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小用便器

 ある男子トイレの中。
成人用の小便器が右側に二つ並び、左側に和式トイレが一つある。
 三歳位の男の子と、その父親が二人で入ってきた。
父親は小便器に立って、男の子は背が低いので、和式の便器に立ってオシッコをする。
先に終わった父親が、小便器のボタンを押して水を流す。
洗面台に移り自分の手を洗いながら、オシッコが終わった男の子に、
「ちゃんと手を洗えよ」
と声を掛ける。
すると、
「うん!」
と元気よく返事をした男の子は、振りむくと、先ほど父親が用をたした小便器から、まだ流れている水で手を洗い始めた!
「バ、バカ!そこじゃない!」 
子供が手を洗うのに、ちょうどいい高さの小用便器となった。
それで、『小』なんかあ。
 
 学生時代、イギリスのケンブリッジで一か月ほど生活をした。
学校、デパート、博物館、美術館、映画館、ホテル、どこの小用トイレに行っても、便器の位置が高く、オシッコをする時は、チ〇チ〇を上向きにするか、つま先立ちで用をたさねばならなかった。
 身長168センチ。決して高くはないが、低すぎるということもない。
やっぱり、足が短いのか。ズボンを買って裾直しをする際、いつも切って捨てる方が長いのではと感じてはいたが・・・
 イギリス生活の後に行った、ヨーロッパの国々でも同様で、その度に足の短さに劣等感を覚えた。
まあ、食べる物が違う西洋人と比べても仕方がないと、自分自身を納得させた。
 
 数十年後、ベトナムに行く機会があった。
ところが、日本と違い、小用便器の位置はここでも高かった。
『なんじゃこれ!アジア人と比べても結局、足が短かかったんかい!』
つま先立ちで用をたしながら、日本では忘れていた屈辱を思い出した。
憮然としながら、ひょいと隣でしている男の足元を見ると、同じく、つま先立ちだった。
 大変、有意義な旅だった。

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