クールでドライで、笑わなそうなそのひとは 第2章



それにしてもキムは同室の私に気を遣ってくれてるのかなんなのか、部屋の中に入ってくる時も出る時も部屋の中での行動もとにかく静かだった。

部屋を出入りする時、キムはめちゃくちゃ静かにドアを開け閉めする。

部屋のドアはドアノブ式で、そのドアノブを回して扉を開け、その状態のドアノブのままドアを元の位置まで戻し、今度はドアノブを逆方向に戻す。

つまり、ドアを1番静かに開け閉めできる方法というわけである。

いや、そこまで静かにドアを閉めなくても大丈夫よ!?

もしかしてキム、めちゃくちゃ神経質だったりする⁇

キムのパーソナルスペースの棚にはきちんと畳まれたタオルが積まれていて、そのどれも真っ白であった。

ハンガーに掛かっている服は黒か白で色が揃っているし、机の上には余計なものが置かれていない。

大抵はiPadかラップトップか分からないけどPCみたいなものが置かれているか、何もない状態か。

綺麗好きなのかも。

キムがこのカレッジに来たのは日曜日で、その次の日は月曜日だったので私は授業、キムは初日に受けることになっているクラス分けテストを受けた。

その夜、私は夜ごはんに一緒に行こうとキムを誘った。

Ah, OK.

と、至極冷静な声で返事をするキム。

いやいや、だからなんでそんなに冷静なんだよこの方⁉︎

私だったらこのドミトリーに来て2日目にルームメイトに一緒に食事しようとか誘われたら嬉しくてしょうがないし満面の笑みで

Sure!

とか答えちゃうよ!?

というかこの方、今まで笑ったことあるんか!?

とかなんとか思いつつカフェテリアに向かい、その道中でまた話しかけてみることにした。

Today, what were you doing?

Ah, I went to the city.

Oh!
I went to the city yesterday!
I went to aquarium!.

Ah, aquarium.

We can see many tropical fish there.

I went there.

その後ディナーを食べたが、やっぱりその時も私たちは何も言葉を交わさなかった。

というか私は人と食事をする時に会話をするのがとにかく苦手なので、食事中に会話はしたくない派なのだが。

その時もキムは先に部屋に戻り、私が食事を終えて部屋に戻るとキムは机のところにはおらず、ベッドの方に上がっていた。

私は不安でたまらなかった。

私、キムに嫌われてるんかな?

食事の時キムが先に部屋に戻る時も、私の友達だったらシャワー浴びたいから先行くねとか一言言って去っていくのにキムは何も話さないというのも気になっていた。

先にベッドに上がっちゃうってことは私と話したくないってことなのかも。

私は少し落ち込んだ。

でも、私はこの人をどこかで見たことがある気がするんだよな。

誰だっけな。

あ、1年前の自分じゃん。

大学1年生の時の私はいつも1人でいて、人と話すのが好きではなかった。

できるんだったら人とあまり関わりたくない。

今までのキムを見ていると、あまり人と関わりにいかないタイプなのかな、と思い始めてきた。

なるほど。

とりあえずそれで様子を見てみるか。

こうして私の中で、クールでドライで笑わなそうだというキムのイメージができあがった。

その次の日、ランチを済ませたあと部屋に戻ってくるとキムがカレッジの地図を見せながら私に尋ねた。

A, Aoi.
Where is the library?

Library…?

book…

Ah, we have to a book per week!
In front of the teacher room, you can find bookshelf.
In some classroom, maybe there is some books.

Ah, OK.

いや会話の内容とかじゃなくて、このAoiの発音がこの時期めちゃくちゃかわいかったというのを強調したい。

AoiというよりはA o iって感じで音を探ってる感じが。

キムがカレッジに来たての頃、クールなイメージを勝手に持ってはいたけれどこの私の名前を呼ぶ時の発音の仕方は可愛くて、思わず笑顔になってたんだよな。

全部母音で発音しにくいのかもしれないけど頑張って発音してくれてる感じが。

そんな感じで私かキムかどちらかがもう一方に話しかける日もあったし、特に喋らないという日もあった。

ちなみにその次の日はバスルームの洗面所のところでGood morning以外何も言葉を交わさなかった気がする。

人と関わるのがそんなに好きじゃなさそうでも、朝の挨拶かHi、かどちらかはなんやかんや私の方から必ず言ってた。

初めの頃キムからそういった挨拶は確か、なかった。

火曜日、キムは初めての授業だった。

クラスはpre-intermediate.

私のクラスはintermediateなので別のクラスルームだ。

なのでクラスルームで顔を合わせることはなかったけれど、その日のブレークタイムに私がトイレに向かおうと通路を歩いていると、クラスルームとトイレの間にあるウッドテーブルとベンチのエリアから出てきたキムと目が合った。

私はそこではち会うと思っていなかったので咄嗟に挨拶はできず、キムの方は視線をしっかり私の方に向けていた。

なんかその時、純粋に少し驚いた。

キムは私に興味ないと思ってたから。

てっきり道ですれ違ってもちらとこちらを見るだけでスルーするタイプの人だと思っていた。

心の中でAoi…?とか思ってそうなその表情がやけに頭に残っている。

キムもそんな顔するんだな〜とか思ってたら、その次の日の朝だったか、新たな衝撃が私を襲った。

キムが部屋着を着ていた。

自分ツッコミくまのTシャツ。

もともとそういうデザインなのか、自分ツッコミくまの目が3の字になっている眠たそうなくまがプリントされた面が「背中に」きていた。

え、キムってこういうキャラ好きなの!?!?

寡黙そうでクールそうでドライそうで笑わなそうなキムさんがこのゆるっとしたキャラのTシャツを着ている、だと!?

私はその時キムに初めてギャップ萌えを感じた。

これがキムへの初めてのギャップ萌えだった。

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