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【超ショートショート】「有事に向けて」など

「有事に向けて」

1つの貝殻を数匹で共有する、
変わったヤドカリ達がいた。
大きな貝殻を使っているとはいえ、
せせこましい。
(1人の方が気楽なのに)
と普通のヤドカリ達は馬鹿にしていた。
しかしある日浜辺を津波が襲ったとき、
流れずに踏ん張っていられたのは、
身を寄せ合っていたそのヤドカリ達だけだった。

中身がなくなった貝殻。

「子供が夢見るきっかけ」

キッザニアでいくつかの職業を体験した子供は、
一息つこうと休憩スペースを探した。
すると会場の一角に
沢山の子供が椅子の上で眠っている
『国会議員』というスペースがあった。
子供は喜んで中に入って眠った。
そのスペースから出たとき、
子供は係員からお金を渡されて、
「なんで寝てただけなのにお金がもらえるの?」
と驚いた。

キッザニア内で使える貨幣『キッゾ』

「牢屋の壁に描かれた楽園」

その日仕留めた鹿の肉を噛みつつ、
私は丘の上から広大な森を一望した。
ここには、
日々膨大で新しい商品が生産・宣伝・浪費される
資本主義の目まぐるしさがない。
うっとりと溜息を吐いたその時、
不意に脳内で声が聞こえた。
「仮想現実のご退出10分前です」
「1時間延長で」と私は答えた。


「計画性がないと」

さぁ、140文字小説を書いていこうと思う。
しかし、残りの文字数は既に98文字だ。
つまり今から98文字小説を書くことになる。
いや、今の分析で文字数を使ってしまったから、
残りの文字数は68文字、
つまり今から書くのは68文字小説だ。
いや、残り29文字だ。
いや、残り19文字だ。
ヤバい、あと1


「寝室への侵入者」

洗濯物を畳みながら寝落ちしてしまった私は、
寝室からの物音で目を覚ました。
まさかと思ってドアを開けると、
子供が寝ているベッドの手前に
大きな背中があった。
私は慌てて掴みかかった。
すると驚いた顔で、
子供の寝顔を覗き込んでいた夫が振り返った。
私は言った。
「やっと寝かし付けられたの…」


「年金支給年齢引き上げ」

水面から伸びる塔がある。
塔はその中に住む人々が水から逃れるために、
上へ上へと増築を重ねられた。
しかし今や塔は傾き、
根元に住む人々は溺死しそうになっている。
「多過ぎる年寄りの重さで塔が傾いている」
という話を聞いた人々は、
塔の根元に住む年寄り達を蹴落とそうとしている。

年寄りが、増築の方針を決定付ける人々が住む『先端』に多いために傾いている塔。

読んでいいただきありがとうございました。
あなたが列に並んでいるとき、あなたの背後霊が順番を抜かしてあなたの前に出て来ませんように。

冠鳥天狗より

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