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奴らと製薬会社様と私

ゴキブリが嫌いです。

電車が2時間に1本しかないような、どこに出しても恥ずかしくない田舎で生まれ育った私にとって虫の侵略は日常茶飯事だったもので、たいていの虫に耐性があると自負しています。
ときどき自室を訪問してくるアシナガグモやら得体のしれない虫やらを自ら排除していたので、よっぽどヤバそうな外見(色が派手とか足がいっぱいあるとか)でなければ、触れることに抵抗もありません。

でもゴキブリは別。
幸か不幸か、そもそも東京に出てくるまでゴキブリを見たことがありませんでした。
家族が「部屋に出た」と大騒ぎしていたり、学校に出現したゴキブリを見て女子たちがキャーキャーしているところを見たことはあるが、直接この目で姿を見た経験はゼロ。
だから、という訳ではないんですが、ゴキブリが嫌いです。
というか怖い。
だいたいの虫はやや冷静に対処できるのに、ゴキブリ(打つのが嫌になってきたから「奴ら」と呼ぶことにする)は駄目。全然無理。奴らが視界に入ってから認識するまで若干のタイムラグが生じるんですけど、あれは奴らを認識すると正気度が下がるので、防衛機制として脳みそがいったん停止するのだと思う。そのくらい怖い。

というわけでゴキジェットの購入を決めました。
東京に出てきてウン年間、野外で奴らを目撃したことはあっても部屋に出たことは数えるほどしかないのが災いして、奴らを排除する武器の準備を怠っていました。なんせ人間は忘れる生き物なので、出た直後は眠れない一夜を過ごしても、2日も経てばきれいさっぱり忘れてしまうものです。しかもそれが数年に一度の邂逅なら、恐怖が喉元を過ぎても致し方ないってもんでしょう。
しかし最近そうも言っていられないくらいのっぴきならない状況になりました。先日ベランダに成体が出現し、翌朝なんとリビングの壁に幼体がくっついていたのです。
これはいけない。出現するペースが何故か上がっている。このまま夏を迎えるのはあまりにもまずい。

幼体を発見した日の夜、私は仕事をそこそこに切り上げ、自転車を近所のドラッグストアへ走らせました。
思い返せば、自ら殺虫剤を買ったことなど人生で一度もありません。侵入してきた虫は己が力のみで排除するストロングスタイルを貫いてきたからです。自転車を漕ぎながら、もとめるものは購入できるのか、めちゃくちゃ不安でした。

結論から言うと杞憂だったんですけどね。
店に一歩入ったすぐ正面、嫌でも目につくその位置に殺虫剤の特設コーナーがありました。需要の高さが察せられますね。東京の人たちはどれだけ奴らに悩まされているんでしょう?私もその1人なんですけど。
害虫に悩まされる春先の都会人たちに思いを馳せつつ、殺虫剤の種類の多さに驚きました。奴ら用だけでもスプレータイプ、置型合わせて10種類程ある。小バエや蜂用もそれぞれ3種類ずつくらい。こんなところで人類の叡智を感じたくないんだけど。
悩みに悩んだ末、これを買いました。

「秒殺」が頼もしい



スプレータイプといえば、出現した奴らに直接吹きかけて撃退する言わば白兵戦用の印象が強いんですが、これは気になるところに撒いておくだけで奴らの侵入を防ぐらしいです。奴らと相対すると一瞬フリーズしてしまう骨無しチキンのお客様こと私にとって、そもそも奴らと戦わなくて済むというのは有難い。
という訳で早速ベランダに撒いてみました。室外機のホースも奴らの侵入口になるという話なので、そこにもとりあえずふきかけておきました。
こまめに撒き直しながら1年ほど経ちましたが、奴らを室内どころかベランダで見かけることは全く無くなりました。素晴らしい!効果覿面とはこのことです。

殺虫剤を主に製造している某社では、入社説明会で大量の奴らの画像を見せると聞いたことがあります。(現在は違ったらすみません)
奴らへの効果的な武器を開発するのだから、その生態を詳らかに知っていなくてはならないでしょう。我々の平穏な生活を奴らの脅威から守る為、見るもおぞましい奴らと日夜向き合い、ほぼ毎日顔を合わせている製薬会社の皆様には頭が上がりません。
現代人たる我々の日常は、そうした誰かの努力によって支えられています。些細なことではありますが、人類の叡智と、どこの誰かも知らない人の努力に感謝しています。
殺虫剤を開発している皆様、いつもありがとうございます。お陰様で平穏無事に生活を送っております。お仕事たいへんかと存じますが、これからもよろしくお願い致します。

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