Studying Abroad for Nuclear Innovation (SANI) テキサス A&M 大学 2023 年9月~12月

氏名 藤原 悠

留学時の学年 博士後期課程 1 年

所属 大阪大学大学院工学研究科 環境エネルギー工学専攻

留学先国 アメリカ合衆国

留学先大学 テキサス A&M 大学

受入教員名 Dr. John Ford

プログラム名 Studying Abroad for Nuclear Innovation (SANI)

私と同僚のZavier.

受入大学の概要(所在地,創立,規模など)

 テキサスA&M大学(以下, A&M)は,アメリカ・テキサス州のほぼ中心に位置するカレッジステーションに拠点を構える州立大学です.設立は1871年と,テキサス州最古の教育機関です.また,全米で最大の学生数を誇っていて,およそ7万人の学生が在籍しています.また,上級軍事大学としても有名で,全米6校のうちの1校でもあります.A&MはAgricultural and Mechanical の略で,原子力工学も全米でTOP10に入る実績を誇っています.

 その他,A&M 内部には下図に示すアメリカンフットボールのスタジアム,Kyle Field があります.スポーツチームの呼称を「Aggies」と呼び,試合の日には多くの「Aggies Fan」が詰めかけます.

アメリカンフットボールのスタジアム,Kyle Field
実験用原子炉の外観

留学準備

【応募動機】指導教官の先生や博士の先輩からのお話を伺っていて,海外留学には漠然と関心を抱いていました.また,今後のキャリアを考えると,学部時代から一貫して同じ研究テーマに取り組んでいた私は,今後ポスドクとして進路を歩む際に,自身が学んできたことを応用して成果を残せるのだろうかという不安もありました.本プログラムは,アメリカの大学との関係性を一から構築し,共同研究を立ち上げて成果を目指すものでした.博士課程1年というまだ比較的動きやすい期間に,本プログラムを通じて,アメリカの大学との関係性を一から構築し, 共同研究を立ち上げて成果を目指すことができると考え,応募に至りました.

【指導教員の見つけ方】日本の指導教官の先生と相談しつつ,自分の興味関心に従い留学先を決定しました.私は元来より原子力の安全利用に関心があり,日本でもこの目的の下,研究を行っていました.よって,radiation safety という文脈で合致したA&Mの John Ford 先生の元で研究に従事することを希望しました.Ford 先生は2つ返事で快諾下さり,メールでのやり取りを通して計画を作成しました.

【ビザ取得】J1 ビザを取得し留学しました.大まかな流れとしては,大学から DS-2019 という書類を発行してもらい,その後在日米国大使館で面接,ビザ発行という手順を踏みました.DS-2019は,必要書類が大学から届くのでそれに記入することでスムーズに発行されました.要件は各大学によって異なると聞いています.A&Mでは英語スコアの提示 (TOEFL ibt 80 点以上,IELTS 6.0 以上) を求められます.大使館での面接は,予想に反して5分程度で終わり,ビザも1週間程度で発行されました.周りには日本語で面接している人もいたので,そこまで心配せずとも大丈夫だと思います.(それよりも入国審査で地獄を見る羽目になりました...)

所属研究室での研究概要とその経過や成果,課題など

 私が行った研究は,医療用インプラントが放射線治療時に与える影響を評価するというものです.医療用インプラントとは,歯科インプラントや胸部インプラントのようなものを指します.インプラントに使用される材料は通常の組織に比べて密度が高く,放射線の吸収や散乱を起こします.よって,インプラントの有無が放射線治療の際に適切な部位に所定の線量を照射できない原因となります.そこで,インプラントの有無によって線量分布がどのように変化するかをシミュレーション計算によって明らかにすることを目的としました.

 また,近年,放射線医療の分野ではMicrodosimetryという概念が注目されています.これは従来の手法よりも微視的に放射線の挙動を追いかけて治療効果を評価するものです.これは日本で私が行っている研究分野のホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy, BNCT)でも重要な概念として注目されています.A&Mで私の研究の面倒を見てくれたZavierはこのMicrodosimetryについて深く研究していました.よって,このMicrodosimetryを活用して,医療用インプラントがもたらす変化を評価する手法を考案し,共同研究するに至りました.

 Microdosimetryにおける評価は,PHITSやFLUKAといったモンテカルロシミュレーション計算によって計算値を算出,次に組織等価比例計数管(Tissue-Equivalent Proportional Counter, TEPC)によって実際に測定を行い,実験値と計算値の比較によって評価されます.今回の留学期間では,インプラントの有無によってMicrodosimetryの分布に影響をもたらすことをシミュレーション計算によって確認しました.今後共同研究として実験値の算出に取り組む予定です.

所属研究室内外の活動・体験(日常生活・余暇に行った事など)

 普段は朝7時過ぎから17時ごろまでA&Mの研究室でアメリカでの研究活動を行い,帰宅して日本で行っている研究を進めるという生活をしていました.日本での研究もシミュレーションがメインなのでこのような生活が可能でした.食事については,基本的には自炊で,ランチは大学周辺のファストフード店ですませていました.テキサスといえばステーキ(?)なので,お肉ばかり食べていたと思います.

 私が留学していた時期はちょうど College Football のシーズンで,A&M でも隔週に1度のペースでアメフトの試合が行われていました.私も2回ほど足を運び,試合を観戦しました.左下の写真の通り,試合の日には一面が Aggies ファン! タッチダウンの瞬間にスタジアムが熱狂する様子から,アメフトの人気ぶりを肌で感じました.また,試合前日の深夜 12 時から応援練習を行う Aggies ファンのタフさには驚きを隠せませんでした.

 学内での活動としてはその他,私のように J1 ビザを使って入国した留学生の集いがあり,そこで仲良くなったメンバーと毎週のようにカレッジステーション周辺のレストランを巡りました.

 学外では,自分の研究対象である BNCT に治療装置として用いる加速器を製造している Neutron Therapieutics というボストンの会社に連絡をとり,加速器の見学と,自身の研究について発表する機会を頂きました.そこで私と同じプログラムで MIT に留学をされている西尾さんとお会いして交流できたことも良い思い出です.

 テキサス周辺では,ヒューストンの Johnson Space Center やダラスの Fortworth Stockyards 等を訪れ,アメリカの宇宙開発と文明発展の歴史に触れる貴重な経験をさせて頂きました.

アメフト試合中の様子
Johnson Space Center
Fort Worth Stockyards

留学先での住居の種類(寮,ホームステイ等),探し方,申し込み方,ルームメイトなど

 2023年9月~10月 Airbnb

 2023年10月~12月 友人の部屋を間借りし滞在

  今回の留学では,初めの1か月は Airbnb で見つけた場所に滞在し,残りの期間を研究室同僚のZavierの友人が留守にしている部屋を紹介してもらい,そこに滞在していました.その友人は軍隊に所属していて訓練があったため,一人で快適に生活することができました.

 住居に関しては,実際に自分で部屋を見て判断するのが最適だと思います.Airbnb で見つけた部屋に実際に来てみると,部屋がアプリに掲載されている写真と異なっていただけでなく,Wi-Fi が繋がらない等のトラブルに見舞われました.幸運にも私は同僚のZavierが部屋探しに尽力してくれ,彼の友人の部屋を間借りする形で快適に生活することができましたが,それまでは非常に不安な日々を過ごしていました.

 このような事態を防ぐため,留学が決まった時点で所属予定の研究室の学生を紹介してもらいコンタクトをとる,初めは大学周辺のホテルに滞在し部屋探しをする等した方が確実です. 

留学費用

 留学費用は,大まかに以下のような内訳になっています.

 渡航費:45万円

 生活費:15万円/月

 住居費:15万円/月

 海外旅行保険料:4万円

 ビザ申請費:6万円

 プログラムから渡航費,ビザ申請費,奨学金(40万円/月)の支援があり,上記費用を全額賄うことができました.

今回の留学から得られたもの,後輩へのメッセージ,感想,意見,要望

 今回の留学でMicrodosimetryや医療用インプラントという概念を学び,研究を行い,成果を残すというプロセスを経て,新しいテーマに対しても自身の学びを応用して成果を残すことができるという自信を得て帰国することができました.また本留学で深く研究した放射線治療の際に人体にもたらす影響や治療計画の作成に関しては自身の日本での研究とも深く関連しており,その意義を問いただす良いきっかけになりました.加えて,原子力工学分野で用いるシミュレーションコードをあらかた扱うことができるようになったことは,今後のキャリア形成のうえでも非常に良い経験になったと考えます.

 最後に,これは留学全般について言えることだと思いますが,自身の価値観を見つめ直す非常に良いきっかけになったと感じています.アメリカでは日本と異なり,それぞれ育ってきた環境が違うため,今までのものの見方や考え方は一切通用しませんでした.ある時「大学の体育館でフットサルをしよう.20時集合」と言われて20時に体育館に行ったのに,22時になっても誰も来なかったときは,強烈に人の違いを感じました.他者との違いを再認識し,自己理解を深めることができたことは,本留学における一番の財産であると思っています.

帰国前に友人がBBQを開いてくれました.
テキサスは12月でも比較的暖かく快適に過ごすことができます

その他

【留学先で困ったこと】

 前述した入国審査でのトラブルについて,自分の経験をお伝えいたします.私が入国のために取得した J1 ビザには DS-2019 という書類が必要なのですが,同書類に記載された留学開始予定日より1か月以内に入国しなければ自動的に失効してしまうようです.私の実際の入国日が記載されていた留学予定日より1か月を過ぎてしまったため,入国審査の際には別室に連れていかれて約5時間も質問攻めにあう羽目になってしまいました...

 

【帰国後の進路】

 今回の留学を経て海外への関心は益々強くなりました.目下,博士号取得に向けて尽力し,将来は海外の研究機関で働けるよう力を付けたいと思っています.

【その他】

 LinkedinやWebサイトにて日々の活動を発信しておりますので,ご興味ある方はご覧ください.

Linkedin: https://www.linkedin.com/in/yu-fujiwara-045107273/

Web:https://sites.google.com/view/yu-fujiwara/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0

最後に,今回の留学に際して常に親身になって対応して下さった東京工業大学の小原先生,事務局の津田様,A&Mで食事の機会を頂いた片渕先生をはじめ,オンラインで研究相談に乗ってくださった指導教官の村田先生に深い感謝の意を表し,結びとさせて頂きます.

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