Studying Abroad for Nuclear Innovation (SANI) ミシガン大学 2022年12月~2023年3月

氏名:陣場優貴
留学時の学年: 博士課程後期2年
所属:東北大学 工学研究科 量子エネルギー工学専攻
留学先国:アメリカ合衆国
留学先大学:ミシガン大学 原子核工学・放射線科学科
受入教員名:Dr. Fei Gao
プログラム名:Studying Abroad for Nuclear Innovation (SANI2023)

Michigan Unionに掲げられたミシガン大学の旗.

受入大学の概要

ミシガン大学は、デトロイトの国際空港DTWから西に約40kmのAnn Arborにある公立総合大学で、1817年に創立されたアメリカで最も歴史のある研究大学の一つである。街の南北にわたる約315 haの広大な敷地を有し、約48000名の学生と約6700名の教員スタッフが所属している。2022年度の世界大学ランキングでは第24位であり(Times Higher Education)、2019年の米国内の主要研究課程ランキングでは原子力工学部門で第1位を獲得している(US News)。

ミシガン大学で最も歴史ある図書館
Harlan Hatcher Graduate Library.
学科の建物
Cooley Laboratory.
学科の建物
Michigan Memorial Phoenix Project.

留学準備

できるだけ博士研究に関連したテーマに取り組むために、指導教員と相談しながら留学先を決定した。研究室は、SANIプログラムが提示した受入機関一覧から選択した。3か月程の短い期間だったので、日本での研究と組み合わせて成果とすることとし、帰国後も研究を継続できる計画を立てた。プログラムに応募する前に留学先の教授と連絡を取り、留学期間や研究計画について合意を形成した。ビザは交流訪問者ビザ(J1)を取得したが、ミシガン大学の手続き上の遅れで必要書類DS-2019の発行に2か月余を要し、渡航計画に1か月の遅れが生じた。

所属研究室での研究概要

所属研究室では、TiB-TiB2界面の分子動力学シミュレーションを行った。TiB2は、>60 W/m・Kの高い熱伝導率と>3000 °Cの融点を有する高温材料であり、TiBは、その焼結過程で助剤のTiと反応することで生じる反応生成物である。TiB-TiB2複合材料は、他の方法で焼結したTiB2よりも機械的強度特性が優れていることから航空宇宙産業やエネルギー産業での応用が期待されている。しかし、その強度発現機構の理解は進んでおらず、実用化に向けた材料評価には至っていない。そこで、焼結体の強度発現機構を明らかにするため、強度に直接影響を及ぼすTiB-TiB2界面の破壊挙動を分子動力学シミュレーションにより調べた。最初の1か月は計算コードの書き方やスーパーコンピュータの使い方の学習を行い、残りの2か月間でモデルの作成と計算を行った。計算結果は研究室内で共有し、境界条件や考察に対する様々なアドバイスをいただいた。3か月という短い期間ながらも、TiB-TiB2界面の引張り及びせん断変形をシミュレーションできた。今後の課題として、計算精度の向上と実験との比較が残っている。これについては引き続きミシガン大学と共同研究を続けることになっている。

作成した二相界面の分子動力学モデル.

研究室内外の活動・体験

コンピュータを使った研究だったので、計算の待ち時間で新たなコードを作成したり、論文を執筆したりできた。朝9時頃から夕方5時頃まで学校で研究を行い、帰宅後は夕食と翌日の昼食を調理、その後再度研究を行った。外食が特に高かったため、基本的に自炊していた。2週間に1度、所属グループと実験系グループとの合同ミーティングが開催され、私も一度、進捗を発表させていただいた。また、滞在中にフロリダ州で開催された国際会議ICACC2023にて発表を行った。その際には、関連する分野で新たな人脈を形成することもできた。研究室にいる時間以外でも、日本では経験できないような非常に濃密な時間を過ごすことができた。

研究グループの合同ミーティングでは昼食が提供された.
国際会議ICACC2023の会場(フロリダ州).

留学先での住居の種類

2022年11月28日~12月8日:ホテル①
2022年12月8日~2023年1月3日:ホテル②
2023年1月3日~3月1日:ルームシェア(アパート)

渡米から1か月は、インターネットで見つけた比較的安いホテルに滞在し、条件の合う物件を探した。物件探しは、ミシガン大学が運営する物件情報サイトOff-Campus Housing Searchで行った。このサイトには、アパート以外にもルームシェアの募集も掲載されており、条件に沿った物件が出てくるまで粘り強く探した。この他には、Facebookのルームシェア募集グループやCraigslist等の掲示板から探す方法がある。ただし、詐欺のリスクがあるため、契約や支払いは物件を直接確認してから進める必要がある。今回は、学期の切り替わりの時期でもなく、ごく短期間の滞在だったため、よい物件を見つけるのが特に難しかった。幸いにも、1月から3月上旬までの短期滞在の募集を見つけられたので、そこでルームシェアできた。この物件は、寝室とバスルームが自分専用で、キッチンと洗濯が共用だったため、大きな不便等なく滞在できた。

ホテル②の外観
ルームシェアしたアパートの外観
アパートの共有スペース

留学費用

プログラム支援内容:生活費等支援60万円(20万円/月)、国内移動費、往復航空券、ビザ申請費用約5万円
 
一か月あたりの支出 (為替相場128-138円/ドル):$2150-3240
    内訳
        住居費:ホテル 約$2200 / ハウスシェア $1250(外 光熱費 $60-70)
        生活費:通信費 $50、食費他 $600~800
        健康保険料:$190
 
準備費用
    海外旅行保険 約3万円
 
※生活費の参考として、ビザ申請時には$2800/月以上の安定した収入若しくは貯蓄の証明を求められた。

今回の留学から得られたもの

本留学で研究に関する新たな視点が得られ、自身の研究姿勢を顧みることができた。これまでの研究では粉末焼結等の実験を主に行っていたため、スーパーコンピュータを使ってシミュレーションを行うのは初めてだった。本留学は、計算コードの作成やCUIによるコンピュータ操作に加え、これまで曖昧だった固体物理などの基礎知識を改めて勉強する良い機会となった。また、学生と先生の距離感も近く、場所を顧みず積極的に質問を投げかけている光景は特に印象的であった。デスクの周りでは他グループの大学院生が頻繁にディスカッションしており、留学前とは大きく異なる研究環境に大変良い刺激を受けた。
生活面では、言葉や文化が全く異なるアメリカで過ごしたことで、わからないことは何でも聞く姿勢を身に着けることができた。自分一人でのアメリカ生活は困難が多く、人間力や生活力が試されるような瞬間が多々あった。ホテルを転々としながらアパートを探していた時期は特に厳しかったが、振り返ってみるとよい経験だったと思う。これまでは、「常識」や「周りの雰囲気」でうやむやにしていたことも米国では全く通用しないので、わからないことは質問したり話し合ったりすることが癖づいたように思う。このほかにも、見知らぬ人に親切に接する文化やチップ文化など、アメリカならではの様々な経験を積むことができた。
最後に、これらのかけがえのない経験をさせていただいたことについて、東京工業大学の小原 徹先生、久須美 文様ならびにNICP関係者の皆様に深く感謝の意を表する。また、3か月の間、私を受け入れてくださったミシガン大学のDr. Fei GaoとYuhao Wang氏、同研究グループの皆様に厚く御礼を申し上げる。

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