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臨床推論 Case69

Am J Case Rep, 2024; 25: e942264


【症例】
89歳 男性

【既往】
GERD 前立腺肥大症
COPD:在宅酸素療法を受けている
認知症:3年前に診断され、徐々に悪化している

【主訴】
意識障害

【現病歴/現症】
⚫︎ 元はADL自立でコミュニケーションを良好に取れる患者

⚫︎ 来院二日前から興奮、幻覚、尿失禁を認めて受診された
⚫︎ 発熱、咳嗽、下痢など全身症状はない
⚫︎ ベースに呼吸苦はあるが、悪化はしていない

⚫︎ 入院時BT36.6 HR78 RR20 Sp99%
⚫︎ 錯乱しており見当識障害あり
⚫︎ 診察や血液検査では明らかな異常なし

⚫︎ 頭部CTでは慢性の前頭葉の脳軟化を認めるが以前のものと比較して著変なし

⚫︎ 腹部CTでは便秘と尿閉を認めた

⚫︎ CT後に導尿され1000mLの尿を認めた
⚫︎ 血管型認知症と暫定診断され、さらなる原因検索のため入院となった

⚫︎ 入院2日目 神経症状の改善なし
⚫︎ バルプロ酸、クエチアピンで対応したが改善なし

⚫︎ 看護師から無尿を指摘されたためバルーンを留置したところ1100mL認めた
⚫︎ その後著しく精神状態は改善し、家族のことを認識し、会話できるようになった
⚫︎ 泌尿器科に相談し、便秘による尿閉と考えられ下剤を調整された

⚫︎ しかし下剤に便秘は反応せず尿量は低下し、再度錯乱状態になった
⚫︎ Xpは以下の通り

⚫︎ 家族と相談し、これ以上の介入はせずホスピスへの移行を検討された
⚫︎ 退院後に排便と排尿があり、元のベースの状態まで戻った
⚫︎ 2-3日に一回排便あり、尿も出ており、意識障害なく経過している

What’s your diagnosis ?








【診断】
急性尿閉によるせん妄 Cystocerebral Syndrome

【考察】
⚫︎ Cystocerebral Syndromeは急性の尿閉によって引き起こされる高齢者のせん妄を表す用語である
⚫︎ 興奮、錯乱、せん妄、反応低下などをきたす
⚫︎ おそらき膀胱からのカテコラミンがせん妄を引き起こすのではないかと推察されている
⚫︎ 尿閉は前立腺肥大症、便秘症、糖尿病などで生じる
⚫︎ この患者は便秘が尿閉を引き起こし、尿閉になると錯乱状態になった
⚫︎ しかも導入したバルプロ酸や抗精神病薬により尿閉が助長された可能性までもある

⚫︎ 尿閉による意識障害の文献レビュー(Cureus. 2020 Oct 19;12(10):e11034.)


⚫︎ ほとんどの症例はバルーン留置後2-3時間で改善し、一番早いもので15分という報告あり
⚫︎ 前立腺、膀胱に対する薬で対処されたものや間欠的自己導尿を指示された患者もいる

⚫︎ 意識障害は色々な病気が原因になるが急性尿閉も鑑別に挙げる必要がある


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