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インド徒然日記 01/人間の森

昨今はスマホ一つで海外渡航への航空券手配や旅先の情報を誰でも簡単に得ることができるが、自分が海外旅行に目覚めた30年前はツアー客を除いてそのほとんどが黄色く分厚いガイドブックを頼りにまさに地球を歩いていたと思う。そして自分も自然とインドという国に惹かれその本を片手に訪れた。

当時見聞した先人の著書などで数少ない情報を探り、インドの凄まじさや常識や文化の違いに注意するようにと自分に言い聞かせ予備知識として頭に入れておいたにもかかわらず、平和ボケ世代の二十歳そこそこの自分は教科書通りにインドのカモとなりカモ鍋にされインド人に食された。空港の客引きに目的地とは全く違う場所に連れて行かれ、止む無く泊まったホテルでは一時間おきに違うインド人が食べ物や土産物やツアーの斡旋に部屋のドアをノックしてきた。なんとかそこから脱出しやっと自分のペースで旅を始められたかと思いきや激しい腹痛に襲われその後二週間の旅行中腹の調子は戻らずだった。そして全てが思い通りに進まず悶々としたまま帰国した。でもすぐにインドが恋しくなった。体験した全てが日本の生活とは違う事に驚愕したと同時にそこには自分が幼少期を過ごした下町に似たような懐かしさがあった。

まさかその後自分が毎年インドを訪れ、ましてやインド人と仕事をするようになるとは当時は思いもしなかった。本当に人生は分からないから面白い。インドでハンモックと出会い、現在は毎年現地を訪れ試行錯誤を繰り返しながらオリジナルハンモックを製作している。現地のホストやワーカー達そして友人達と毎日食事を共にし、酒を酌み交わし、数えきれないほどの家に招待されておいしい食事でもてなしてもらい、結婚式に何度も出席した。そして現地の異文化に触れ興味が湧けば湧くほどに自然とインドが好きになっていった。だがコロナがその毎年の渡航をストップさせた。

早くまた人と牛とバイクと車が行き交うあの雑踏に身を置き、スパイスやフルーツの匂いを嗅ぎたい衝動に駆られて久々に黄色いガイドブックを本棚から取り出してみた。そこにはこう綴られていた。

『インド。それは人間の森。木に触れないで森を抜けることができないように、人に出会わずにインドを旅することはできない。』

確かに初めてその地を訪れた時はカモにされた事が引き金となり自分に寄ってくる人間を避けていた。その後の再訪では見るもの聞くもの食べるもの全てに興味が湧いて積極的に人間と触れ合っていた。そして様々な発見やひらめきを得る事ができた。

早くコロナが終息し、自由に人間の森を散策できる事を切に願う。



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