狼と兎のゲーム 感想と学び

おおかみとうさぎのげーむ

著者:我孫子武丸(あびこたけまる)
出版社:株式会社 講談社
発行日:2015年
ジャンル:ミステリー イヤミス
※イヤミスとは読後に嫌な気分になるもの、嫌だと思いつつも続きが気になって読み進めてしまうような内容のことを指します。後味が悪い。バッドエンド。

あらすじ
主人公智樹(ともき)とクラスメイト心澄望(こすも)がある日、心澄望の父親の茂雄が弟のがいあ(漢字変換諦めた)の死体を埋める所を目撃してしまう。小学生2人VS警察官の父親という絶体絶命の中、なんとか逃げ切れるのか!!

一気読みして正確な時間は分からないがおよそ3時間で読破
 聞きなれない単語や難解漢字もなく、言葉遣いや文章自体は児童書のような読みやすさ。展開のテンポも早く短めのボリュームでした。登場人物も少ないです。

感想はズバリ、胸糞悪い内容です。
思わず顔を顰め眉間にシワが寄りました。
イヤミスの中でもマイルドな方(他のサイトの口コミ参照)らしいですし、細かい描写は少なくさっさと次の展開へ進む流れでしたが、DVに自称サディストの父親の心情描写がサイコパスすぎてもう何言ってんだこいつと不快になる部分が多いです。
兎にも角にも命の危険があるのだからもう警察に通報すればいいだけなのですが、長年の洗脳で全く頼れない当の被害者心澄望と今まで虐待されてきて大人も怪しんでいるのに未だ解決されていない実態を見て頼りにならないと説得された智樹が小学生らしく考え試すものですからやきもきする部分もあります。
ただもどかしいながらも、確か小学生ってこんなものだよなと納得出来るリアルさでした。
 頼れる大人を探して東京まで行く二人ですが、警察官という職権を利用しあっという間に迫ってくるスリリングさだけで読み進んでいきました。とても引き込まれ、そういう部分ではとても評価できる作品です。

虐待にしろハラスメントにしろ、悪意なく自分の都合のいいように解釈して行い、反論や邪魔をされないように用意周到に現場を固め、自分の保身のために外面はよく口も上手い隠れ加害者が1番タチが悪い
 加害者を性善説で信じ被害者を性悪説で疑うことはあってはならないと思う。事実よりも嘘の方が現実じみていて説得力があるからよく見定めたいものです。


ここから先はよりネタバレする内容です。



分かる人には分かるベタな結末(らしい)
 実は手紙が偽装で生きていなかった。殺される直前だったけど奇跡的に助かる。そして罪の意識から自殺。
あっという間に読み進められたから正直予測する余裕はなかったけど、斬新でもなければ衝撃を受けるほどとも言えない
可も不可もなく無難に終わった締めかな
逃げ切ってあとの話が2ページにも満たず、あれもうおしまい?感は思う人も多いだろう。
 DVの被害に関して周りも怪しんでいるのに、柔道を習っているからで済まし放置し、脅され襲われたとはいえ裏切る教師など周りの大人が頼りなく、しかし実際はこんなものだろうなと思うとやるせない。
教師に関しては、襲われレイプに暴力(従えさせるためかなりキツめに)され、綺麗事だけならそんな父親に子供の所在地など教えてはならないが、自宅を知られたのもあるだろう自身の命の危険も感じて言う通りにしてしまうのも仕方がないと思う
そしてそうまでさせた職権乱用と柔道の技術の悪用で新たな加害者を生み出す様を見てほんとクソだと思った。
主人公智樹と敵である茂雄の描写が交互に描かれていたが、茂雄の教育観にお前が言うな!とかそんなわけないだろ!と心の中でツッコミ・反論し精神的にもくるものがあった。
 理解はしたくないが、殺人暴力を躊躇なくできる人物の思考としてはこれもリアルなのだろう。
イヤミスにしてはマイルドだろうが、バッドエンドも好きでなければ、究極に自己中なサイコパスの考えを受け取ってしまって、いっそゾンビの方が(グロイのは苦手だが)マシだと思う。それもこれも全体的に本当にそうなりそう、実例と一致する部分もあることから強めに共感してしまったのだろう。
ちょっと例えとして適切か分からないがピリ辛やあまじょっぱいとかではなく、炭酸の抜け切ったぬるいビールのような苦さや、わさびやカラシで鼻がツーンってなる感覚に近く後味の悪さだった。ただしあくまで一時的、長く思い出すような内容でもなくあっという間に上書きされたり風化しそうだ。(ショックはあるけどインパクトは弱いよ)

社会問題に対して改めて考えさせられる内容でした。自分自身の身を守る方法や、優劣とか環境など複雑になり、読者として作者に見せられるがままではなく、当事者として向き合えるようにより多くのものに興味関心を持ち気づく・知る機会を増やせたらいいなと思います。

以上感想と学びでした

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