B:分かってると思うけど、
  板東英二はめっちゃ暴漢の素質あったぞ?

A:やめろ!ファンに向かって何言ってんだ。
  っていうか、お前さらにレベルアップして暴漢を育てる側になってんじゃねえか。

B:これからは俺が育てた暴漢が更に別の暴漢を育てる。
  倍々ゲームで暴漢が増えていくんだ。

A:お前、最終的に何がしたいんだよ。
  そもそも何で暴漢になりたいんだ?

B:暴漢が怖いからだよ。

A:え?

B:暴漢は暴漢を襲わないだろ?だから暴漢になるんだよ。
  そして暴漢しかいない世界にすれば、誰も被害に遭わなくなるだろ。

A:そうか……
  じゃあ最初に言った通り俺も暴漢が怖いから、
  俺も暴漢になるわ。

B:(かしずく)その言葉を待っていました。
  我が主よ、私たち暴漢は、始祖であるあなたの指示を待っていました。

B:(他の暴漢の役をする。)
  うおーー!
  久しぶりー!
  あ、こんにちはお兄さん。

A:まだ育っていない暴漢も含め、沢山集まっているな。

B:2億円分のゆで卵ください。

A:(無視)
  それでは皆さん、これから雪山に行き、
  体にガソリンを塗って火をつけて焼身自殺しましょう。

B:え?

A:私たちは社会に存在してはいけないのです。
  だから、雪山で焼身自殺しましょう。

B:……分かりました。しかしなぜ雪山に?
  ……あ、そうか。その地域に住む人々が私たちで暖を取れるように、 
 「防寒(暴漢)具」になるってことですね?

A:……え?どういう意味ですか?

B:あ、なんでもないです。

A:雪山に行くのは火が燃え広がりにくいからです。
  っていうか燃えている暴漢たちで暖を取る人なんか、
  いるわけないでしょう?

B:すいません。

A:……それじゃあ、雪山に到着して体中にガソリン撒いたから、
  火をつけますよ?

B:はい。

AB:(燃える)うおーー!

B:……こうして暴漢たちは自ら命を絶ちました。
  それからというもの、暴漢たちの断末魔によって、
  その雪山では雪男が出ると噂されるようになりましたとさ。

A:そんなわけねえだろ。
  もういいよ。  


読んでいただきありがとうございました。
あなたが何も心配せずに夜道を歩けますように。

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