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作家のペン No.2

「芹沢光治良記念館」
正式には沼津市芹沢光治良記念館である。


2024年2月に、静岡県沼津市出身の文人芹沢光治良の記念館に行った。
1月に作家池波正太郎ゆかりの記念館を訪れたことが発端となり、色々調べているうちに芹沢光治良の記念館に行き当たり、「この記念館は以前から知っているのに行ったことがない」と気付いた。調べると愛用の筆記用具の展示があると書いてあったので、早速そこを目的に行くことにした。

「記念館を知っていた」と言う始まりは、自分の小学生の頃。
この近隣に療養型の病院があり(今は大きな介護施設になっていた)母方の祖母がその病院へ入退院を繰り返し、何度となくお見舞いに行っていた。そのついでに病院と記念館の間にあった児童公園や、その先の穏やかな海岸で知られる我入道海岸まで足を運ぶこともあったのだが、記念館には全く用がなかったから「知っていた」だけなのだ。

沼津市芹沢光治良記念館入り口
道路側に玄関が向いていない。海風対策なのかも。

正式名称は沼津市芹沢光治良記念館、とプレートに刻まれている。

プレートの貼り直しの跡があるのは、元々建てた(昭和45年/1970年に)ある財団から、平成21年に沼津市に寄贈されたため。
西洋教会をモチーフに鉄筋コンクリートで作られたという外観は重厚なのに、建築時のままの観音開きのドアには何故かレトロな奥ゆかしさを感じてしまった。
そのドアを開けて最初に、大岡信(左)/芹沢光治良(中)/井上靖(右)の名だたる文豪たちの顔写真が目に入るよう立てられた展示ケースが目に入る。順路を確認する前に一気に文学の世界に引き込まれた。

こじんまりと迎え入れてくれる、確実に最初に目線を捉えた展示。

受付のカウンターが特に設置されてなかったので事務室と思しき小部屋にこんにちはと挨拶をしたら、職員さんが出てきて100円の料金支払いの受付と今回の展示への簡単な説明をしてくれた。当館は写真を撮っていいですよ(!)と言われた上に、しおりになりますよと栞カードを頂いた。自分はこういう対応が本当に好きなので、いそいそと栞を鞄の中の本に挟み込んだ。

順路に合わせて展示を見ていくと、当地にゆかりの文豪との交流を見せてくれる。
沼津市政100周年記念としての企画、展名は「沼津ゆかりの文学者たち」。

展示ケースの中に井上靖への直筆の手紙や祝電が展示されている。
神奈川県立神奈川近代文学館も今後行く予定。
この向かって右側が、フランスへの留学が展示されているところ。

この展示で、気になったのは芹沢光治良の留学は本当に自ら進んで行ったという事。どんな思いが強く、芹沢光治良にこの行動をさせたのだろう?勤めていた農業商省とは全く畑違いの貨幣学を学びに、しかもフランスの大学へ。作品や本人談でその部分がなく明確な答えは判明しなかったという事は全作品を読み込む研究者は大変だ、答えを求め続ける。
さらに日本の恩人へ書いた葉書を読むと、光治良は留学の道すがら自らを知識不足であると書いている。謙虚な人だ。この展示で、文学に足を突っ込んでいると思い込み知ったか振りをする自分は小さくてみっともない。また一つ自分を知る。

あれこれ思い巡りながら展示を進んでいくと、とうとう長年愛用したという品々に出会えた。

芹沢光治良用箋の原稿用紙と、使われていた眼鏡やペンの数々。
直筆原稿を見て感じたが、ボールペンを主に使っていた様子。

ボールペンの数々だが、金キャップはもしかしたらショートの万年筆か、と推測。
下は直筆の原稿。暗くてちょっと見えにくいのだが、これは万年筆書きのように見える。

新聞掲載の随筆、直筆原稿。

写真を広げてみると見えると思うが、この直筆原稿用紙は満寿屋製。
その上の白の原稿用紙は芹沢光治良専用など。名前が付くのを初めて見たので、少し気分が上がる。
またこの下の拡大写真はご存じMont Blancのボールペンが写っている。

この写真は御馳走なのだ。

芹沢光治良はボールペンと相性が良かったのだろう。
たくさん使った跡が残っていて、愛用していたことが伺えるのだ。
これだけ使った跡があるのはインクの替え芯が無いと使い込めない、また替え芯がないと使えない。一昔前は、インクが空になったら捨てるという簡易型ボールペンが当たり前だったけれど、作家の仕事ではそうはいかない。しっかりしたボールペンと書いているインクがペン先に溜まらない替え芯の安定供給は最低条件になる。
もしかしたら早書きのペースで、万年筆のインクを手が引き摺ってしまうとか、インクが乾かないうちに原稿を動かして文字が流れるのも煩わしかったのか?
Mont Blancのボールペンは使った事がなくインクについても何も言えないので、今後の幸せな宿題とする。いつとは言えないのが玉に瑕。○マンエン( ꒪⌓꒪)


沼津市はラブライブ!サンシャインの聖地、市をあげて応援しているのでこの記念館に見えるのはご愛嬌(上から3枚目の写真)。芹沢光治良を読むきっかけに。
本屋にない時はぜひ図書館で。

幼い頃からの記憶にこのような展開が待っているとは想像もつかなかった。
これも前回からの「まさか」の連続である。
そして、誰でもその人なりの愛用品があるという事。
万年筆、ボールペン、鉛筆、矢立の筆。
何を使われていてもタイトル「作家のペン」に変わりはないのだから、いろいろ見ようと思う。とても楽しい。これはもう沼になりつつあるライフワークになってきている。

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