ヒットポイント2

私たちの頭の上には数字がある。
ヒットポイント(HP)という、体力や精神力を数値化したようなものだ。
そして、この数字は自分のものは見えない。

「長野さん、今日はもう帰ってもいいよー。」
「え?いや、あの…」
「雨だし、人の入りも少ないからさ!お疲れさん。」

アルバイト先のファストフード店の店長はそう言って接客を始めた。

またか…

雨の日だけど、しっかりと人は入っている。
要するに、私の頭の上のHPが少ないから、気を使ってくれたようだ。
そんなに疲れている気はしない。
でもきっと混雑していくであろう時間帯に、私のHPでは難しいと判断したんだろう。

「…ありがとうございます、お疲れ様でした。」

そう言って、私はアルバイト先を後にした。

高校2年生の私、長野 優(ながの ゆう)は至って普通の女子高生だ。
流行りのものには適度に興味はあるし、信頼できる友達もいる。
来年の受験に向けてそろそろ準備しないといけないし、アルバイトも減らさないといけないかなとも思っている。
そもそも私のHPでは難しい体力勝負のアルバイトだったかなぁなんて思うこともある。

ただ、一つ。人とは違うことがある。

(あ、一ノ瀬くんだ)
同じクラスの一ノ瀬くん。黒い髪にすらっとしたスタイル。勉強もできてクラスでも浮いていない。
でも、気になることがある。

私は人のHPが見えない。
正確にいうと、ぼやけてみえる。
裸眼の視力が0.04と悪いことも相まっているのか、メガネをかけてもコンタクトにしても、HPがぼやけている。
普通はメガネをかけたりコンタクトをすると見えるようだが、私は体質的にHPは裸眼の状態にしか見えない。乱視もあるのでほぼぐちゃっとした数字である。
目を細めてやっと10の位が見える程度である。
だけど、その分『色』が見える。

疲れているようなときは紫色。元気なときはオレンジ色と言ったように、HPが色彩として表れて見える。
子供の頃、眼科でその話をしたら
『それは妄想です。』
と医師にバッサリ言い切られた、と母から聞いたことある。
幸い、母はそんな私に対して『それは才能だ!』と色が見えることを否定しなかった。
そんな母と父に育ててもらった私は、大体のことはポジティブに捉えられる人間になった。

そして一ノ瀬くんがなぜ気になるのか、であるが、一ノ瀬くんの色はいつも薄い青色だった。
HPが低いときは紫になっていることが多いと言ったが、青はHPが高くても出てくる。そして一ノ瀬くんだけがこの青色だった。
見えない視力で最大限に一ノ瀬くんのHPを見ようとしても、10の位が80を下回ることはなかった。
HPの数値は元気であるのに、なんでいつも色は青いのだろう…。
それに気づいてから、私はことあるごとに一ノ瀬くんを目で追っていた。

つづく

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