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Snap diagnosis* Case 7

Radiol Case Rep. 2024 May 24;19(5):2062-2066.

【症例】
78歳男性の術後患者

【現病歴】
■ 最近左股関節Girdlestone関節形成術後に息切れと左膝後部痛が出現し来院された.
■ もともと慢性的な左人工股関節感染があり, 抗生剤や穿刺など対応していたが改善しなかった. そのためGirdlestone手術を実施し股関節人工物と隣接する感染骨を取り除いた.

【現症】
■ 既往歴として, 虚血性心疾患, 心不全, 発作性心房細動, COPD, 末梢血管疾患がある.
■ 胸痛や喀血はなし.
■ 診察:両側膝まで左側有意の浮腫を認めた. 心雑音やラ音なし. 点状出血は認めず.
■ バイタル:血圧157/90mmHg, 心拍数67bpm, 呼吸数15回/分, SpO2 90%(RA), GCS 15/15, 体温36.7℃, レベルクリア.
■ 血液:血算, 腎機能, 肝機能正常. NT-ProBNP 8703ng/L(<300), 高感度トロポニン9ng/L(<5), CRP 26(<5)であった.
■ Xp:両側少量胸水とバタフライシャドウあり.
■ 下肢静脈エコー:左大腿近位静脈内に約1.5cmの非閉塞性の慢性的な血栓と, 伏在静脈に7.5cmのの急性血栓を認めた.
■ 造影CTは上記画像の通りであった.

What's your diagnosis ?








【診断】
脂肪塞栓症

【診断】
■ CTPA検査で左上葉肺動脈の区域枝と右上葉の亜区域動脈内に充満欠損を認めた. CT値は左上葉-63.5HU, 右上葉で-60HU で脂肪塞栓症に適合していた.
■ 利尿薬と対症療法で治療された.下肢の血栓に対してエドキサバン投与して下腿浮腫は改善した. ■ 患者は5週間後に院外のリハビリ病院に転院した.

【考察】
■ 肺塞栓は血栓が大半である. その他の原因に空気塞栓症, セメント塞栓症, 異物, 感染性, 腫瘍塞栓, 包虫, 脂肪塞栓症などがある. 脂肪塞栓症の大部分の症例は長管骨骨折やインプラントを用いた整形外科手術後の微小な脂肪によるものである.
■ 通常の微小な脂肪塞栓症は基本は肺動脈に異常を認めないので画像的診断はできない. 画像で映る脂肪塞栓症は極めてまれ. 本症例では肺動脈欠損部位のHU減衰を測定して診断している.
■ 脂肪塞栓症は長管骨骨折や整形外科手術後の髄内脂肪の破壊によって生じる. 微小な脂肪滴は長管骨骨折患者のほぼ全例で血液や尿中に検出されるが, 臨床症状を呈するのはごく一部である. 広範な脂肪塞栓症は低酸素血症, 意識混濁, 点状出血に基づいて臨床診断する.

Respiratory Medicine 113 (2016) 93e100

■ 病態生理学は毛細血管に脂肪粒子がつまる機械的閉塞と換気血流不均等, および脂肪酸による肺胞への炎症性損傷とARDSの組み合わせに関連しているようである.
■ 肺血管の脂肪をCTで可視化することによって診断するのは稀である。. 本症例では肺動脈内に脂肪に矛盾しないCT値(-63.5HUと-60HU)であったため肺脂肪塞栓症と確実に診断された. 脂肪は通常-50HUから-150HUである. 急性肺血栓は33 HU (95% confidence intervals 26-41 HU), 慢性の肺血栓は87HU (95% confidence intervals 66-107 HU)である.
■ 腎細胞癌, 肝細胞癌, 脂肪肉腫など脂肪を含む腫瘍が肺に転移する可能性があるが, 患者には原発腫瘍の既往はない. 転移性疾患は通常, 本症例のような長い管腔内欠損としてではなく肺結節として発症する.
■ 脂肪塞栓症の所見は非特異的で肺水腫, 感染症, 誤嚥と区別がつかない. 脂肪塞栓症におけるCT所見も非特異的で斑状のすりガラス状陰影と浸潤影, 小さな小葉中心性結節などである.

Respiratory Medicine 113 (2016) 93e100

■ この症例はDVTと肺脂肪塞栓症と重複していたので抗凝固療法が行われた. しかし脂肪塞栓症単独の場合, エビデンスがなく, 出血のリスク, 遊離脂肪酸の産生により理論上は増悪しうる. そのためヘパリンのルーチンでの使用は推奨されない. 血栓性肺塞栓症よりも肺脂肪塞栓症と診断することで抗凝固療法の長期投与に伴うリスクを回避できる可能性がある. 特に術後の患者では出血リスクが高い.
■ 脂肪塞栓症の治療は主に支持療法であり大部分の患者は1~2週間で回復する.

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