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長く飲食業を続けていくために。〜飲食業の商売寿命と自身の寿命を考える。腕があっても潰れる店、腕がなくても残る店。

自分がやってきた21年の中で、多くの人が飲食業という世界から消えていった。

腕がある人、人気店、それでもだ。

バーテンダーの仕事をして21年になる。この21年の間にバーテンダーの知り合いや飲食業を辞めた同業者がたくさんいた。

今日は、長くバーテンダーや飲食業を続けるためには、どうすればいいのか考えていこう。


私が飲食業をしていていつも思うことは

「飲食バカ」

にならないようにということ。

飲食店の人間というのは1日の大半をお店で過ごし、働いて「飲食のことばかり」考えて過ごしている方が多い。

バーテンダーはまだマシな方なのかもしれないが、営業時間以外にも、仕込みや掃除、片付けなど、目には見えないところでも働き続けている。

ランチをやっている飲食店などは、朝は市場に行き、買い出しをして、午前中にはお店に着いてオープンの準備をし、ランチ営業をしながらディナーの仕込みをして、少しの休憩をとってディナー営業、営業が終わったらスタッフを集めて接客やメニューについて話し合い、家に帰って、明日のためにすぐに寝てしまう。 家族との時間もない、飲食業の人が家庭不和を起こしやすい理由はこの辺に最もありそうだ。ましてや家族と不仲になってくると、家に帰るのが憂鬱になったり、それによりイライラを招き、それが仕事に出てしまう。ときにお客様に当たってしまうこともあると思う。まさに負のスパイラルにはまっていく。

もとより、家族を大切にできないようでは、目の前のお客様を大切にすることなどできないであろう。一見格好つけていても、それはハリボテでしかない。

また、休みの日も少ないのに、たまの休みでも同業他店に行って、交流を深めたり、研究をして、新メニューについて考えたり、サービスの勉強をする。

飲食業界では、令和のこの時代になっても、いまだに愚直に仕事に取り組むことが美徳とされている感が否めない。いくら働き方改革と言っても飲食業にはほとんど関係がないし、お客様が求める像も、飲食一筋で一生懸命生きています、みたいな人だと思いこんでいるようだ。

時に私は、その美徳を引きずっている諸先輩方に説教を受けたこともある。

『もっと飲食に向き合って真面目になれ』と。

しかしながら、私にとっては逆に問いたいところだ、同業の飲食ばかり追いかけていては、想像を超えるようなクリエイティブな仕事はできない。同じような事ばかりして、同じようなものばかり見ているから、他店の真似事をしたようなありきたりな仕事しかできないのだ。

かくいう私も昔はそういうタイプだったので、少し痛いところはあるが、それがたたって体を壊して、大切な人も離れていき、メンタルまで病んでしまった。そうして悩み抜いて考え、働き方や価値観を大きく変えたのが29歳の時だった。

その結果、飲食業界の人間にしては、無理もしないし、しっかりと休みを取るタイプになり、同業者からは若干浮いているため、説教を受けることもある。

以前、他店で飲んでいた時、偶然にもいろんな店のマスターやオーナーが同席した瞬間があった。その中の1人が、

『今度日本酒のセミナーがあるからみんなで行こうぜ』と言った。

皆、賛成して盛り上がっていたが、

私だけ『いえ、私は結構です。』と断ったら、

『なんでだよ💢』と言われた。

理由なんてない。あえて言うとしたら、興味がなく、その連中と付き合うつもりもなかったからだ。一緒にいたくない連中といたところで、時間の無駄だ。

そんな仲良しごっこをするより、もしそれが知りたいなら私は一人で勉強したい。

その場ではみんな自分より先輩だったので、いちいち言い返したりはしないが、無粋だなぁと思った。

ちなみに、この話にはちょっとしたオチがある。

その先輩の店はやはり人気が出ず、なくなってしまった。何やら有名な料理の賞なども取っていた割にあっけなかった。聞けば、酒や料理の事などでお客様と言い争いになったりして、誰も来なくなったようだ。料理の腕だけに頼って過信して自分の価値観を押し付け、ユーザーのニーズ等のマーケティングを怠ってしまうと、こういうことが起きるという定番的なオチである。

このついでに言うが、こういった仲良しごっこのようなつまらない人間関係も、仕事のストレスとして引きずってしまうケースは多い。気をつけて欲しい。


私は、長く仕事を続けるためにも「休む」ということをとても大切にしている。

定休日はしっかり休んで、その時々好きなことをしてのんびりと身体を休める。仕事のことを思わないわけでもないが、休みの日だけは仕事はせず、とことん好きに生きる。

余談だが、大体のパターンは、バスケをすること、夕飯を家族とともに食べること、子供が寝るまで共に遊ぶこと。

また、不定期ではあるが年に4、5回は旅行に行くので、家族との時間を過ごしたり、ライブを観に行ったり、その街を観光したり、ドライブしたりして、リフレッシュをしている。そういったときの臨時休業は、なるべく人が来なそうな時期を選びつつも、遠慮なく取るようにはしている。

仕事を忘れて楽しむことで、いろんなことを旅先でインプットできる。仕事のために役立つことがないか考えるのではなく、とことん楽しむというのが一番得るものが多い気がする。

また、そういった楽しかった体験記と言うものは、帰ってきたときお客様に話すと喜んでもらえるものだ。いろんな情報を伝えることも、バーテンダーの務めだと言うことを忘れないで欲しい。正直なところ、面白くもない酒のうんちくなどいらないのだ。

バーテンダーになりたい人は、『酒に詳しくなければいけない』などという思い込みはしないでほしい。そんなことよりいろんな情報や文化をインプットし、それを伝えて楽しんでもらえる努力をしてほしい。

酒の話しかできないバーテンダーの店は大体潰れている。それを知ったところで、

『ふーん、そうなんだ』

くらいのリアクションしか得られないだろう。店にニ回来る事はおそらく無い。


私は、自分で経営をやっているので、以前は休まずやった時もあった。

毎日働いていると、体力的にはなんとかなるのだが、日々にメリハリがなくなって、パフォーマンスやクリエイティビティが徐々に落ちてくる。

休みを取ると売上が下がると思い込んで、そのプレッシャーから「休まない」という選択を取ってしまう。


しっかりと休み、冷静な頭で考えてみると売上も客数も無休のときと変わらないことがわかった。休みを取らず、疲れた頭と体でつまらない仕事をするより、しっかり休み、とことん遊び、お客様に自分の持てる100%のベストパフォーマンスで挑む仕事の方が評価される。中途半端な仕事をしてしまえば、それこそお客様が離れてしまうだけだ。長時間ダラダラ仕事するより、短時間でも120%になるような良い仕事を目指してほしい。

そうすれば自然とお客様の評価も上がり、リピート率も上がる。自分の楽しみや趣味などもSNSで発信すれば面白い人だなぁと思われ、会いに来るかもしれない。それが酒のうんちくだけではダメなのだ。


これらの事柄をまとめていくと、結局のところ、休みを休みとして取り、仕事をするときはきっちり働く。ただそれだけなのだ。

それをやり続けていく中で、自分なりの仕事とプライベートの時間のベストバランスを創り上げていって欲しい。

それを毎日微調整していくことと、小さな目標を叶えていくことで、どうしたら昨日より今日の自分になれるのかを考えてほしい。

毎日がベストになっていけば、必ずや長く続けていけるだろう。

どうか、一瞬の栄誉や名声、金儲けに力を注ぎ込みすぎず、長く楽しく好きな仕事をやっていくための工夫を各々考えてほしいと思う。

一瞬の成功があっても、自分が思うところまで続けられなければ、それは志半ばで終わると言うことなのだ。自分や家族を大切にし、長く共に楽しんでいける、そういう仕事にしていかなければならない。

もちろん、私の目標は生涯現役だ。

生涯かけて楽しみながら、自分の文化と言うものを創り上げていきたい。

皆様もそれぞれの文化を作り上げるために、飲食業界の時間のセオリーにはまりすぎず、自分なりの時間配分を考えた無理のない生き方や働き方を創り上げていって欲しい。

今回は、自分の飲食業からの目線ではあったが、どの職業にも言えることではないかと思う。それぞれの職業に当てはめて、これからの時代の生き方や働き方をもう一度よく見つめ直してほしい。きっと、それぞれにとって良い形があるはずだ。

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