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あぶく銭

 久しぶりに競馬のお馬で勝った。
たいした額ではないが、20,600円の配当。
丁度、MIKEのシューズが破れ、買い替えようと思っていたところだ。
ちょっとワンランク上の靴が買えると、ウキウキしながら靴屋に行く。
気に入った靴が二足あった。
『ん〜どっちにしよう』
決めかねて悩んでいると、奥様からスマホが鳴った。
「何処ほっついてるの?! 洗面台がびしょびしょよ!早く帰ってどうにかして!」
どうにかしてって俺に言われても、とぶつぶつ言いながら、そのまま買わずに帰宅する。

 洗面台を見てみると、蛇口から伸びているホースから水が漏れている。
その水が床に流れ出ているようだ。
家を建て25年も経っていればあちこち不具合が生じ壊れていく。
形あるもの全て壊れる。ま、形無いものも壊れるけど、、
(そんなことは今どうでもいい)
どこから床に漏れているのかもわからない。ホースだけを交換すればいいのか、蛇口を交換しなければいけないのか素人にはわからない。
やっぱり専門業者か。

 家を建てた工務店は既に今は無く、洗面台のメーカーを探す。
濡れた引き出しを抜いていくと、一番下の引き出しには、ホテルに置いてある使い捨ての、髭剃り、歯ブラシ、石鹸等が未開封のまま山のように詰め込んである。
 昔、ホテルに泊まれば、必ずこういったアメニティセットをせっせと持ち帰っていたもんだけど、結局、使うことなど無かった。
今ではその中でも、髭は剃らないし、髪も坊主頭でクシも必要ない。
『なんや、結局無用の長物を大切に仕舞っていたってことか』
ところが一番下の底に、洗面台の取説が残っているのを見つける。
25年間、一度も見たことが無かった。
「家が建った時から、お前、ここへずっとおったんかい、やっと出番が出てきたわ!」
設置の仕方がこと細かく書かれてあり、一番下にはメーカーの連絡先電話番号が書いてある。
 早速その連絡先に電話をかける。
が、残念ながら、現在使われていませんと無情な音声が響く。
確かに25年も前だし、そもそもこの会社無いんとちゃう?
イヤイヤ、このメーカーは名称を変更しているだけで、あるはずだとスマホでググる。
「あった!」
 品番を伝えると修理専用のサービス部門から電話があり、明日にも伺うと返答。さすが、メーカーだ。やることが早い。
蛇口を止めていれば、水漏れもしないようなので了承した。

 次の日、気のよさそうなサービスマンが来訪してきた。
「良かったですね。ホースの交換だけで直りそうです。カートリッジ部分だったら、この蛇口を全部交換しないといけないので、びっくりするくらい掛かりますよ」
「ビックリするくらいって?」
「ビックリするくらいです」
と値段をはっきり言おうとしない。
実は、電話をする前、もしこの洗面台が修理できずに新品を買わないといけなくなったらと思い、そのメーカーのカタログを見ていた。
高いもので95万円、安いものでも40万円とある。
「たっか〜」
是が非でも修理してもらわんと!
奥様に報告する。
「いいんじゃない、ここで洗髪もしないし、あんなに大きなものでなくて、そうしたら隣の洗濯機もその分大きいものを買えるし!」
ときた。
コイツ、この期に及んで洗濯機まで新調しようとしている!
是が是が是が非でも、修理してもらわないといけない。
 なので、ビックリするくらいと言われても新しいものを買えば、安くても40万円。蛇口交換だけなら、ビックリでもそんなにはしないだろう。
と半ば安心して
「いくら」
と再度聞く。
「6万円くらいです」
と、申し訳なさそうに答える。
本来なら、
「蛇口を取り替えるだけで6万なんて高いわ!」
と言うところ、
「あっそう」
と驚きもしないので、サービスマンがとても残念そうな顔をする。
ほんとは、『まだ安いわ』と答えたかった。
 しかし、よくよく考えると結構なお値段だ。
しかも今回はホースだけの交換。もっと安いはず。
もうそれで直してくれると思ったら、ご丁寧にパソコンに入力し、修理の見積書をわざわざ紙にして出してくれる。
「これで良ければ、サインして下さい」
と書かれた見積金額を見る。
『金 20,600円 也』
ん?一瞬どっかで見た金額だが、蛇口交換よりはるかに安い。
「勿論これでお願いします」
ものの10分で修理完了。

なんか、すごい得した気分で、代金をちょうど支払う。
ちょっと待て!20,600円?!
MIKEの靴買われへんじゃない!と財布を見て我に返る。
ホンマ、あぶく銭は残らんなあ。

結局、馬がホースになったということかいな。

おあとが、よろしいようで 
チャンチャン!


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