不快というエンタメ『NEEDY GIRL OVERDOSE』


■なぜこの作品の感想を書いたか?

約一年前に発売されたゲームだけど、先日発売一周年記念で大幅値引きされていたので購入して実際プレイしたり、他の人が実況配信したりするのを色々見て、非常に心に残る作品で感想を書きたくなったので、よかったらお付き合いいただきたい。
ゲームをプレイした感想を書きたい、と言うとごく普通の動機だけど、それよりももう一段階進んで「なんで自分はこのゲームにこんなに心が乱されてしまったんだろう」が近い。
『面白かった』『つまらなかった』『普通』など、ゲームをプレイして抱く感想は様々だが、こんなに良くも悪くもプレイヤーの心を確実に抉ろうとしてくるゲームはなかなかないので、こうやって自分の受けたものを頭の中で整理しないと踏ん切りがつかない。そんなわけで気持ちの赴くままに書き連ねていったらこんなにダラダラ長くなってしまった。
後半はエンディングやゲーム内容そのものにかかわるネタバレが含まれているので、読みたくない人はそこで引き返してください。(もっとも、自分はこういう注意書きがある文書で引き返した覚えは無いんだけど…)


■ゲームの基本情報

あめちゃん」という、顔はとても可愛いけれど承認欲求と依存心の強い、俗にカテゴリ分けするとまさにヤンデレな女の子を人気のネット配信者にするのが目的、というゲーム。
具体的には、すぐにストレスを溜め込んだり心を病んでしまうあめちゃんをなだめすかしつつ昼間は配信ネタを集め夜は配信をこなし、30日間でフォロワー100万人を目指すのがとりあえず示される目指すべきゴールとなる。途中途中でフォロワー数が足りずに足切りされたり、過激な配信ばかりやりすぎてそっち方面の配信者になってしまったり、ストレスを溜めすぎてあめちゃんが爆発してしまったり、逆に心の闇が昇華されすぎてしまって配信のモチベを失ったりと、有名配信者になる前には様々な落とし穴が待ち構えていて、基本的にはこれらを避けつつフォロワー数を増やしていくゲームとなる。
このゲームはマルチエンディング形式なので、
上記のような途中リタイヤとも言えるエンディングも実績となり、最初から公開されているエンディングの数も21種類(現在はアップデートされて更に+3種類)と豊富で、一つエンディングを迎える度に作品のファンアートデータが閲覧出来るようになるというおまけ付き。(でもこれは欲を言えばもう少し拡大して眺めたかった)
そして全てのエンディングを開放した後でしか到達出来ない展開があるので、プレイヤーは全てのエンディングに辿り着いて、ようやくこの作品の真実を知る事が出来る仕掛けになっている。
大体ゲームのコンセプトとして予想はつくけれど、この豊富なエンディングの大半はバッドエンドで、いくつかあるそれらに比べてまだマシな結末も、世間一般的なグッドエンドとはほど遠く、「本人は幸せなんだろうからこれでいいのかも…いやいや駄目だろ!」といった終わり方が待っている。
そして、プレイヤーは物語が根本的に孕んでいるどこか不自然な部分を薄々感じつつ、それがゲームの終わりにはスッキリと解消されるのを信じて、あめちゃんを導いていくことになる。その過程で、どうしてもあめちゃんに無理をさせたりやっちゃいけないお薬の過剰摂取(「オーバードーズ」)をさせたりして、モニタの向こうにいる彼女を痛め付けていく構造になってしまう。
最初は「まぁ所詮ゲームだしね〜」と割り切って眺めていたが、ゲームプレイ中に理解してくるあめちゃんというキャラの、本当にネットのどこかにいそうなリアリティが、だんだんプレイヤーを実験動物を観察しているかのような嫌な気分にしていく。

このゲームは毎回スタート前に必ず『モラルが欠けてたり胸糞悪いシーンがあるよ!心が弱ってる人や現実と区別が付かない人はプレイしないように気をつけてね!(大意)』という警告が入る。よくエログロ表現のあるゲームやホラー系のゲームで似たような警告があるが、このゲームにはそういった直接的な部分でそこまで過激な表現は無い。むしろ表現的には思ってたよりずっと控えめで抽象的表現にとどめている。しかし、結果的にこの警告はこれまでプレイしてきた中でもかなり本気の警告だったことを思い知らされた。ナメてかかってました、すみません。

まとめると、ジャンル的には可愛い女の子育成ゲームなのだろうけど、その形式を通じて真に表現したい事は、多分もっと深い部分だというのは感じる。そしてそれが人に痛みを与えるのを意図した底意地が悪いものだということも。また、数々のゲーム中に仕込まれたネットネタが、特に青春時代をインターネットにどっぷりで過ごした世代特効で刺してくるので、いわゆる『インターネット老人会』ネタの大半がわかるような人は気をつけてプレイされたい。逆にネットなんてニンテンドーSwitchでyou tubeしか触れた事のないような子は絶対わからないネタ満載なので、完全に大人向けゲームだと思う。
いや、仮にこういう古のネットネタとかだけでなく、男女関係の性的なネタ、作中で扱われる薬物のあんまりよろしくない利用方法とかを除いたとしても、物語の根幹がやっぱり劇物過ぎると思うので、やっぱり子供にはあまり触れさせない方がいい…。

■あめちゃんという女の子

昼間は学校に行かず仕事もせず大半を引きこもって遊んで生活している、本人も駄目人間だとたまに自嘲するあめちゃんは、配信する際ウィッグを被りカラコンを入れて専用のコスチュームに着替えて「超絶最かわ天使ちゃん、略して『超てんちゃん』」という配信者としての華やかなキャラに変身する。実際配信開始前には魔法少女のような変身バンクが毎回流れ、素の姿はどちらかというとダウナー系で陰鬱な空気を纏っているあめちゃんは、ゲーム全体のイメージカラーとなるユメカワ系のポップな姿になり、話す内容も明るく楽しく視聴者達と丁々発止の軽快なやりとりを繰り広げているのを、プレイヤーは配信を管理するモデレーターの立場で観察する事になる。
「超てんちゃん」は生まれ持った可愛い顔と、オタク趣味や長年ネットで学んできた様々な話題などを生かして雑談したりゲーム実況をしたりして、彼女に群がるオタク達に可愛く媚びつつ転がして、実際にいる配信者達のように振る舞ってみせる。たまにプロレスのように罵倒し合ったりしつつ、毎日の配信で着実にファンを増やしていく様子は、現実にいるVtuberなどの配信者とそれほど変わらない。

しかし、そんな彼女は「超てんちゃん」名義の表垢でフォロワーに配信のお礼などを発信しながら、鍵垢にしているあめちゃん名義の垢でオタク共の反応がキモいなどと毒づいたりしている。
そして、超てんちゃんの呟く当たり障りのない綺麗事を、直後のあめちゃんの毒を含んだ呟きが否定するのを眺めて、プレイヤーの立場としては「まあその気持ちはわかるわ」と共感したりもする。

(例)
【表垢】みんな心が弱ってる時はすぐに周囲に助けを求めていいんだよ
【裏垢】でも面倒くさいから私にはDM送ってくんなよ

そんなこんなで、二面性があって面倒くさい性格のあめちゃんの裏垢での発言や自分を精神物理共に傷付けるのに躊躇しない態度にプレイヤーはハラハラしつつ、あめちゃんと共に30日走り続ける事になる。
その最中の台詞やTwitterやLINEなどの大量のテキストから、「あめちゃん」という女の子がやけにリアリティのあるキャラとして浮かび上がってきて、気がつけばプレイヤーも真面目に彼女を応援してしまうのだ。

■現代の病

ゲーム開始時にあめちゃんは

かわいいだけで何も出来ないし真面目に生きられないダメ人間だけどちやほやされて楽に生きたい!そのためには人気配信者になるのが手っ取り早いからそれを目指す

といった内容の宣言をするのだが、この宣言だけを見た一般的な感想は「何世の中甘く見てんだこの小娘が…」が大多数だと思う。
しかし、実際配信をしたり日常生活であめちゃんと大量のLINEをやりとりしてみると、彼女は知識の偏りこそあるものの、予想していたよりも頭が良くレスバなども上手い。そして本人も自覚しているように、以前自撮りだけの垢でもかなりフォロワーを持っていたり、口汚いアンチからも顔だけは褒められるという事で、顔立ちはこの世界では飛び抜けて可愛いレベルらしいとだんだん理解出来てくる。要は口だけではなく実際凄いポテンシャルを秘めた娘なのだ。
だから折に触れてあめちゃんが言う「世界中のオタクからフォローされるのも夢じゃない」「私達ならもっとビッグになれる」といった内容の台詞も、あながちただの身の程知らずの戯言という訳では無いのを、プレイヤーも実感させられていく。
しかし、そんな彼女は同じぐらい自分を卑下する台詞もよく吐く。
「私みたいな顔がいいだけの女」「あめちゃんはゴミ虫」など、半分は自虐で笑いを取るノリだが、残り半分は真実そう思ってるんだろうなと感じてしまう。しかし、そう相手が察して優しくしてくれるのを理解し利用ているしたたかな部分もあるんだろうな…というのもまた感じる。その辺がまた現実にいるメンヘラ女子の面倒臭さの解像度が高いなと思う。

あめちゃんと接して感じたのは、自分の美貌とネット社会に適応したトーク力などの魅力と、それ以外は全く不得意で、現実世界に取り残されてしまっているという強い不安で、それを押し殺すためのプレイヤーを盲信したり、辛さを一時的に忘れさせてくれる精神に効く薬へ傾倒しているのをとても感じる。それらがあめちゃんという一人の女の子の中に共存しているというアンバランスさと、「私は凄い」「私は駄目だ」で振り子のように揺れ動いているアンビバレンツな状態である。あめちゃん本人も、ゲーム内で彼女が変身する配信者としての「超てんちゃん」が、彼女の中の綺麗なものだけをを集めたものだからキラキラしてて当たり前なんだと自嘲げに裏垢で呟いている。

これははっきりとゲーム中で言葉として示されてはいないが、身バレ防止なんかの意味だけではなく、あめちゃんがコスプレして大きく見た目もキャラも違うネットアイドルになっているのは、彼女の人格そのものが、解離性同一性障害(いわゆる多重人格)に近いのではないかとプレイしていて感じた。
メンヘラキャラとして紹介されているあめちゃんだが、それが単なる一時的な性格の問題だけでなく、ゲーム中選べるお出かけ先として「びょういん」があり、向精神薬のデパスを処方されていて、「心の病院に行くの忘れてた」という日常会話があるので、何らかの診断がおりているのを察せられる。
要は軽重の程度はわからないが、ファッション感覚ではなくガチでこの娘は心を病んでいるのだ。そして、プレイヤーはそんな病んでいる娘を時にエロ配信させたり、時に出会系に行かせたりしながら人気配信者を目指すのだ。なんて不道徳なゲームだ。
実際、このゲームをプレイした自身も心を病んだ経験のあるライターの方が、ゲームとしての出来の良さや尖り具合は褒めつつも、このゲームにおける精神の病に対するファッショナブルな扱い方に苦言を呈する記事を出していた。(これに関しては頷ける部分も大きい)
しかし、それでもこんな色々各所から怒られそうなテーマを取り扱いつつも、そこは承知の上で制作陣が伝えたかったものはあったのではないかと、一応全エンディングクリアした立場から思わずにはいられなかった。

これは、やろうと思えばYou Tubeなどで簡単にプレイ動画やエンディング、はたまた隠しイベントまで視聴出来てしまう現代であっても、実際プレイしてみないと本当にこのゲームの真骨頂は味わう事が出来ないという、ネタバレ上等な時代における制作陣のアンチテーゼではないかと思う。多分、自分も他人のやっている動画視聴だけで終わっていたら、ここまで心には残らなかったかもしれない。

■配信者界隈の反応

発売された一年前の頃、私は全く知らなかったのだが、このゲームは配信者育成というテーマの話題性もあって、発売直後は色々な配信者の人達が実況していたようで、それらのアーカイブも全部ではないけれど色々見てみた。反応は人によって様々だったけれど、あめちゃんの配信者としての才能に感心したり、プロ配信者としてやっていくには問題ある態度に怒ったり、リアルさのあるメンヘラなあめちゃんに、実生活の経験から理解があり過ぎる態度を見せたり、逆にメンヘラが理解出来なさ過ぎて困惑したりと、いつもとは少し違う生々しい配信者の声が聞けたような気がする。やはり自分自身も配信をしているという人達からしてみれば、あまりにもテーマが身近過ぎて、普段の配信では見せないように配慮しているであろう配信者の本音が垣間見えてその辺が面白かった。
中でも印象的だったのが、普段とにかく陽気な実況されている印象の人が、ゲーム内での配信に来る荒らしのコメントを拾って「こういうコメントに反応してプロレスすると盛り上がるんだよ」と配信戦略を解説していたり、普段明るく愉快で大雑把キャラな配信をしている女性配信者の人が、あめちゃんに過去の記憶を呼び起こされたのか、配信後の雑談タイムに過去メンヘラに依存された実体験をマジトーンで語りつつ、相手をするのが辛くなって距離を取る時の注意事項をリスナーに解説していた事だった。どちらも普段被っている配信者としての仮面が少し外れていたなと思う。
こんな風に、配信者の一歩踏み込んだ素顔をつい披露してしまう他にも、リアルな配信者として多分一番嫌であろう『身バレからのネットのおもちゃルート』エンディングがあるので、それに辿り着いてしまった人が、その恐怖をこれでもかと演出する内容に心底凹んでいたのが印象的だった。良きにせよ悪きにせよ、普段の実況とは違う物が見れたと思う。
なお、このゲームは全エンディングに辿り着こうとするとそれなりに時間がかかるので、配信者としてプレイしていた大半の人は、いくつかのエンディングを見ただけで更新が終わってしまっていたが、全部を見ないと真エンドには辿り着けないゲームの仕様なので、色々な配信をする必要性がある以上仕方無いけれど、中断で終わるのは大変勿体ないな〜と思う。配信者だからこそ、やり終えた時は我々一般人とはまた違う境地を味わいそうだと思うので、全エンディングと物語の真実に到達するまでやって欲しいと勝手ながら思ってしまう。しかし配信者をテーマにしながら意地悪な事に、『配信でプレイしていると絶対隠しエンドには辿り着けない』というゲームの仕掛けがあるので、どちらにせよ配信しながらこのゲームの真価を感じるのは最初から無理な話ではあるのだけど。このゲームはそういう仕掛けも相まって、一人で黙々とモニターに向かいながらやり込むゲームで、大勢の人とワイワイ楽しむような仕様にそもそもなってないのだ。それが制作陣の考える正しいこのゲームのプレイスタイルなのだろう。
しかし、配信者の中でも特にこのゲームが刺さった一部の人は、配信で披露はしていないものの個人的に裏で全コンプしたと語っていたので、毎日次々違うゲームをやって忙しい配信者に、仕事抜きでもこんな面倒なゲームをやり込むだけのモチベーションを与えたのは凄いなぁと素直に思う。

■なおゲームとしては…

純粋にゲームとしての楽しさは、育成ゲームにしてはパラメータが「フォロワー数」「ストレス」「愛情」「やみ」の4つしか無いので、各上下のコツを掴めばゲームの進行そのものは簡単ではある。そして各コマンドによって上がり下がりする数値が結構変わるので、その辺を探りつつ豊富なエンディングコンプをめざして色々試すのは最初の頃楽しい。ゲームのメインイベントとも言えるバラエティに富んだ各配信シーンも、現実に投げられてそうなリスナーのコメントを眺めたり、コメ読みとそれに対する超てんちゃんの反応も細かく作り込まれていてしばらく楽しめる。古のパソコン画面を模したUIもセンスあるし、それを使ったギミックが最後まで活用されているのも凄い。ドット絵なあめちゃんや超てんちゃんのアニメーションも作り込まれてて可愛いし、チャカポコしたBGMもいい。テーマソングと共に流れるニコ動最盛期を思わせるPVもとても良い。全体的に細部までこだわって作り込んでるゲームなのをひしひしと感じる。
しかし、最終的には全てのエンディング達成のために、作り込まれてはいるけれど基本内容は変わらない配信は全スキップしつつ、あめちゃんからのLINEも無視してゲームオーバーにならないよう既読だけして返信もせず、ひたすらパラメータと日数とのにらめっこを繰り返す事になるので、完全に作業ゲー状態になる。そして各エンディング条件も結構細かいので、ようやく全てのエンディングを達成した時には「ようやく終わった…」というのが正直な感想だった。
そしてその上で待っている完全エンディングがアレというのが、ここに至るまでの苦労も相まって何とも言えない気分になった。

■作り込まれたいいゲームだと思う、が

そんな訳で、本気でこのゲームを味わいたい人は、必ず全エンディング回収までプレイしてもらいたいのだが、それは同時にかなりどんよりする思いもさせるであろうという予想がつくので、オススメしたいが気軽にオススメするのが躊躇われる…という困ったゲームだ。
最終的に全ての謎が明らかにはなるけれど、それがさらになんとも言えない脱力感を生み出すという、どう考えても愉快な気分にはならないから人にプレイさせるのは躊躇うのに、それでも自分はプレイして良かったと思ってるという不思議な状態になっている。強いて言えば「お前もこっちに来い」と泥沼から手を掴む気分でこの文章を書いている。よくオタクが自分の好きな作品に人を勧誘するのを沼に引きずり込むと言うが、この沼はプレイヤー自身のトラウマなんかも呼び起こすガチの沼なので、キラキラした楽しい世界とは全く違う。アオミドロとかよくわからん水草で濁った本気のどんよりした沼だ。
たが、爽快感とは無縁ながら、一緒にこの泥沼の中に沈みこんで、あめちゃんという架空の女の子に傷付きつつ愛着を持つという、複雑な感情を抱く人が増えればいいなと思う。
そして一緒に制作陣に敬意を示しつつ愚痴ろう。それが多分正しいこのゲームの味わい方だ。

Switch版は少しだけ薬物関係の表現が抑えられてはいるものの、性的表現、問題ありまくりの各エンディングは変更していないという任天堂ギリギリ仕様、Steam版は原液そのまんまでお出しされるので、個人的にはSteam版をオススメしたいがそもそもこんなのオススメしていいのかという葛藤はある。でもやる人は自分なんかが何も言わなくてもやるだろうし、どちらもフルプライスのゲームよりかなりお安く味わえる地獄なのは間違いない。
あめちゃんの被害者増えろ(本音)。

※※ここからはエンディングのネタバレ含む感想なので注意※※

■ここからネタバレ

ゲーム開始からあめちゃんの一番大切な好きピな恋人として存在しているプレイヤーだが、エンディングの大半はあめちゃんとの別れで終わる。
あめちゃんが姿を消してしまったり、心を本格的に病んでしまったり、あまりにもゲームのパラメータが悪い時にはあめちゃんから(多分)殺されてしまって終わりという風に、基本は「あめちゃんから拒絶される」という終焉を迎える。愛情のパラメータが高過ぎたり、えっちなことを規定回数以上実行してしまうと愛情過多で何も出来なくなったりセックス中毒になってしまってゲームオーバーになるけれど、それもある意味あめちゃんの真っ当な人格が壊れてしまったという意味で拒絶とも言えると思う。おくすりをキメるコマンドを何度も実行することで達する悟りと瞳孔を開いてしまうエンディングも同様だ。
「では愛情を適度に保ちつつあめちゃんの希望を満たせばいいのでは?」
と、あめちゃんとの愛情はあるけれど限界突破まで行き過ぎない関係を保ちつつ、望みである100万フォロワーを達成すると、やみ度が低ければ理想の人気配信者になったというのに「この生活に飽きた」と闇垢で呟いた後プレイヤーをブロックして去り、愛情とやみ度が高いと幸せに病んで身バレ公開大麻吸引配信をして全てを崩壊させるし、ストレスが高過ぎると自分をここまで追い込んだアンチ達を呪いながら公開自○配信をするという、どうあがいてもプレイヤーとあめちゃんが真っ当に幸福になるエンドを迎えられない事態しか待っていない。

そして、そんな数々のあめちゃんとの終焉を全て見届けた後、突然ロード画面に現れるゲーム開始以前の日付である「DAY0」データにて、あめちゃんは「今回は一人でやってみるから見てて」とプレイヤーの介入を一切させずにゲームを進行させる。
途中途中でストレスを溜めたり伸び悩んだりしつつも、あめちゃんは自力で30日間走りきり、見事に100万フォロワーを達成して、自分一人で何とか出来るのを確認した後、「もう一人でも大丈夫。今までありがとう、さよなら」と完全にゲーム画面から去ってしまう。
これまでエンディングを迎えてあめちゃんと何らかの別れになった時は、パソコンのエラー画面であるブルーバックを模したゲームオーバー画面になって、そこでブツリとゲームは終わってしまっていた。古いゲームの例えだと『ざんねん!わたしのぼうけんはここでおわってしまった!』という雰囲気に近い。しかし、この状態になると、ゲーム中にあめちゃんが居なくなってしまった画面のままなので、ゲームの進行は完全にストップするのだが、この状態になって、初めてあめちゃんが画面に居る時は隠されていて絶対に読めなかった秘密のテキストデータを開く事が出来るようになる。

そこに書かれている「今回のピ」設定メモによって、プレイヤーの存在はあめちゃんが作り出した空想上のもので、結局あめちゃんは最初から最後まで一人だった事を明かされる。
プレイヤーは彼氏でもなんでもなく、おままごとの人形と同じくあめちゃんの一人遊びの相手だった、というオチだ。

それを前提で考えると、いくら大好きな彼氏の指示とはいえ、薬の過剰摂取や出会い系での男漁りなど、普通彼氏ならやらせない事を唯々諾々と実行するあめちゃんへの疑問は消える。だって自分で決めてやってるんだからそりゃそうだ。他にも、一度もプレイヤー自身の姿が画面に映らなかったり、期日までにフォロワーを一定数集めないと家賃を払えず追い出される事態になっていても、プレイヤーがバイトをしてその場を凌ぐ選択肢など一切無い理由がわかる。だって現実には存在しないから。

…実はこの作品最大の秘密については、先にネタバレプレイ感想などを見て事前に知ってしまっていた。
作品の性質的に、知らずにプレイした方が新鮮な驚きがあったのだろうけど、そもそも当初はプレイするつもりは無く、たまたまよく見ている実況者のプレイ動画を見かけて興味を持った程度だったので、手っ取り早く真のエンドを知りたかったのだ。そして、エンディングなども一通り知った後で感想を漁っていて、公式で超てんちゃんが『プレイせずエンディング動画を見ただけで満足すんなよ』とか言っているのを見てアッハイ…となったタイミングで、ちょうど発売一周年大幅割引をやっているのを知ったのでその勢いで購入して今に至っている。

結論として、やっぱり超てんちゃんの言う通り、ただ他人の配信やエンディング動画を眺めただけと、実際プレイしてあめちゃんと付き合ってみたのとでは、ゲームから受ける印象は大いに違うと思う。
実際あめちゃんのピになってみると、矢継ぎ早に送られてくる大半がどうでもいい会話のゲーム内LINE、Twitterで呟かれる表垢と裏垢の二面性、毒を吐きつつすぐにストレスを溜めていく性格と、プレイしてかなりプレイヤーもストレスを溜めさせられる設計になっている。良い曲だけどピコピコしているBGMがあめちゃんのストレス値に合わせてだんだんスピードアップしていく様など、敢えてプレイヤーの不安や焦燥感を煽るようになっていて、それらの要素と思い通りにならないあめちゃんの存在が嫌な意味で調和する事で、現実にいる大なり小なり面倒な人達の事を思い出したりもする。
前述した露悪的なゲーム内の行動なども相まって、これは「不快」をエンタメにした作品だと悟ってくる。
かと言って、あめちゃんが完全に不快極まりない女の子か?というとそうではなく、普段の不遜で怠惰な言動の合間にポツリと本音らしき弱い言葉を漏らしてくる。それから汲み取れる彼女のバックグラウンドは、あまり幸福ではない家庭に育ち、顔がいいから女子にいじめられ、学校に行けなくなって中卒で引きこもってからはネット漬けになって精神安定のために薬を飲みまくって誤魔化しているという身の上だ。これが全て真実とは限らないけれど、「学校なんて行かんでええ!」と表垢で威勢よく言った直後に裏垢で「行かんでもええけど、行った方がええ…」と呟いている所に、彼女の世間に対する虚勢と、本当はこんな自分をどうにかしなければと思っている弱さが見て取れる。この辺のネット弁慶ぶりがなんか本当にリアルなのだ。

ここまで読んで貰えたならなんとなく察していただけると思うが、自分はあめちゃんという女の子が、本当にどこかに居るかのような気持ちになってしまっている。勿論、実際には居ないのは理解しているのだけど、あめちゃんそのものではなくとも、彼女のようにインターネットに居場所を求めて彷徨っていたり、人気配信者になろうとして足掻いたり、相反する心や精神の病に苦しんで、薬や行きずりの関係に安定を見出しているような、あめちゃんの要素を持っている人達は世の中に沢山いるのだろうと思わされる。直接の知り合いでなくとも、たまに引きこもり問題のニュースや、動画サイトで目にするほとんど再生数の無い実況動画、出会系アプリの人気など、そんな現実に居る彼ら彼女らの存在感と、それが孕んでいる苦しみの一端に、ゲームという形ではあるけれどある程度のリアルさを持って触れてしまったのが、このゲームの持つ恐ろしさだと思う。
目にしても耳にしても、流し見して聞き流してしまっていれば、ほとんど自分とは何も関係無い世間の出来事として通り過ぎてしまうけれど、このゲームはそんな自分達に、ぼやけた視界の解像度を上げ、生々しいネットに蔓延る負の感情をあめちゃんの姿を通じて出来の良いゲームという形で披露してみせた。何という悪意だろうと思う
ゲームの中のあめちゃんは、最終的に自分自身のイマジナリーフレンドから離れる事で、少しだけ別の人生に向かえたかもしれない。けれど、現実にいる大半の人は、この世のどこかでままならない物を抱えて苦しんでいるという事実は、そうだろうと察してはいても触れなければ対岸の火事である。しかし、ゲームを通じてあめちゃんの不安定で満たされる事の無い承認欲求を疑似体験してしまってからは、いつもそういったものにネットに触れる度に、見えない小さなすい針が刺さってチクチクするような感覚がどこか意識の中にある。いつかはそれも忘れてしまうのだろうけれど、今後も何かのきっかけがあればふと思い出して少し痛むと思う。それがあめちゃんの残した傷跡で、それを狙って作られているつくづく罪なゲームだ。本当に。

■「おやすみなさい」

このゲームで一番見るのが難しく、内容的にも最良と言える隠しエンドは、『あめちゃんが100万フォロワーを達成した後に、プレイヤーがインターネットを(リアルで)切断して期日を迎える』という「そんなのわかるか!!」という条件なのだが、その中であめちゃんは大人気配信者を引退し、それに影響されてインターネットを介したコミュニケーション自体が廃れていくという、現実には有り得ないだろう現象を起こしてしまう。どんどん人が減り、ネット回線自体も不安定になった中で残った最後の一人が「誰が居ないのか?」と孤独に耐えかねて呼びかけると、電子世界の天使となった超てんちゃんが華麗に参上する、という終わり方を迎える。妄想とリアル、幸福と不幸がいい塩梅に混じったエモい真のエンディングだ。ゲームのテーマ曲のサビ『天使のように微笑む強めの幻覚』とシンクロする演出で締められたこのエンディングは確かに印象的だったが、それよりも一番自分の心に残ったのは、前述した物語の真実が判明する場面で、あめちゃんが画面から去ってしまった後のゲームの終わり方だった。

これまで、このゲームはどこかのエンディングに到達すると、突然ブツ切りのようにゲームオーバー&これまでのエンディング達成リストに切り替わるのだが、このあめちゃんが居なくなった結末を迎えると、本当にゲームとしては全く進行不能になるので、自らの手でゲームを終了させるしかない。ゲーム画面には昔のWindows98を模したようなUIがあり、そこにあるWindowsキーからパソコンを終了するのと同じように「シャットダウン」を選び、ウィンドウに「おやすみなさい」と表示され、ゲーム画面が本当に消えるまでが、このゲームが真に終わりを迎えた瞬間と言えるだろう。
少しだけ一人で生きる自信を付けたらしいあめちゃんは去ってしまい、プレイヤーだけが誰も居ないゲーム内に取り残される。
これまで自己矛盾で苦しみつつ躁鬱のように揺れ動いていた彼女を知っている身からすれば、今後あめちゃんが即別人のようになるはずもなく、きっとまた調子を崩したらすぐ躓いてボロボロに傷付く事だろうと予想出来る。それがわかっていても、プレイヤーはこれ以上あめちゃんを追いかける事は出来ないし、その後を知る事は永遠に叶わない。なぜならプレイヤーは「もうあなたはいらないから」とあめちゃんに投げ捨てられたおままごとの人形なのだ。
少なからずクリアまでの時間と手間を共にし、愛着の湧いているあめちゃんに、これまで何度もエンディングで捨てられながらも、ようやく本当の意味で捨てられ、色々試した後『これ以上このゲームで自分には何も出来る事はない』と、諦め、無力さを噛み締めつつ自らゲームを終わらせなければならない。こんなメタな意味で残酷な仕打ちをしてくるゲームを作るとは、制作陣は酷い(凄い)連中である。マジ酷い。
そして、この何とも言えない後味の悪さは、超てんちゃんが言っていたように、実際ある程度の時間を費やしてプレイして、その上で捨てられるという一手間をかけてこその苦さだと思う。お手軽にyou tubeとかで見ただけとは全く別物の感想になる。だから、興味を持った人は実際プレイして全てクリアすべきだ。いやしろ。知って共に被害者になろう。(勧誘)

■それでも…

そうやって、あめちゃんはプレイヤーの前から真の意味で去ってしまうけれど、それでもどこかプレイヤーが救われるのは、現実のTwitter上で超てんちゃんの垢がちゃんと存在して、今でも結構活発に呟いているからだ。(同時に鍵の裏垢も本当に存在しているのはご愛嬌)
自分の前からは居なくなってしまったけれど、どこかの新しいピの所にでも転がり込んで、またメンヘラ仕草で振り回して今の所元気にやってるんだろうな…と、まるで学生時代のちょっと面倒くさい性格をしていた疎遠の学友を思うような気持ちでいる。
自分はいい歳した大人、かつ同性の女という立場なので、あめちゃんに大してはそんな距離感の気持ちでいるのだが、下手に思春期の少年少女とかが入れ込んだ挙げ句、このやるせなさと制作陣の用意した意地悪な展開に触れても大丈夫か心配ではある。一応、SwitchではCERO【D】ということで17才以上推奨にはなっているものの、一見ユメカワで可愛らしい女の子を全面に押し出しているゲームなので、こんな劇薬にうっかり多感な子供や繊細な人が触れない事を祈るしかない。
レーティングというのは単なる見てくれのエロとかグロとかだけではなく、こういう精神的危険物も大いに含んでの設定なので、やはりある程度は遵守すべきだなと思った。

■結論

色々書き散らかしてしまったけれど、ここまで長文書きたくなる作り込まれたいいゲームなのは間違いないですよ?本当に。
ただ、その作り込みが悪意方面に盛り込まれていて、人によっては本気で凹むタイプのゲームなので、接するときは注意していただきたい。
しかし、ゲーム開始時の警告にあるように、これは『嘘を嘘と見抜けない人はプレイしてはいけない』性質のものなので、プレイする人は所詮はフィクションなのを理解しているはずなので、何も問題は無い。うん。

でも被害者は増えろ(本音)


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